ファントム・サイバー
メアが入っているケースの前にはタッチパネルがあって、これをどうにかこうにかすればメアを救えるはずだ。
僕はタッチパネルと睨めっこした。電化製品は得意だからきっとどうにかなる。
とにかく僕は適当にボタンを押してみた。すると、すぐ近くの画面にパスワードの要求画面が出た。いくら電化製品に強くても、パスワードの解読とかはムリだ。
「後ろから敵が迫っているわよレイ」
淡々とメアは言った。そういうことは慌てて言おうよ。
僕はすぐに振り向いて手榴弾を投げようとした。
もう遅かった。
僕はタッチパネルの上に押し倒されてしまった。その拍子に僕の手から手榴弾が落ちた。でも大丈夫ピンさえ抜いて……。
「抜けてる!」
手榴弾のピンが何かの拍子で抜けていた。
それに気付いた戦闘員は僕を置いて一目散に逃げ、僕も慌ててその場から逃げた。
背中に爆風を浴びて、僕は大きく前方に吹き飛ばされた。
……しまったメアが!
硝煙の中に小柄な影が映っていた。
「さあ、少し遊んであげようかしら、クスクス」
煙の中から現れたメアがこっちに向かって歩いてくる。
そのとき僕はすでに戦闘員たちに取り囲まれていた。
けど、もう僕の出番は終わったようだ。
冷たい風が吹き、メアが呪文をブツブツ唱えはじめた。
「ディザンド!」
黒い稲妻が避雷針に落ちるように戦闘員に吸い込まれ、そこからまた別の戦闘員に次々と放電していった。辺りは閃光に包まれ、稲妻は縦横無尽に暴れまわった。僕は巻き添えにならないように、芋虫みたいに床を這う。
稲妻を喰らった機器が火花を吐いた。そして、急に部屋が停電した。
すぐに予備電源に切り替わり、明るくなった部屋の中には四人だけが残っていた。メアと僕、そして大狼君に馬乗りになって刀を突き付けたナギの姿。暗がりの中でナギは大狼君を追い詰めていたんだ。
「貴様がいなくなればすぐにでも黒い狼団は壊滅する」
ナギはより深く刀を大狼君の首元に突き付けた。
「ここでやられるわけにはいかぬ!」
危険を顧みず、決死の覚悟で大狼君は相手の懐に飛び込み、グローブを嵌めた手がナギの腹を押した。
「クラックパンチ!」
腹で起きた爆発にナギは押し飛ばされた。
その隙に背を向けて逃げる大狼君。
「次に会うときは両腕で相手をしよう、ハハハハハッ!」
きっと、負け犬の遠吠えだ。
大狼君はパソコンのディスプレイの中に飛び込み、その姿を消してしまった。
残された僕たちは顔を見合わせた。
ナギは刀を鞘に収め、ディスプレイの中に飛び込んで消えた。画面に頭打つっていう王道展開はないらしい。
すでにメアも飛び込もうと構えていた。
「わたしたちも行くわよ」
「うん」
僕は頷き、メアの後を追ってディスプレイの中に飛び込んだ。
ゴツン!
「痛ぁ〜い!」
ディプレイの枠に頭を打ってしまった。
……よかった、誰にも見られてなくて……?
後ろを振り向くと、戦闘員が並んでいた。
見られた!
僕は顔を真っ赤にしてディスプレイの中に逃げ込んだのだった。
作品名:ファントム・サイバー 作家名:秋月あきら(秋月瑛)