ファントム・サイバー
ファントム・ローズが声をあげる。
「ナギサ、奴の弱手は仮面だ!」
それ早く言ってよ。お姉ちゃんの忘れん坊!
ファントム・メタルの手に絡めていた鞭をファントム・ローズが引く。スゴイ力で引かれたファントム・メタルの身体が浮いた。その鎖の付いた鉄球を投げる要領で投げられた。
勢いよくファントム・メタルがガラスの壁に叩きつけられ、強度の強いガラスが砕け飛んだ。
展望台に強風が吹き込む。
窓の放り出されたと思ったファントム・メタルは、淵に手を掛けて辛うじて耐えていた。
あたしはファントム・メタルの手を踏みつけてやとうと足を上げた。ケド、ヤツは自ら手を放して下に落ちてしまった。
すぐに身を大きく乗り出して下を覗くと、一〇〇メートルくらい下の展望台の屋根に乗っていた。
微かに奴の笑い声が聴こえる。
ファントム・ローズがあたしを胸の前で抱きかかえた。
「行くぞ」
「えっ?」
ドコになんて聞く前に、ファントム・ローズは窓から飛び降りていた。
強い風に煽られながらも無事に着地して、衝撃はあたしの身体にまで伝わった。
スゴク強い風。足場も悪いし、一瞬でも気が抜けない。
なぜか突然、頭がキーンとして立ち眩みがした。
ファントム・メタルが上を指差した。
「あれを見ろ」
あたしは言われるままに上を見た。
特に変わったところは見当たらない。ケド、感じる。この頭がキーンとする感じ、タワーの上のほうから発せられてる。
あたしは鋭い眼つきでファントム・メタルを睨んだ。
「あれがなんなの?」
「ファントム・メアどもはこのタワーを使って、強い思念をこの世界にばら撒くつもりだったらしい。けどな、オレ様はあいつらが気付かねえように、コッソリと細工をしてやったんだ」
薔薇の香が鼻を衝いた。
「小細工とはなんだ早く言え」
低く厳しいファントム・ローズの声音。
「ケケケッ、この世界を破滅させる小細工だ」
「そんなことどうやって、早く止めて!」
あたしは心の底から叫んだ。
ケド、あたしの望みは聞き入られなかった。
「生憎オレ様は人の言うことを聴くのが嫌いでな」
わかってる答えだった。でも、腹が立つ。
落ち着けナギサ。だいじょぶ、もっと冷静になってこいつから話を聞きださなきゃ。
「いったいどうやって世界を壊す気なの、そんなことできるハズない」
「できるはずがないだと?」
よし、挑発に乗ってきた。
「あなた一人で世界を壊すなんてできるハズない」
「いいだろう、教えてやろう。世界の中心にあるこのタワーは電波を飛ばすだけの代物じゃねえ、呼ぶこともできるんだ。そう、強大な力だ、世界を破壊するほどの力をな、このタワーに叩き落す。わかるだろう、タワーに暗黒が渦巻いてるのがよ」
いつの間にかタワーの上には、雷雲のような暗黒が渦巻いていた。
この場所に力が集まるってことは、タワーを壊せばいいの?
それはムリ。
何か制御装置のようなものがあるハズ。それを操作するか、壊せば……。
ファントム・ローズがファンム・メタルを置いて、この場所から駆け出そうとした。
けれど、そんな簡単にはいかなかった。
「おっと、どこに行くんだ?」
ファントム・メタルのツメがファントム・ローズに襲い掛かった。
ツメを躱したファントム・ローズが言う。
「制御装置は上だな?」
「なんでわかった!?」
驚きの声をあげたファントム・メタルにファントム・ローズは静かに、
「今のは鎌を掛けさせてもらった」
「ナニぃ!」
激怒したファントム・メタルの猛攻がはじまる。
鋭いツメが次々と連打され、ファントム・ローズのローブを切り裂いていく。
今のうちにあたしが!
「行かせねえぜ嬢ちゃんよ!」
ファントム・メタルの手からステッカーが投げられ、あたしの背中で爆発を起こした。
爆発の衝撃で屋根の上から落ちそうになったあたしに、ファントム・ローズの鞭が伸びる。
「掴まれ!」
あたしは鞭を掴んだ。
ケド、ファントム・ローズはあたしを助けたせいで、背中をツメで抉られてしまった。
ファントム・ローズの背中から薔薇の花びらが噴出した。
再び止めと言わないばかりに、鋭いツメがファントム・ローズに襲い掛かろうとしていた。
しかし、そのとき!
遥か上空で大爆発が起きた。
上の展望台が木っ端微塵に吹き飛び、タワーの先端部が地面に向かって落下して行った。
「クソォォォォォッ!!」
怒りを露にしてファントム・メタルが怒号をあげた。
少女の笑い声が聴こえた。
「あはは、残念でしたおバカさん」
いつの間にかこの屋根にナイが立っていた。
「大狼君がアンタの計画に勘付いて、ドーンとやっちゃってくれましたー。というわけで、アンタの計画は水の泡、はい、ご苦労さん」
無邪気にナイは笑った。
「畜生、畜生、畜生!」
モヒカンヘアーを掻き毟りファントム・メタルが取り乱した。
その隙を衝いてファントム・ローズがあたしを持ち上げた。
「仮面に止めを刺せ!」
勢いよく上に飛ばされたあたしはそのまま刀を構え、切っ先をファントム・メタルの仮面に向けた。
「あんたなんか大ッ嫌い!」
切っ先が仮面に触れた瞬間、粉々に砕け散って爆発した。
力なく背中から倒れるファントム・メタル。動かなくなったその顔には、真っ黒な穴が口を開けていた。
ナイがあたしに笑いかけた。
「はい、めでたしめでたし」
辺りに強い薔薇の香が立ち込め、あたしの意識は遥か遠く遠くに遠退いた。
作品名:ファントム・サイバー 作家名:秋月あきら(秋月瑛)