【第四回】わき道・寄り道・帰り道
「…めんね」
薄朱の髪に黒い布を微妙な巻き方で頭に巻いた少年(?)が眠そうな目で悠助を見ている
「…誰…?」
目をごしごしこすって悠助が聞くと薄朱の髪の少年は自分の服の袖で悠助の鼻水を拭いた
「…いたか」
「いたか…?」
ボソッと言った薄朱髪の少年の言葉を悠助が繰り返すと少年がコクリと頷いた
「いたか…さん?」
悠助が言い直すとまた少年が頷いた
「…いたか…」
再びまた悠助が口に出すとまたまた少年が頷く
「…タカちゃんってよんでいい?」
悠助が聞くと【たかちゃん】はまた頷いた
「…僕に何か用?」
「…ょっと…一発叩いてくれない?」
タカちゃんが自分の顔を指差して言った
「…きおいよく、ばしっと」
今度は手をぶんぶん振って叩く真似をする
「…え? なんで…?」
いきなり自分を叩けといってきたタカちゃんにきょとんとして悠助が聞いた
「ちゃう…?」
「…ちゃうから」
さっきからタカちゃんの話し方はどこかおかしく喋り出しの最初の一言が聞き取れないくらい小さく悠助も首をかしげる
「…たら駄目なんだよ僕は…」
悠助が困った様にタカちゃんを見つめる
「…にかく…叩いてくれない?」
タカちゃんがまた手をブンブン振って叩く真似をする
「う…ん…」
悠助は躊躇いがちに頷くとぎゅっと目を瞑って手を思い切り振り上げた
「痛かった? 痛かった?」
悠助に思い切り叩かれた右頬をさすってタカちゃんがコクリと頷いた
「…も覚めたから」
心配そうに何度も聞いてくる悠助にタカちゃんが笑顔を返した
「…くが頼んだんだから気にしないで」
「ぅわ」
ひょいと悠助を抱き上げタカちゃんは
「…りがと」
と言った
「…まえは?」
「え?」
最初の出だしの一言がやはり聞き取れず悠助が首をかしげる
「…みの名前。何?」
どうやら悠助の名前を知りたいらしいということがなんとかわかった
悠助が自分を『僕?』と指差しながらタカちゃんを見るとコクリと頷いた
「僕は栄野悠助だよ」
悠助がにっこり笑って名前を言うとタカちゃんが一瞬止まって何か考え
「…みが? …いの悠助?」
少し驚いたように聞いた
「? うんそうだよ? 悠助だよ?」
タカちゃんの微妙な表情の変化に悠助が首をかしげると傘が『ゴッ』とタカちゃんに当たった
タカちゃんが悠助を下におろして傘の刺さった額を撫でる
「…っか…じゃあこの辺にいるのかな」
額を撫でながらタカちゃんがボソッと呟いた
「タカちゃん誰か探してるの?」
悠助がタカちゃんを見上げ聞く
「…ん、僕の相方みたいなものなんだけどね…いきんよく出かけるから」
タカちゃんが悠助の傘をつつきながら言った
「この辺に来てるの?」
悠助が聞くとタカちゃんがコクリと頷いて
「…いの兄弟がどうのって言ってたし…みが栄野なら君の近くにいると思う」
タカちゃんが傘の皮の部分を摘んで引っ張る
「僕は栄野悠助だけど…」
悠助が周りをぐるっと見渡すと傘がタカちゃんに何度か当たった
「僕の近くにはタカちゃんしかいないみたいだよ?」
傘が当たった腹部をさすりながらタカちゃんも周りを見る
「…んそうみたいだね」
納得してタカちゃんはコクリと頷き悠助を見た
「…こいったんだろ」
フゥと溜息をついてタカちゃんが再び傘をつついた
作品名:【第四回】わき道・寄り道・帰り道 作家名:島原あゆむ