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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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ファントム・サイバー

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 その答えはあたしの中で出なくなってしまっていた。前だったら、すぐに罪って声を大にして言えたのに、なんかわけわかんなくなっちゃった。
 それよりも今大切なこと……ファントム・メア。
 あたし独りの力じゃどうにもならないのはわかってる。
 もぉわかった、こうなったらちょっと考えを吹っ切ったほうがいいよね、うん。
「あなたと協力します。まずはファントム・メアの居場所を突き止めましょう」
 信じたとか、信じないとか、そういうことじゃなくて、今のあたしには大狼君の力が必要。ただそれだけ。
 サイバースコープの奥の瞳は見えない。けど、その下で大狼君の口は微笑んでいた。
「ありがとう」
 まさか『ありがとう』なんて言葉が出るなんて、ちょっとビックリしちゃった。
 うわぁ〜、なんかまた本当は悪い人じゃないんじゃないかって、そういう気持ちが強くなっちゃったじゃん。信じない、まだ信用したわけじゃないから。
 もっとあたしが冷静にね、そう、物事を進めればいいんだよね。
「ファントム・メアの居場所を突き止める方法はある?」
「ファントム・メアは、このサイバーワールドでは存在が認識されない筈だ。道化に扮していたファントム・ローズがそうだった」
「だったら探す手がかりが掴めないってこと?」
「機械的には感知できないが、目で見ることも触れることもできる。存在しているが、存在していない、それが彼らの本質だ」
「だから探す手がかりないんでしょ?」
「ある」
 そこを早く言ってよね。
 あたしは大狼君の次の言葉に耳を傾けた。
「透明な物体は、その周りを算出することにより求められる」
 それって算数ですか、それとも数学でしょうか?
 言ってることはなんとなくわかるんだけど、どうやって計算したらいいのかとか……数学得意じゃないからわかんない。
「ああ、なるほどねぇー。ファントム・メアの居場所はあなたに任せたから、ガンバッて!」
 ガッツポーズをしてあたしは大狼君を激励した。わかってるフリしたケド、ぜんぜんわかんないから、大狼君に全部任せることにした。
 大狼君はあたしに背を向けて、デスクトップパソコンに身体を向けた。キーボードをちょっと叩いてパソコンが起動したところ見ると、スタンバイ状態で待機させてたみたい。
 左手でキーボードを叩く横で、右手は見えないキーボードを宙で叩いてるみたい。たぶん、デスクトップと、サイバースコープに映ってるほうを同時進行でやってるんだと思う。
 ……この人アホだ。
 パソコンをデスクに複数置いてる人はたまにいるけど、二つのキーボードを同時打つ人はいないと思う。……やっぱりアホだ。
 手を休めた大狼君が回転椅子を回転されてこっちを向いた。
「行くぞ」
「えっ、もうわかっちゃったの?」
「それほど遠くではなかったようだ」
 さっさと部屋を出て行っちゃ大狼君。そのあとをあたしは小走りで追った。

《3》

 大狼君の運転するスポーツカーに乗って街を走った。運転しながらずっと、ドロップ食べてる。
 助手席から見る街の様子。騒がしくて、何か様子がおかしいように感じる。
 信号待ちで車が止まったので、あたしはじーっと外の様子を見ることができた。
 ……あっ!
 人が弾け飛んだ。人自身が弾け飛んだんじゃなくて、まるで着ていた服が弾け飛んだみたいに爆発して、その中から別人が現れたの。
 あっちでは身体がドロドロに溶けて、中から別人が出てきた人がいる。
 もしかして、ネット上の自分が崩壊してるの?
 あっちでは美少女が男の人に変わってる。
 大狼君も街の異変に気付いたみたい。
「世界のバランスが崩れはじめているようだな」
「みんな化けの皮が剥がされていく。ネカマをやっていた人は、男だって正体がバレるし、みんなが付いていたウソが全部バレちゃう」
「まさかファントム・メアの仕業なのか?」
「……わからない」
 でもタイミング的に、何か関わりがあるって考えるのが普通だと思う。
 ケド、もし本当にこれがファントム・メアのしたことだったとして、何の目的なの?
 ネットの匿名性がなくなる。キャラクターを演じることができなくなる。それってネット社会の崩壊を意味してるような気がする。
 発進した車の前に、突然?ゴースト?飛び出してきた。まだ走り出して間もなかったから、ぶつからずに済んだけどハズなのに……?ゴースト?は地面に蹲って動かない。
 大狼君はギアをチェンジしてバックしようとした。ケド、間に合わない。
 半透明だった?ゴースト?が明確化して、怪物に変化してしまった。毛の生えた獣人みたいな姿。車のフロント飛び乗ってきて、長い爪と鋭い牙であたしたちに襲い掛かってきた。
 再び大狼君はギアをチェンジして、物凄いスピードで車は前に走り出した。
 バランスを崩された獣人がフロントガラスに激突した。そのまま獣人はフロントから転げ落ちて、アスファルトの地面に激突して遥か後方。
「なんだったの?」
 あたしは驚いて声をあげた。
「さてな、私たちに敵意があったことは確かだ」
 窓の外を見ると、?ゴースト?たちが次々と怪物に変身していくのが見えた。さっきみたいな獣人だけじゃない、ドロドロのスライムみたいな奴とか、巨大な怪鳥みたいのとか、昆虫みたいな奴まで……怪獣大百科状態。
「でも、どうして?ゴースト?たちが……?」
「彼らはこの世界では存在が弱い。あの状態から別のモノに変われる可能性がいくつもある。加工し易い分、マテリアルとして最適なのだよ」
 そういえば……黒い狼団のアジトであたしが見た奇怪な実験みたいなこと。?ゴースト?から戦闘員を作っていた。
 大狼君がサイドミラーを見た。
「後ろからバイクの列が追ってくる」
 あたしは開いた窓から身を乗り出して後ろを覗いた。
 赤いハチマキをした戦闘員を先頭に、黒い狼団の戦闘員がバイクに乗って追いかけてきてる。
「あなたが呼んだの?」
 尋ねると大狼君はアクセルを踏みながら言う。
「奴等の様子は明らかに可笑しい」
 バイクに乗った戦闘員は電磁ロッドを振り回し、あたしたちを威嚇しているようだった。
 二人乗りしてる後ろの奴がバズーカを構えた。
 危険を叫ぶよりも早くバズーカは撃たれ、あたしたちの乗った車の真横をすり抜けて、対向車線を走っていたトラックに当たって大爆発を起こした。
 ハンドルを急に切った車内が揺れた。
「運転を代われ」
 あたしは大狼君の言葉に耳を疑った。
「はぁ?」
「運転くらいできるだろう」
「車の免許なんて持ってるわけないじゃん。だって実年齢十六歳だよ?」
「レースゲームくらいやったことあるだろう。この世界の運転などその程度だ」
「本当? ゲームとかちょー得意だケド」
 こう見えてもあたしゲーム大好きなの。コンシューマーからアーケードまで、ゲーセンに月にどれくらいつぎ込んでることか……。
 何かもう大狼君ってば無理やりあたしに運転を代わらせて、窓から這い出して屋根に登ろうとしてるし!
 仕方なくあたしは運転を代わって、ハンドルをしっかり持ってアクセルを踏んだ。
 車が急に大きく蛇行した。
「しっかり運転しろ!」