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天気予報はあたらない

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 駅前は、花火大会の縁日で賑わっていた。地元の駅から近くの一級河川に向かう通りは、花火大会の会場へ向かう客であふれていた。普段は味気ない街のメインストリートでも今日ばかりは活気づいて見える。外に出たのはいいものの、特にすることもなかったので時間をつぶそうと、その流れに逆行するように駅へと向かっていく。すれ違う人々はみな笑顔で、一人で歩いている自分はとても場違いに感じた。

 ――それにしても、いい天気だな。

 外に出てみれば昨日の悲観的な予報はなんだったのかと改めて感じさせるほど、晴れ渡っていた。昨日の浩二の拗ねた顔を思い出すたびになんか切なくなるのと同時に、笑いがこみあげてくる。

 そりゃそうだ。昨日までは天気予報の当たり外れごときでこんなに気持ちを揺さぶられるなんて思ってもみなかったのだ。いつもだったら、天気の変化は仕方のないことだと諦めて、それを受容するように自分を戒めてきた。それがどうだろう。今日はなぜか、晴れてしまったことがとてつもなく嬉しくて仕方がない。

 「あ、ケーちゃんだぁ。」

 駅に着いた時、目の前にクラスメイトがいたと思った瞬間に向こうも気づいたらしく、話しかけながらこちらに近づいてきた。

 「ヨーコじゃん。何してんの。」

 花火大会に来ていることはわかりきっていたが、とりあえず社交辞令なので聞いておくことにする。目の前の女子の名前は木崎陽子でクラスの中心的位置を担う女子である。何を隠そう、俺を白雪姫に推薦したのもこいつである。

 「何してんのって、見りゃわかるじゃん。は・な・び。」

 そういうとお気に入りなのかはわからないが自信があると思われる浴衣姿をちらつかせる。少しかわいこぶった花火の言い方が癪に障ったが、面白い成分のほうが多く含まれているような気がしたので、気にせず会話を続ける。

 「そりゃそうか、ってか初めからわかってたし。」
 「はいはい、分かったって。それでさ、これ似合うかな。」
 「似合ってるんじゃね。」
 「やっぱり。」
 「あ、ごめん嘘。」
 「ひどっ。」

 いつも通りの会話をする。陽子はわりと話しやすい女子で、男子からもウケがいい。きっとクラスの中でも陽子の事を好いてるやつは多いだろう。

 「それで、待ち合わせなん。」

 ひとりで浴衣を着て花火大会など変だと思っていたので聞いてみる。

 「そうなんだよね、あたしだけ先についちゃって。」
 「あと誰来るん。」

 別に誰が来ようが自分が行くわけじゃなかったのでどうでもよかったが、なんとなく気になったので聞いてみた。

 「えっとね、あとは由香とにっしー。本当はたかやんも来る予定だったんだけど、来られなくなっちゃって。」
 「ふーん。」

 あとは誰がくるのかと聞いただけなのに、来られなくなった人の情報まで手に入れてしまった。来る予定の平田由香はクラスのお姫さまな存在で、言動から何もかもがふわふわとしている女の子である。『にっしー』こと西野雄太と『たかやん』こと望月隆也はクラスでもよくふざけあっているコンビで俺たちともわりと仲のいい二人だ。そんな基本情報を確認している間に、聞いてもいない事実がどんどん陽子の口からあふれていく。

 「ほんとはさ、今日、由香とにっしーの初デートだったんだよね。あたしいるけど。」
 「嘘っ。あいつら、付き合ってたん。」
 「え、知らなかったの。クラスであんなにいじられてたのに。」

 陽子の信じられないという口ぶりに、そういえばそういうことが学園祭の後の教室で繰り広げられていたことをかすかに思い出す。

 「あ、そうだったわ、確か。」
 「あ、そうだったって、あんなインパクトあったのに忘れるとか、マジないわー。」

 陽子が嘲る。由香と雄太は言ってみれば系統が違う。かたやバリバリの野球少年かと思えば、かたや野球のルールさえ分からないであろう緩い少女なのである。そんな接点がないと思われた二人が付き合ったというニュースは一瞬にしてクラスを駆け巡っていたはずだ。

 ただ、あの時は俊二の事で頭が一杯だったのだ。だから、きっとこのことも右から左へいらない情報として受け流してしまったのであろう。

 「ま、いいや。でね、二人っきりじゃ恥ずかしいからって、あたしとたかやんが呼ばれたんだけどさ、たかやん風邪ひいちゃたみたいで。」

 付き合っているのに、恥ずかしいとはなんなのだ、と思ったが隆也も隆也だ。俺は、隆也が陽子の事を好きな事くらいは知っている。いわゆる修学旅行の夜の暴露大会で言っていたのを聞いたのだ。あの時、自分は俊二の部活のマネージャーをしていた、一つ年上の安田先輩の名を確か挙げたはずだ。正直言って、そうそう都合よく好きな人なんてできるはずがなかったのだが、こういう場でいないというのはあまりにも空気が読めていないとバカにされるので、無理やりひねり出した結果である。我ながらとても微妙なラインを選べたと思う。これを言ったからといって相手は先輩なので修学旅行中のこの先の日程で、変にけしかけられる事も無いし、かといって、安田先輩とは俊二を介して何度か遊んだこともあったし、全然面識がないわけではないから、嘘かなんて正直分からないところである。また、当の安田先輩は美人なことでも有名だったので、その場にいた誰にもイメージがしやすく、盛り上がるには丁度良かった。そういえば、俊二はうまい身のこなし方でうやむやにしていたっけ。

 ここからは俺の推測だが、おそらく、このデートで隆也と陽子を二人っきりにする予定だったのだろう。隆也が陽子に好意を寄せていたことは雄太は知ってるはずだ。そこで、なかなか進展しない隆也の思いを成就させてやろうとする、雄太の友達思いによるものであろう。陽子はもちろんだが隆也はこのプランをおそらく知らないのだろう。知っていたら少しくらい体調が悪くとも来たはずだ。

 こういうとき、どうしても俺は思ってしまう。果たして、これはいいお節介なのか、と。
 陽子の気持ちは分からないのだ。もしかしたら良い結果が返ってきて、二人に感謝する状況に成り得るかもしれないし、逆のパターンだってある。むしろ、そちらのリスクのほうが大きいはずだ。なのに、なぜ、人は気持ちを動かそうとするのだろう。

 変えられるはずのない他人の気持ちに踊らされるくらいなら諦めてしまって、変えられる自分の気持ちをどうにかする。

 そういう風にして、いままで俺はどうしようもない気持ちをなんとかしてきた。自分のやりたい事や、大好きのもの、いろいろなものを仕方がないものだとして、すべて受け入れてきた。
 今回の俊二のことだって、自分の気持ちさえ変えてしまえばなんとかなるはずなのだ。だから、自分がもしこんなお節介を受けたとしたら、それは不要なものだと突っぱねてしまうだろう。

 「仕方ない奴だなぁ。」
 「ほんと、たかやん残念だよねぇ。」
 「笑ってやるなって。」
 「だってしょうがないじゃん。たかやんってばいっつもこんな感じだし、相変わらずミスター残念だからさ。」

 人の不幸を心配するでもなくケラケラと笑う姿に、陽子は隆也に対しておそらく脈はないだろうと感じる。
作品名:天気予報はあたらない 作家名:雨来堂