【第三回・四 】学び舎の誘惑
「……似合うなお前」
早朝…といっても一般の通学タイムに珍しく京助の姿が玄関にあった
「…嬉しくないっちゃ…;」
重い足取りで玄関から緊那羅…いや金名羊子が出てきた
悠助に編まれた三つ編みが制服とマッチしている
ヒマ子に見つかるとまた色々厄介だということでそっと家を後にする
「…スースーするっちゃ;」
まだ日中は残暑が厳しいとはいえ朝方は結構冷える
「まぁ普段は着ないからな…そのうち慣れてくるって」
「慣れたくないっちゃ;」
はぁとため息をついて緊那羅が項垂れる
「でも学校行きたかったならよかったじゃん。なにはともあれさ」
京助が慰め (?)の言葉をかける
信号待ちをしているとき微かに坂田の声が聞こえた
道路を挟んで向こう側の左方向から坂田が南の自転車を漕いでくるのが見えた
坂田の後ろには横すわりで南…アサクラ・南が乗ってこっちに向かって手を振っている
「ヨッ!! ご両人-----!!」
南が叫んだ
「やかましい!!!;」
京助が叫び返す
信号が青になりやや小走りで京助と緊那羅が道路を渡り坂田と南と合流する
「よっす」
坂田が自転車を両足で支えながら片手を挙げた
「早ぇじゃん」
京助が坂田の上げた手をたたいて言った
「はぁい羊子」
南が自転車から降りて緊那羅に抱きついた
それを横目で見て坂田と京助は
「はたから見ればほほえましいこの光景も実は結構しょっぱいよな…色々と」
「実際は男同士だしな…しょっぱいよな」
といって頷く
【解説しよう。しょっぱいとは男女がイチャイチャすることを甘いというように男同士で仲良くしている様を表現する用語である】
左から坂田、南、緊那羅、京助と並んで学校に向かう
「中島は?」
ふと思い出したように京助が坂田に聞いた
「アイツ大道具だから先に行ってるぞ。朝一緒に一回学校来てコレに着替えたんだ」
南がコレとスカートの裾を持った
「あまりにも臭かったんで坂田宅でファブってきた」
南が手でファブリーズを吹きかける真似をした
「組員さん大騒ぎで面白かったぞー若の彼女がきた-----とか」
南がケラケラ笑うと坂田がどついた
「ひっどーぉい!!」
「ご愁傷様だな坂田…。緊那羅?」
さっきからやけに静かな緊那羅に京助が声をかける
「あ…何だっちゃ?」
名前を呼ばれて緊那羅が顔を上げた
「何か妙に静かだから…なしたん?」
京助の言葉で坂田と南も緊那羅を見る
「いや…別…うわぁッ!;」
緊那羅のスカートを南が捲った
「うーん…青か」
南が顎に手を当てて呟いた
「な…何するっちゃッ!!;」
真っ赤な顔でスカートを押さえながら緊那羅が声を上げた
周りにいた何人かの男子が足を止めている
「やだもう羊子ったら京助の前だからってかわいこぶっちゃって」
えいっと可愛らしくしかしかなりの力を込めて南が緊那羅を京助に押し付ける
「のゎツ!;」
緊那羅を押し付けられて京助がよろけた
「…実にしょっぱい光景だ…;」
坂田がそれを見て呟くと
「坂田~私も羊子と京助みたいにラブラブしたぁいvV」
と南が坂田の腕に抱き付いてきた
「…やめい;」
坂田が南の足を蹴った
「いつも通りのキンナラムちゃんでいいんだよ」
南が緊那羅に向かって笑った
「そーそー…着る物変わったって中身変わったわけじゃねぇんだし」
京助が緊那羅の肩をつかんで離しながら言う
「で、余裕が出来たら俺みたく遊んでみるとか」
南が再度坂田に抱きつく
「遊ぶな;」
そして肘鉄を食らう
「たった一日の体験入学なんだし…楽しくいこうぜ楽しく」
坂田が笑った
「格好はどうあれな。楽しく楽しく」
京助も笑う
「…楽しく…そう…だっちゃね」
つられたのか緊那羅も笑った
「にしても羊子…青のパンツはいただけないわ。今日みたいに特別な日はとっておきの下着つけないと駄目なの!! 女の子は!!」
「っきゃ…;」
南が緊那羅のスカートを再度捲った
「…今緊那羅きゃぁって言ったよな」
坂田が呟いた
「あぁ…」
京助もそれに呟くように返す
そして意味の深そうな沈黙をする二人
「…しょっぱいな…」
京助がまた呟いた
「俺らもな…」
坂田が遠い目で返した
作品名:【第三回・四 】学び舎の誘惑 作家名:島原あゆむ