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島原あゆむ
島原あゆむ
novelistID. 27645
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【第三回・四 】学び舎の誘惑

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南が家に戻ると栄野家を出て行ってから20分
「…そろそろ南帰ってくるんじゃね?」
坂田が携帯の時計を見て言った
ヒマ子はお日様を追いかけて庭から玄関隅の辺りで日光を浴びていた
キキーィ、というブレーキの音がした
「あら…どなたでしょう?」
参拝客に見つかってはいけないと京助に言われているヒマ子は物陰に身を隠した
石段を登る足音が近づく
その足音は境内のほうではなく栄野家へとやってきた
「日本郵政公社の方でしょうか…」
ヒマ子が物陰から顔を出して足音の人物を確かめようとした
「…!!」
ヒマ子は言葉を失った
紺色のプリーツスカート、白いハイソックスに肩甲骨の辺りまで伸びた長い黒髪、胸には黄色いスカーフがゆるく締められている
「じょ…女性が…女性が…ッ!!」
思わず後ろに倒れてしまった
ゴトリと音がした
その音に気づいたらしくその女子はヒマ子の方に近づいてきた
「大丈夫? ヒマ子さん」
聞き覚えのある声
向かって右の目の下にはほくろ
「驚いた?」
ピンクのヘアバンドを外すと長かった黒髪がなくなり…
「…南様…?」
「似合う?」
南はくるっと一回転して笑った

「よ、南ちゃん」
目が点になっている緊那羅の前をプリーツスカートが横切る
「紹介しよう。喫茶『踊るすね毛』の看板ウエイトレス【アサクラ・南】ちゃんだ」
坂田が司会者のごとく女装南を紹介すると京助と中島、悠助が歓声を上げる
「南でぇ~す」
南がポーズを決めると歓声が大きくなる
緊那羅はまだ目が点のままだった
「ちなみに今日は黒チェックのトランクス!」
「見せんな」
南がスカートを捲り上げ中を見せると京助が消しゴムを投げた
「え~…コレが正月中学の女子制服でございます」
坂田が南の隣に立ち緊那羅に向かって説明する
「紺色のスカートは膝上10センチが男のロマン!! それに良く映える白のハイソックス!! チラリを期待させる短めの上セーラーの中は只今冬服仕様です! 残念!!」
坂田の説明にあわせて南がポーズを決める
「…きょ…;」
南から目をそらさず緊那羅が京助の肩をたたいた
「去年の文化祭の出し物で女装喫茶やったんだ俺ら」
中島が言った
「男子が女子の制服を着て女子が男子の制服を着たんだけど女子の制服足りないのとサイズの関係でいくらか作ったんだ。コレがそん時のヤツ」
南が付け毛を外して座った
「ちなみに店の名前の『踊るすね毛』はまさにハイソとスカートの間のすね毛をさしている」
「俺剃って来た」
京助の言葉に南が足を上げる
「南ちゃんパンツ丸見えよ~イヤン」
中島が指摘すると南が
「いや~ん」
といって更に足を出した
「やめいキショイわ」
坂田がノートで南をどついた
「ということで…キンナラムちゃん」
どつかれた頭をさほど気にもせず南が緊那羅に近づいた
「明日貴方は【きんなラム子】となるのよ!」
某女子テニスアニメのたて巻きロール婦人のごとく南が緊那羅を指差した
「…センスねぇ名前だなぁオイ…」
南に指を突きつけられたまま緊那羅(きんなら)は呆然としている
「ちなみに漢字で書くと……こうか」
坂田がノートに【金名 羊子】と書いた
「『ひつじこ』?」
京助が読み上げると坂田がチッチッと指を振った
「ひつじ=ラム!! これで【きんなラム子】だ!!」
「おおぉ!!! ナイスだ坂田!」
中島と南、京助が歓声を上げる
「緊ちゃん?」
悠助が固まったまま動かない緊那羅を揺する
「っとまぁ一日だけだしコレで我慢しろって」
コレと自分の着ている女子制服を指差して南が笑った
「不安なら俺も明日【アサクラ・南】になってやろうか。学校の倉庫にまだ残ってるし」
再び付け毛をして南がウインクすると緊那羅が引きつって笑った
「いや~…明日が楽しみですなぁ」
坂田が言った
「…俺一緒に登校すんのか?;」
京助が焦点の定まらない目のまま引きつって笑う緊那羅を見てため息をついた