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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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ファントム・サイバー

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 屋根の上から怒声が聞こえたケド、仕方ないじゃんね。この車、ハンドル操作が難しくて、すぐに車体のバランスが崩れるんだもん。
 バックミラーに目を配ると、戦闘員を乗せたバイクに電撃弾がヒットして、ボーリングのピンみたいに次々と倒れていくのが見えた。
 ……あっそうだ。
「どこに行けばいいのかあたし知らないよ!」
「そのまま走って――」
 大狼君が最後まで言う前に、真横で爆発が起きて車体が大きく揺れた。
「だいじょぶ大狼君!」
「案ずるな、このまま真っ直ぐ走って高速に乗れ」
「オッケー」
 後ろから追ってくる戦闘員の数が増えてるような気がする。まるでゴキブリ。
 群を抜け出してきたバイクが車の真横に並走してきた。
 電気コードが伸びるのが窓から見えた。大狼君が放った電気コードの鞭は戦闘員にヒットして、運転を誤ったバイクは大回転しながら後列で大爆発を起こした。
 なんかどんどん大惨事なってる感じ。
「奴等だ!」
 大狼君が叫んだ。
「どこ?」
「今、左の角から出てきた二台のバイクを見ろ!」
 二台のバイク……いた!
 黒い服のナイトメアと、その前を先導するファントム・メア姿を発見した。二人はバイクに乗ってあたしたちの前を走っていた。
 あたしは大きな声で呼びかける。
「スピード出すから落とされないでね!」
 ギアをチェンジして床が抜けるほどアクセルを踏んだ。
 前を走る車を次々と抜き去り、バイクをすぐ目の前に捕らえた。
 ナイトメアが振り返った。近くで見ると、その喪服みたいなドレス、大型バイクと絶対似合ってない。
 急にナイトメアがバイクのスピードを落として、車の横に並走してきた。そして、ナイトメアの姿がバイクから消えた!?
 屋根の上で大きな音がした。まさか屋根に乗った?
 なんか屋根の上が騒がしくなって来たみたい。スポーツカーの屋根って絶対足場が悪いのに、よくそんなところで戦うなぁ。
「うわっ!」
 あたしは声をあげた。急にナイトメアがフロントに乗って、すぐにまた屋根に戻っていった。
 天井が近いから、上の音がスゴク響いてくる。
 大狼君とナイトメアの会話が聞こえてきた。
「貴様らはこの世界で何をしようとしているのだ!」
「クスクス、この世界はドリームワールドに吸収されるのよ」
「ドリームワールドに吸収だと?」
「私が支配する領地を拡大するのよ」
「……それがファントム・メアの目的か?」
「クスクス」
 ナイトメアは笑っただけで、それ以上は答えようとしなかった。
 道路を走り抜けて、ついに高速の入り口が見えてきた。料金を払わずにファントム・メアは料金所を突っ切った。
 あたしも料金なんて払ってらんないから、あくまで仕方なく料金所を見なかったことにした。
 ああっ!
 ナイトメアが後方に吹き飛んだ。
 バックミラーに映るナイトメアは、まるで魔鳥のようにドレスを揺らしながら、後方を走っていた戦闘員の首に抱き付いて、そのまま戦闘員を引ずり落としてバイクを奪った。ありえない。
 さっきからファントム・メアに追いつこうとしてるのに、車を縫うように走るからぜんぜん追いつけない。それどころか少しずつ引き離されてる感じ。
 後ろからは戦闘員たちを追ってくるし、ナイトメアまで迫ってる。
 前方に大狼君の放った電撃弾が飛んだ。ファントム・メアを外れた電撃弾は関係ない車に当たって、そのまま車はハンドル操作を誤って壁にぶつかった。
 前で事故が起きたせいで次々と玉突き事故が起きた。
 横を向いた車が行く手を阻んだ。
 ダメッ、ぶつかる!
 ブレーキをかけながらハンドルを切った。ケド空でも飛ばない限り避けられるハズがない。
 豪快な音を立ててフロントが前の車に突っ込んだ。
 衝撃であたしの首がガクンってなって、大狼君の身体が大きく前に飛ばされた。
 すぐに戦闘員とナイトメアが追いついてきた。
 もう車は使えない。あたしは急いで車から降りた。
 バイクを降りて近づいてくるナイトメア。その後ろには戦闘員を引き連れている。戦闘員の数はざっと数十匹まで膨れ上がっていた。
 あたしは何も武器を持っていなかった。ナギじゃないあたしはもう戦えない。だから刀も置いてきてしまった。
 艶やかに微笑みながらナイトメアがあたしに詰め寄ってくる。
「ファントム・メア様の邪魔をするようであれば、ここで死んでもらうしかないわね」
 あたしは後退りをしながら、手に汗を握った。
 大狼君があたしを押し退けて前に出た。
「これでも喰らうがいい!」
 そう言いながら丸い物体がナイトメアに投げつけられた。けど、手の甲で軽く弾かれて玉は後ろの戦闘員に当たった。
 次の瞬間、玉が孵化して金属のワームが戦闘員の腹を突き破った。
 腹を喰らったワームは戦闘員の体内で増殖して、何十匹と増えて次々と戦闘員たちを襲いはじめた。
「キーッ!」
 悲鳴を上げなら戦闘員たちが逃げていく。
 ナイトメアの足元に散らばったワームが彼女に襲い掛かる。ケド、ナイトメアの表情は冷たく涼しい。
「ディファイ!」
 ワームたちが一気に燃え上がった。地獄の業火に焼かれ、金属が熔けてアスファルトにこびりつく。
 大狼君の手から電撃弾が放つ。ナイトメアが胸の前に手を突き出し、電撃弾が彼女の手の平に呑み込まれてしまった。
「まだ無駄な抵抗をするおつもり?」
 冷笑を浮かべたナイトメア。
 あたしはアスファルト蹴り上げ走り、地面に落ちていた電磁ロッドを拾い上げた。
 だいじょぶ、ちゃんと戦える。
 電磁ロッドを振りかざし、ナイトメアの頭に叩き込もうとした。
 バシッ!
 電磁ロッドは軽かるしく片手で受けられた。すぐに電流を流そうとスイッチを押そうとしたケド、その前にあたしは平手打ちを喰らって地面に転がっていた。
 薔薇の香がした。
 どこからともなく、ファントム・ローズが現れた。
「ナギサを傷つけさせはしない」
 薔薇の鞭がナイトメアに襲い掛かる。
 瞬時にナイトメアは飛び退いたケド、薔薇の鞭はまるで生きているように執拗に追いかける。
 薔薇の棘がナイトメアの頬を切った。滲み出す漆黒の血。
 手の甲で血を拭ったナイトメアは微笑んだ。
「勝負はお預けにしましょう」
 ナイトメアはあたしたちに背を向けて、高い塀を越えて姿を消してしまった。
 大狼君は近くに転がっていたバイクを立ち上げ、あたしを置いていこうとしていた。
「ちょっと、あたしを置いていく気?」
「足手まといだ」
「足手まといって、あなたが協力して欲しいって」
 大狼君を乗せたバイクは走り出してしまった。
 あたしは堪らず彼の背中に叫んだ。
「そっちが協力して欲しいって言ったのに、この気分屋ッ!」
 信じらんない。
 無神経なの、自己中なの、バカなのアホなの、所詮あたしは都合のいい女なワケ?
 スゴクあったま来た。
 でも……あたしは戦えない。ナギじゃないあたしは役立たずなのかもしれない。
 あたしだって、ファントム・メアのこと……ううん、リョウのことを……。

《4》

 気付いたらまたファンム・ローズは消えちゃってた。
 あたし独りぼっちになっちゃった。