天気予報はあたらない
最後の場面が始まった。
暗闇から一転、光が差し込み、おれとケータの、二人っきりのラストシーンが始まる。
「おお、なんて美しいのか」
きれいに着飾ったケータは本当にきれいだと思う。こうしていれば本当の女の子の様で、素直に姫と呼べる。そう思いながらも、気を引き締める。
おれは、いまから賭けにでる。二人がこのまま幼馴染でいるための。
おれが、ケータのことを幼馴染としか思っていないということの証明を。いまここで、確認するのだ。
「いまからお前をこのキスで目覚めさせてやろう。」
ゆっくりと、唇を落とす。
すぐに、変な感情が体中を支配していく。それは、嫌悪感ではなくて、自分の感情に気付けなかった罪悪感ばかりで、とたんに気持ちが悪くなる。
なんでだよ。
おれは、いつからケータのことを愛していたんだ。
なんでだよ。
いますぐ、抱きしめたいとか、違うだろ。
なんでだよ。
もう一回、したいなんて、変態かおれは。
――おれたちは、幼馴染じゃなかったのかよ。
動揺を隠せないままに、劇は進行していた。ケータのセリフが聞こえてくる。
「おお、なんて、愛のこもったキスなのでしょう。」
なぜ、ケータは泣いている。
「この溢れる愛のおかげで、私は幸せな気持ちで満たされたのだ。」
なんでそんな悲しそうな顔をする。おれが、幼馴染を壊してしまったからか。
「現代医療でもかなわなかった、私を愛が目覚めさせてくれたのだ。」
おれは、どんな顔をしている。お前には伝わってしまったのか。おれが、ケータのことをどう思っているのかを。
「私と結婚してくださいませんか。」
「はいよろこんで。」
これは、ただのセリフだ。こんなことがあってはいけない。
だっておれたちは幼馴染なのだから。
作品名:天気予報はあたらない 作家名:雨来堂