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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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ファントム・サイバー

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 どうしていいかわからないまま、戦闘員の残していったバイクに乗り、パーキングエリアまで走った。
 パーキングエリアはとても静かだった。まるで廃墟のような静けさ。
 ゲームとか映画だとアンデッドが出て来る雰囲気。
 ……あっ、ホントになんか出てきた。
 足や手、中には頭まで、身体の一部を食いちぎられた人たちがゾロゾロ出てきた。予想してた展開どおり……当たっても嬉しくない。
 逃げようとあたしが反転すると、後ろからもすでにゾンビっぽいのが沸いていた。パーキングエリアの駐車場は、ゾンビさんたちの集会場になっていた。
 ――薔薇の香。
 あたしに襲い掛かってきたゾンビの胴が真っ二つに割れた。グロイよぉ。
 次々とゾンビたちが切り裂かれて地面に倒れていく。切られても動いているけど、足や手を切り離されたら、さすがに動けないらしい。
 ゾンビたちを一掃して、その中に残ったのはファントム・ローズ。
「大丈夫か?」
「うん、ありがとう」
 お礼を言うと、ファントム・ローズは背を向けて、姿を消そうとしていた。
「待って……マナお姉ちゃん」
 あたしの呼びかけに、ファントム・ローズは背を向けたまま動かなくなった。
 すぐにあたしはファントム・ローズの背中に抱きついた。
「その仮面の下はマナお姉ちゃん何でしょう?」
「…………」
 ファントム・ローズは黙っちゃって、何も答えてくれなかった。
「あたしね、小さい頃からお姉ちゃんに助けてもらってばかり。でもね、あたしも戦いたいの」
「……早く自分の世界に帰れ」
「イヤッ、リョウを連れて帰るの、お姉ちゃんのことも。昔のようになんてムリだってわかってる。でも、少しでも昔のように、みんなが幸せに暮らせるように……」
「彼はファントム・メアとして覚醒めてしまった」
「絶対に元に戻す!」
「……そうか」
 お姉ちゃんの全身から香ってくる薔薇の香。
 はじめてファントム・ローズに出会ったとき、あたしはそれがお姉ちゃんだなんて夢にも思わなかった。声も違った、シルエットも違って見えた、何もかもお姉ちゃんとは別人に見えた。
 けれどね、もしかして……と思いはじめた瞬間から、あたしに見えるファンム・ローズは少しずつ変わっていった。
 でも、まだ白い仮面を被ったまま。
「お姉ちゃん……」
「私はファントム・メアを止めなくてはならない」
 抱いていたハズのファントム・ローズが胸の中から消えた。
 舞い散る薔薇の花びら。紅い花びらに埋もれ、一振りの刀が落ちていた。
 微かな声があたしの耳に届いた。
「サイバーワールドの法則は完全に失われたわけではない」
 あたしは刀を拾い上げた。
 この世界は狂いはじめている。住人たちの仮面が剥がされ、?ゴースト?たちが怪物と化す。
 ナギは破壊されてしまった。けれど、あたしは大丈夫。今のままでも戦える。
 巨大な咆哮が聴こえて、あたしは慌てて辺りを見回した。
 四本足の巨大な影。獅子のような引き締まった肉体。頭からは山羊のような角が生えている。
 鋭い歯が並んだ口からは、人間の足らしき物が飛び出していた。
 身体の一部が消失したゾンビみたいな人たちが思い浮かんだ。
 あたしはここで喰われるわけにはいかない。
 抜刀してあたしは巨大な魔獣に斬りかかった。
 行ける気がした。
「円月斬り!」
 刃は魔獣の前脚を斬った。それと同時にあたしは殴られ、叩き飛ばされてしまった。
 地面に片手を付いてあたしは堪えた。
 だいじょぶ、あたし負けない。
 再び刀を構えて飛び掛ろうとした。そのとき、魔獣が口から炎を吐いた。
「ファイアウォール!」
 ダメかと思ったとき、あたしの前に現れた長髪の男の人――大狼君だ。
 ファイアウォールが炎を防いだ。
 大狼君はあたしに何も言わず魔獣に向かって行った。
 巨大な口を開ける魔獣。大きく空気を吸い込んで、また炎を吐くつもりだった。
 大狼君の手が電気を帯びて火花を散らす。
「これでも喰らうがいい!」
 電撃弾が魔獣の口内に放たれた。
 内側から電撃を喰らい魔獣が咆えた。
 ウォォォォォォン!!
 巨大な身体を横転させた魔獣が消えていく。砂流れるようにプログラム言語が消える。
 あたしは大狼君の背中を見つめた。
「助けに来てくれてありがと」
「別に助けに来たわけではない」
 もぉ、素直じゃないんだからぁ。
 冷たい風があたしの背筋を撫でた。この感じ……まさか!
 ナイトメアがそこには立っていた。
「ファントム・ローズはもう何処かに消えてしまったようね」
 逃げたと思ったのに、まさかファントム・ローズが完全に消えるまで待ってたの?
 大狼君は電気コードを構えた。けれど、ナイトメアの目線はあたしだけを見ていた。
「貴女はファントム・メア様を存在させる為に不可欠なのよ。わたしと来てもらうわ」
 ナイトメアの手が差し伸べられた。その手を掴む気なんてない。目指す場所は同じでも、捕まってそこに行くつもりはない。
 あたしは刀を構えた。
 ナイトメアの綺麗な唇が嗤った。
「愚かね」
 風に流され溶けるように、ナイトメアの姿が消えた。
 姿を消したときは……だいたい背後から現れる。
 と、思ってあたしは刀を後ろに向けて薙いだ。
 空ぶった。いないじゃん。
「上だ!」
 大狼君が声をあげた。
 すぐに見上げると魔鳥のようにナイトメアが降下してくる。
 あたしは切っ先を天に向けた。
「稲妻衝き!」
 必殺の一撃はナイトメアの心臓を抜けて背を貫いた。
 余裕の笑みを浮かべるナイトメア。
「夢幻の住人でない貴女にわたしが傷つけられると思うて?」
 まるで水に落とした墨汁のように、ナイトメアの身体が広がって、あたしを丸呑みしようとする。
 飛んで来た電撃弾がナイトメアの身体を拡散させた。
 あたしは急いでその場から飛翔して、大狼君の横に並んだ。
 黒い霧が密集して、再びナイトメアの身体になった。
 この刀ではダメージを与えられないの?
 そんなハズはない。きっと、何か方法があるハズ。
 あたしは無我夢中でナイトメアに斬りかかった。
 刃がナイトメアの肩に食い込んだ。けれど、まるで霞を切っているよう歯ごたえ。切っ先は地面に落ちてしまった。
 すぐに大狼君の鞭が風を唸らせた。
 華麗に舞いながら電気コードの猛攻を躱すナイトメア。その表情に焦りの色はまったくない。
「ナイトメアとなったわたしに勝てる者などいないわ」
「驕りは身を滅ぼす」
 風を切った電気コードが火花を散らしながらナイトメアの腕にヒットした。
 ドレスの袖が焼け焦げ、赤くただれた皮膚が見えた。けれど、その傷もドレスもすぐに元通りに戻ってしまった。
 それを確認した大狼君は満足そうに頷いた。
「ダメージを与えられないというわけではないらしいな」
「貴方の魂はすでに半分以上、夢幻の海に浸かっている。この世界に長く居過ぎたのね。だからわたしに損傷を与えることができる。しかし、この程度の微々たる傷ではわたしは倒せなくてよ」
「ダメージを与えられることがわかればそれで結構」
 ナイトメアとなった彼女は本来の力を取り戻し、完全な夢幻の住人となった。それを倒すにはどうしたらいいの?
 あたしは刀に祈りを込めた。