ファントム・サイバー
ヒドイ、そんなのヒドイ。敵だと思って戦ってきた戦闘員が、元は?ゴースト?だったなんて……。
「キーッ!」
見つけたぞと言わんばかりに、戦闘員があたしを見つけて叫んだ。
柄を握ったケド刀が抜けない。あたしには斬れない。
あたしは戦闘員にタックルしてその場から逃げた。
部屋の外に出ると廊下の向こうから戦闘員が!
あたしは逆方向に走り出した。
T字路に差し掛かると、また向こうから戦闘員。後ろからも戦闘員が迫ってる。あたしは誘導されるように逃げるしかなかった。
そして、あたしの前に立ちはだかった大きな扉。
一本道に追いやられ、あたしは扉の向こうに行くしかなかった。
重い扉を押してあたしは部屋の中に飛び込んだ。
すぐに甲高い男の声が聴こえた。
「ケーケケケッ、よく来たな美男子さんよ」
あたしの前に現れたのはモヒカンのヘヴィメタ野郎。その後ろには長椅子で寛ぐ大狼君の姿。そして、戦闘員に両脇を囲まれた少女?
大狼君が戦闘員たちに命じる。
「ナイを隔離フォルダに入れて置け」
「キーッ!」
戦闘員たちに腕を捕まれ、ナイっていう少女が連れて行かれようとしている。
「ウチのこと放せってば! このエッチ痴漢変態!」
物凄いジタバタ暴れたケド、結局ナイは連れて行かれてしまった。いったいあの少女はなんなんだろ?
大狼君があたしに顔を向けた。
「色々と取り込んでいる最中だったので失礼した。さて、君の用件を聞こうじゃないか?」
あたしは刀を抜く準備をして敵意を示した。
「なぜお前はこの世界を破壊しようとしている?」
「そんなの楽しいからに決まってんだろバーカ!」
答えたのは大狼君の前に立っていたモヒカン野郎だ。
「お前になど聞いていない、オレは大狼君と話しているんだ」
「ケッ、大狼君、大狼君ってオレ様のことはほったらかしかよ気に食わねえ」
不貞腐れたようすのモヒカン野郎は、壁に持たれかかって口を開かなくなった。もしかしてイジケちゃった?
大狼君が立ち上がった。
「最初は、破壊そして、創造を楽しんでいるだけだった。しかし、私はいつしかこの世界の真理を追究していたのだよ。などと言っても君には理解できないだろうがな。君はなぜ私に会いに来た、ただ私を倒すためか?」
「それもある。だが、オレがこの世界に来たのは情報が欲しかったからだ。この世界にある膨大な情報にアクセスできるお前の力が必要だった」
サイバースコープの下から覗く大狼君の唇が、先ほどとは違う表情をしたのをあたしは見逃さなかった。……形のいい唇。もしかしたら素顔は美形かも。
「引っかかる言い方をしたな。貴様、この世界の人間ではないな?」
バレちゃった。この世界の住人たちはほとんど思念だケド、たまにあたしたちみたいなホームワールドから来た人間がいる。
あたしの正体がバレたってことは、大狼君も?世界?の情報を握ってることになる。やっぱり男の力が必要だ。でもあたしは大狼君たちを許せない。この世界を破壊して、我が物にしようなんて許せない。
突然、真後ろの扉が開かれた。
部屋に流れ込んでくる戦闘員たち。
壁に寄りかかっていたモヒカン野郎がニヤリと笑う。
「袋のネズミだな、ケケケッ」
あたしに逃げ場はない。ケド、できれば戦闘員たちとは戦いたくない。
大狼君が戦闘員たちに合図を送った。
「デリートするな。その男には聞きたいことがある、生け捕りにしろ!」
「キーッ!」
戦闘員たちが襲ってくる。もう刀を抜かなきゃ――。
「待ちな!」
大きな声を出して戦闘員たちを制止させたのはモヒカン野郎だった。
「オレ様にやらせてくれよ」
あたしの前にやってきたモヒカン野郎に大狼君は、
「好きにしろ」
と、だけ言って、自分の長椅子に腰掛けてパソコンをはじめてしまった。絶対見くびられてる。あたしが真剣なときに、パソコンなんてはじめて、どうせエロサイトでも見てるんでしょ!
バーカ!
モヒカン野郎があたしに近づいてくる。
「可愛がってやるぜ美男子さんよぉ」
うわっ、舌なめずりした。キモイ、こいつそっちの趣味あるのかなぁ。鳥肌立っちゃう。
「刀の錆にしてやる」
「ケケッ、やれるもんならやってみな!」
いつの間にかアイアンクローみたいの装備してるし。あれで斬られたら絶対痛いだろうなぁ。
あたしは二振りの刀を抜いた。速攻で決める!
「十文字斬り!」
キンと甲高い音がして、あたしの攻撃は受け止められた。刀はツメの間に挟まり、もう一振りの刀も同じように止められていた。アイアンクローは両手に装着されていた。
刀がまったく動かせない。向こうもツメを動かそうとするケド、こっちだって負けてらんない。
金属がぶつかりかり合う音が響く。
そして、モヒカン野郎の足が蹴り上げられた。
「クッ!」
歯を食いしばったあたしの腹に足が食い込む。
後ろによろけたあたしに容赦なく次の攻撃が……そんなギターどっから!?
モヒカンがスイングしたエレキギターの側面で、あたしは顔面を殴られて床に転げ回ってしまった。
イターイ。リアルだったら絶対泣いてる。ケド、あたしは負けない。
叩かれた反動で向けてしまった背中に、ツメが振り下ろされた。
「クッ!」
激しい痛みが背中に走った。痛すぎる。
すぐに立ち膝を付いて体制を整えようとしてるところに、モヒカンがエレキギターを構えて見下してきた。
「骨のねぇ奴だ。もう飽きたぜ!」
そう言ってモヒカンはエレキギターを掻き鳴らした。
――電磁攻撃!?
目に見えない衝撃波を喰らい、あたしの身体は動かなくなった。まるで痺れたみたいに身体が動かない。
そんな……こんなにあっさり負けるなんて……。
口を開いても声すら出せない。
さっきまでパソコンをやっていて、あたしたちの戦いなんて目にも留めなかった大狼君が口を開く。
「留めは刺すな。口が聞けるようになるまで隔離フォルダに入れて置け」
「キーッ!」
戦闘員たちの声が聴こえ、全身に痺れが回ったあたしは気を失った。
《2》
……出られない。
金属の箱の中に入れられたみたい。天井も低いし、横になることもできない。立ってるか座ってるしかできない。閉所恐怖症だったら耐えられないと思う。
「誰かいないのか!」
あたしは壁を蹴っ飛ばした。びくともしない。
声も外に聴こえるのかわからない。
「ここを開けろ!」
……あれ、開いた。
ちょっと押したら開いちゃった。
開いたのはいいけど、誰この人?
「すみません、ここトイレじゃなかったんですねー」
ピエロはそう言って扉を閉めようとした。
「待て!」
閉められたらまた出られなくなっちゃう。あたしは強引に外に出た。
でも、どうしてこんなところにピエロが?
「誰だお前?」
「ボクですか? 休日の道化師です。散歩していたら迷ってしまって……」
「迷ってだと? 黒い狼団の仲間じゃないのか?」
「と、とんでもない! ボクはただの道化師ですよ」
見るからに怪しい。でも、偶然でも故意でも、あたしを出してくれたってことは、敵ではないのかも。とにかく得体の知れないヤツ。
ここから逃げ出すなら、とにかく武器を探さないと……あれ?
作品名:ファントム・サイバー 作家名:秋月あきら(秋月瑛)