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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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ファントム・サイバー

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「ボクはリョウではない。昔のボクはリョウから生まれた存在だった。しかし、今は夢幻から生まれた存在――真のファントム・メア」
「違う、あなたはあたしが大好きだったリョウなの!」
「キミがリョウのことを好きだったのは、偽りの記憶だ」
 世界が整合性を取るために植えつけられた記憶。何度もその話は聴いたことがある。ケド、あたしは信じてるの、はじめは嘘だったかもしれない。
「ケド、今はこの気持ち本物だと信じてる!」
「ふふっ、偽りの記憶に躍らせれているだけだ」
「違う、絶対に違う!」
 あたしの気持ちは本物。だから、この気持ちでリョウを必ず救う。本物の気持ちなら絶対救える。
 白い仮面が微笑んだ。
「この際、キミの記憶が偽りだろうと、そうでなかろうと構わない。どうせリョウはこの世界にはもういない。キミが愛した?本物?のリョウは世界から消滅したのだからね」
「ううん、あなたリョウ」
「この論議はどこまでも続きそうだね。いいだろう、キミがリョウと信じるボクの手で、キミを新しい世界に誘おう」
「新しい世界……あたしを殺すの?」
「いいや、殺しはしない。キミはボクに吸収されるんだ。そして、永久をボクと共に過す」
 ファントム・メアが銃を抜いた。
 瞬時にあたしは刀を抜き、薔薇の力が宿った刀はその姿を変えた。
 太くなった刀の側面が銃弾を弾いた。
 あたしの耳元で囁くような声。
「今のはちょっとしたお遊びさ」
 耳元でした声はファントム・メア。すぐに横に刀を振ろうとした。ケド、あたしにはできなかった。
 それをファントム・メアに悟られた。
「ボクに攻撃を加えることができないのかい?」
「だって、だって……あなたはリョウだから!」
「違うね」
「違くない。声が、だって声がリョウだもん!」
「幻想に過ぎないよ。キミの思い込みが、そう聴こえさせているに過ぎない」
 無情にもまたファントム・メアは銃を撃った。
 今度はどうにもできず、銃弾はあたしの太腿を貫いた。スゴク痛かった。涙が出るくらい痛かった。
 想像以上にあたしの瞳から涙が零れ落ちた。
 きっと、痛くて泣いてるんじゃないの。今まで溜め込んできたものが、全部涙になって流れ出してしまったの。
 本当にリョウを元に戻せないの?
 本当にダメなの?
 だったらどうすればいいの?
 わからなくなっちゃった。
 涙を流したらスゴク疲れちゃった。
 何もかも疲れちゃった。
 このままファントム・メアに吸収されてもいいかなと思う。
 あたしの身体をファントム・メアのローブが包み込んだ。
 辺りが暗くなった。
 何も見えないけど、別に怖いとは思わなかった。
 ファントム・メアとひとつになるんだ。
 記憶が……自我が薄くなっていくのを感じた。
 遠くに小さな光が見えた。
 ぼんやりと輝く光。この暗闇の中で、ただ一箇所輝く光。暖かい光。
 ……リョウ……リョウ……。
 そうだ、リョウだ。
 あの光の中にいるのはリョウだ!
 あたしの身体が突然輝いた。
 すぐにあたしはリョウに駆け寄った。
 十字架に磔にされたリョウがいた。顔には表情のない白い仮面。あたしは仮面を引き剥がそうとした。
 でも、取れない。いくら引っ張っても取れない。
 どうして、どうして取れないの?
 ……リョウ……ねえ……リョウ……目を覚まして……リョウ……。
 声を出そうとしたけど、闇に蝕まれるように音にならない。
 ……リョウ……リョウ……。
 リョウは目覚めない。
 頭が急にフラフラした。
 何か……頭に響いてくる。
 笑い声?
 耳障りな笑い声。
 ケーケケケケケケッ!!
 はっきりと聴こえた。
 その声は!?
「てめぇは邪魔だ!」
 何か強い力によってあたしは押し飛ばされた。

《6》

 あたしは目覚めた。そして、床に手を付きながら立ち上がり絶句した。
 床に倒れているみんな。ナイとメアがいた。ザキマと戦っていたハズの大狼君もいた。
 ファントム・メアは?
 ――いなかった。
 代わりにいたのは仮面を被った別の男。それはザキマだったモノ。今はもう違う。
 半分だけだった仮面は、すでに顔全体を覆い隠していた。
 おそらく彼は覚醒めたの――ファントムとして。
「ケーケケケケケケッ!!」
 耳障りな笑い声があたしの耳にこびりつく。
 あたしは刀を構えた。
「これはいったいどういうこと!」
「ケケケッ、オレ様が一番だって証明してやっただけだぜ」
「許さない……ファントム・メアはどこ?」
「喰ってやった」
 弱った身体を震わせながらメアが立ち上がろうとしていた。
「奴はファントム・メア様の不意を衝いて……私たちを……おのれ……ザキマめ……」
「オレ様はザキマじゃねえ。オレ様の名前はファントム・メタル、世界を支配する者だ」
 メアが創った空間が壊れていく。きっとメアの力が弱ったせいだ。
 床に倒れながら大狼君は拳を握って力を込めていた。
「許さんぞザキマ……」
 ゆっくりと立ち上がった大狼君の手から火花が飛ぶ。
「喰らえ!」
 大狼君の手から電撃弾が放たれた。ケド、いとも簡単にファントム・メタルはそれをはじき返した。
 自分の放った電撃弾を喰らって大狼君が床に膝を付き、そのまま前のめりに倒れてしまった。
「ケケケケケッ! いくらやっても同じだぜ。オレ様は最強なんだからな。オイてめぇ、残るはお前一人だぜお嬢ちゃんよぉ」
 あたしは刀を強く握った。
 ……薔薇の香。
「それはどうかな?」
「お姉ちゃん!」
 あたしは歓喜の声をあげた。
 ガラスが割れるように、世界が音を立てて崩れた。
 新たに現れたのは小さな展望台。
 白い仮面があたしを見据えた。
「すまない、メアの結界が邪魔をして助けに来られなかった」
「あたしはだいじょぶ。それよりみんなが……」
「心配ない気絶しているだけだ」
 薔薇の鞭を構えるファントム・ローズ。
 対抗してファントム・メタルが両手に嵌めたツメを鳴らした。
「二人とも同時に掛かって来いよ。カスが何人束になって来ようがオレ様はかまわねえぜ、ケケッ」
 今度こそ、あたしはこいつと決着を付ける。
「神速斬り!」
 神風のようにあたしは翔け、一気に斬り込んだ。
 衝撃波と一緒に繰り出して一撃がツメで止められた。あたしの刀は一振り、ケド相手は二本のツメを持っていた。
 あたしの腹を抉ろうとするツメ。
 薔薇の鞭が宙を翔けた。
 ツメはあたしの腹を抉る寸前、鞭によって巻き絡められていた。
 ファントム・メタルは刀ごとあたしを押し飛ばした。
「てめえら、そんなヒョロイ攻撃しかできねえのかよ!」
 挑発だ。なんてムカツク奴なの。絶対に負けられない。
「これでも喰らえ!」
 あたしは叫びながら渾身の一撃を振り下ろした。
 再びツメで受け止めようとするファントム・メタル。ケド、あたしの一撃はツメを砕いて、こいつの手首を落とした。
「ぎゃぁぁぁぁぁ……なんてな」
 白い仮面が下卑た嗤いを浮かべたような気がした。
 手首の切断面からコードのような物が伸びて、それはまるで筋組織を形成するように手の形になった。そして、コードの表面はメタルコーティングされ、新しいツメが手の甲から生えてきた。