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島原あゆむ
島原あゆむ
novelistID. 27645
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【第三回・四 】学び舎の誘惑

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「…宮津さんが好きなんだっちゃね…だから泣いたんだっちゃ…」
緊那羅がフルートに口をつけ息を吹き込むと優しい音色が風に乗った
何という曲なのかはわからない
でも優しく懐かしく温かい…
京助は前に縁側で緊那羅が歌っていた歌を思い出していた
「…きれい…」
宮津が呟いた
緊那羅がフルートから口を離し宮津に笑いかける

「宮津さんに笑ってほしいっていうこの笛の気持ちの音だっちゃ」
「え…?」
緊那羅からフルートを受け取ると宮津はフルートをじっと見た
「ずっと一緒だったんだっちゃね。この笛とは」
緊那羅(きんなら)の言葉に宮津が顔を上げて緊那羅を見、泣き出しそうな顔をした
「…そう…一年のときからずっと…コンクールも吹奏楽祭も行事も…ずっと一緒で…私…音楽やめたくない…」
フルートを握り締めた手を額につけて宮津が泣き出した
「この文化祭で終わりなんて私…っ…」
「やめなきゃいいじゃん」
宮津の言葉に京助がさらりと返した
「好きなこと やらんでどうする いつするの」
京助が腰に手を当てて5・7・5で即席俳句を詠んだ
「あ、最後と最初逆でも可。…好きなら続ければいいじゃん」
「簡単に言わないで!!」
京助に宮津が怒鳴った
「私だって続けられるものなら続けたい! でもどうしようもないんだよ!!」
「続けたいなら続けろよ!! 好きなんだろ? すっげぇ好きなんだろ!!? 自分の好きな事なんだろ!!? 父さん母さんが何なんだよ!! どうしょうもないって何だよ!! そんなん逃げてるだけじゃん! 泣くだけ好きなら続ければいいだろ!?」
むきになって怒鳴り返す京助を緊那羅が押しのけて宮津と向き合った
「宮津さんは…」
真剣な顔で宮津を見る
「何を思って音を出すっちゃ?」
「え…?」
緊那羅が宮津に聞いた
「何をって…?」
宮津が聞いた
「何を思ってその笛と一緒に奏でてきたっちゃ?」
緊那羅が宮津の持っているフルートを撫でた

「私…」
宮津が答えに困って俯く
「私はさっき京助たちを思って吹いたっちゃ」
緊那羅が笑う
「俺かよ;」
そこに京助が突っ込む
「音は奏でる人の思いをそのまま届けるんだっちゃ。さっき…さっき宮津さんの音は泣いていたっちゃ…そして笛も。宮津さんが音楽好きなようにこの笛も宮津さんが好きなんだっちゃ」
宮津の手からそっとフルートを抜き取ると緊那羅はフルートを額につけた
「…思いを乗せてない音なんてないんだっちゃ。悲しい気持ちで奏でれば悲しい気持ちが伝わるし、嬉しい気持ちで奏でればそれが伝わるんだっちゃ。…私は進路…? ってよくわからないっちゃけど…」
緊那羅がフルートを優しい目で見る
「…好きなことはやめられないってことはわかるっちゃ。たとえ何があっても」
宮津が顔を上げると緊那羅が微笑んだ
「そーそー…結局はそうなるんだからやめるとか考えるのは時間の無駄なんだよな」
京助が溜息混じりに言う
「だから俺はやりたいことは、好きなことはやる!!」
「…みんながみんな京助みたいな性格じゃないんだっちゃ;」
宮津に指を突きつけて主張する京助に緊那羅が突っ込んだ
「…やりたいことは…やる…」
宮津が京助の言葉を繰り返す
「…宮津さんのやりたいことは?」
緊那羅が宮津に聞くと宮津が手を伸ばした
「…吹きたい…音楽やりたい…私…」
宮津が真っ直ぐ緊那羅を見て言った
「やっちゃえ」
京助が言うと緊那羅が宮津にフルートを渡した
「うん! やっちゃう!!」
フルートを受け取り宮津が満面の笑みで京助に返事をすると緊那羅、京助も笑った
「そうだよね…好きなんだもの…好きで好きで。だから悩んでたんだもんね…やめられないから…」
宮津がフルートを口にあて息を吹き込んだ
「…なぁ」
京助が緊那羅に声をかけた
「今この音…泣いてるんか?」
楽しそうにフルートを吹き続ける宮津を見て緊那羅は
「ううん」
と嬉しそうに笑った