ファントム・サイバー
Link3 ナギ
《1》
街中の?ゴースト?たちが無差別に襲われている。襲っているのは黒い狼団。
刃向かう者は容赦なく破壊し、弱い者はトラックに詰め込みどこかに攫っていく。彼らの目的はこの世界の破壊と、新たな世界の構築。黒い狼団を束ねる者の名は大狼君。
世界の破壊なんて、あたしは絶対に許さない。
もう失うのは嫌。壊されるのは嫌。だからあたしは戦うと決めたの。
あたしは隙を見てトラックの荷台に乗り込んだ。
?ゴースト?たちがあたしを見てる。
「オレのことは黙っていてくれ、あとで必ず助ける」
あたしは?ゴースト?たちに紛れて、トラックの奥に身を隠した。
トラックが走り出し、たぶんアジトに向かってるんだと思う。
……きゃ!
暗がりの中で誰かあたしのお尻さわった。もぉやんなっちゃう。まるで満員電車みたい。
トラックに揺られて、どのくらい経ったんだろ?
停車して、また走り出さないと思ったら、急に荷台の扉が開かれた。
眩しい光であたしは目が眩んだケド、不意打ちするなら今だと思って、勇気を出して飛び出した。
戦闘員の頭を踏み台にしてあたしは飛んだ。
ロングコートを靡かせながら着地して、しゃがんだまま辺りを見回した。
戦闘員たちがコッチを見てる。
本当はイヤなんだケド、ヤルしかないかなぁ。
あたしは両脇に差している刀を抜いた。
戦闘員の数はざっと七匹。ほとんど黒だケド、一匹赤いヤツが混ざってる。あの赤には気をつけなきゃ。
背の高いビルに見下ろされる中、あたしはアスファルト力いっぱい蹴り上げた。
電磁ロッドを構える戦闘員を狙い、まずは一撃を喰らわせた。
切っ先が戦闘員の胸を撫で斬る。
ヤダ、もぉまたコートに血がついたぁ!
なんで血なんて噴き出る仕様になってるんだろ、いらないのに。
すぐそこに迫っていた戦闘員の頭に回し蹴りを喰らわせ、真後ろにいたヤツには刃をお見舞いした。
これで三匹。
黒戦闘員は下っ端だから、少しのダメージでプログラムが破壊してくれる。
問題はあの赤い奴だ。
赤戦闘員の真横に待機していた二匹の戦闘員がハンドバズーカを撃った。
撃たれた弾が普通の弾じゃないのは知ってる。六本の脚が生えた蜘蛛型のワームだ。身体に取り付かれたら、あたしが破壊されちゃう。
飛んできた蜘蛛を真っ二つに斬って、もう一匹は……あっ、踏み潰しちゃった。でもいいや、壊せたし。
後ろから飛びかかってきた戦闘員の股間を踵で蹴り上げて、あたしは赤戦闘員に刃を向けた。
横にいる二匹なんてあたしの敵じゃない。
シンメトリーを描いて二匹同時に首を刎ねた。
いやん、もぉたくさん血が吹き出してるし最悪。
血が目晦ましになっちゃって、赤戦闘員のこと見失っちゃった。どこにいるの?
後ろから気配を感じる。早い!
顔面を殴られそうになってあたしはしゃがんで躱した。そこに回し蹴りを喰らって脚を掬われちゃった。
尻餅を付きそうになったケド、どうにか刀を地面に突き立てて堪えて、残った刀を思いっきり投げつけてやった。
「キーッ!」
怪鳥みたいな叫び声をあげて、赤戦闘員は背中から倒れた。そして、跡形なくこの世界から消えた。
赤いのって黒に比べて三倍の戦闘力があるんだもん。油断すると危ない危ない。
さてと、まずは?ゴースト?たちかな。
あたしはトラックの荷台を覗き込み、?ゴースト?たちに声をかける。
「もう心配ない。辺りに戦闘員たちはいない今が逃げるチャンスだ」
荷台の中から?ゴースト?が出てくるのを確認して、あたしはその場を後にすることにした。
この近くにアジトがあるハズ。あたしが調べた情報によると、どこからか地下に行けるハズなんだケド……。
トラックが止まってるのがココだから、コッチかなぁ?
あたしは裏路地に入って、ビルとビルの間を歩いた。
行き止まりだ。
足元にはマンホールがあるケド、コレかな?
ヤダなぁ、下水とか臭いもん。でも、行くっきゃないよね。
がんばってマンホールを開けてハシゴを降りた。悪臭はしないみたい。
地下に降りてみると、下水じゃなくて線路みたい。でもなんか使われてる雰囲気しない。
……アレ?
向こうから明かりが見えるケド、もしかしてあそこが入り口?
あたしは闇に身を隠しながら明かりに近づいた。
扉の前に戦闘員が立ってる。退屈そうにしてるから遊んであげようかな。
足元にあった石を拾い上げて、遠くに投げ飛ばした。
石が落ちた音に戦闘員が気を取られているうちに、あたしは刀を抜いて全速力で駆けた。
戦闘員があたしに気付いて振り向いたケド遅い。刃はすでに戦闘員の首に付けつけてあった。
「首を落とされたくなければ、大人しくしろ」
「キー」
いつもより語尾が下がってるから、観念したってことかなぁ?
「それではドアのロックを解除してもらおうか」
「キーッ!」
戦闘員は首を横に振った。
「言うことを聞かないなら、首を落とす前にまずは……」
もう一振りの刀を抜いて戦闘員の……いやん、股間が目に入っちゃった。全身タイツでそこだけモッコリしてるんだもん。えい、ここに刀突きつけちゃえ!
股間に刃を突きつけられた戦闘員は震え上がった。
「キーキーッ!」
そしてドアについてるボタンを押してロックを解除した。
「もう用済みだ」
あたしは柄の底で戦闘員の首の後ろを強打した。おやすみな〜い。
気絶した戦闘員を残してあたしはアジトの中に侵入した。
金属の廊下を静かに走り、大狼君の居所を探した。
サイレンが急に鳴りはじめた。
「……っしまった」
天井に防犯カメラが仕掛けてあった。
ええっと、防犯カメラを叩き切って、姿を晦ませることにしよう。
カメラを壊してあたしは身を隠しながら先を急いだ。
戦闘員の影だ!
あたしは即座に身を隠し、近くにあった部屋に忍び込んだ。
部屋の中にも戦闘員たちがいるじゃん!
あたしは身を伏せて、床を這いながら移動した。
この部屋では何かの研究をしてるっぽい。だって、戦闘員に混ざって白衣を着てる人がいっぱいいるもん。
なにしてるんだろ?
人が入れそうなカプセルがいっぱい並んでる。冬眠装置なん不必要だし、人間を移動させる装置?
部屋の奥から戦闘員に引っ張られて?ゴースト?が連れて来られた。カプセルの数は五個、それと同じ数の?ゴースト?が連れて来られたみたい。
あたしがジッと見てると、?ゴースト?はカプセルの中に押し込められ、フタが閉められて閉じ込められた。
白衣を着てる人たちが慌しく動きはじめた。
いったいなにが行なわれるんだろう?
白衣を着た男がスイッチのレバーを降ろすと、装置が火花を散らして揺れはじめた。
時報みたいな音が聴こえる。
ポン、ポン、ポン、ポーンっと同時にカプセルのフタが開き、大量のスモークが流れ出した。
スモークの奥に黒い影が見えた。
……あれは、戦闘員だ!
中に入ったハズの?ゴースト?が、出てきたら戦闘員に変わってる!?
もしかして、戦闘員の生産マシーン?
だとしたら、今まであたしが戦ってきた戦闘員って、みんな?ゴースト?だったの?
作品名:ファントム・サイバー 作家名:秋月あきら(秋月瑛)