ファントム・サイバー
「ウチのこと助けに来てくれたの? 別にぜんぜん嬉しくなんだから……」
少し顔を赤らめナイは地面に目を伏せた。
ナギは剣を抜いて町の外を指した。
「外に出ろ、そこで勝負だ」
「ケケッ、やなこった。ここでてめぇをデリートしてやる」
「オレと戦うのが怖いのか?」
挑発の言葉にザキマの顔つきが変わった。
「オレ様に怖いもんなんてねぇーよ。いいぜ、外で戦ってやるよ。オレ様の強さにちびるんじゃねえぞ」
二人は町の外の出て行ってしまった。僕も二人をすぐに追いかけ、プレイヤーたちも町とフィールドの境界線から二人を見守った。
僕がナギの横に行くと、手を突き出されて制止させられてしまった。
「オレ独りで戦う」
「何言ってるの!? アタシも戦うよ!」
「これはオレの喧嘩だ」
剣を強く握ってナギはザキマに駆け込んで行った。
風よりも早く、稲妻よりも激しく、ナギの剣はザキマに向かって行った。
「ザキマ!!」
「ケケケッ」
ナギの渾身の一撃を軽々しくザキマはかわした。
「その程度か甘ちゃんよ」
「まだまだ!」
ナギの猛撃は続く。けれど、すべて軽くかわされてしまう。
僕も加勢したほうがいいんだろうか?
でも、ナギが独りでって……僕はどうしていいかわからなかった。
そうだ、今のうちにナイを助けよう。
ナイはザキマの真後ろにいた。ザキマが戦ってる間に逃げればいいのに。
僕は学校生活で培った存在を消す術を使った。そーっとザキマに気付かれないように……ナイに近づいて……っと。
そーっと、そーっと、僕はナイの後ろに回った。
「ナイ、助けに来たよ」
小声で話しかけると、気付いたナイが振り向いた。
「もしかして……アナタは……」
「うん、メアと一緒にアナタを助けに来たの」
「妹は?」
「ちょっと道に迷ってるみたい」
「あの子、方向音痴だから……」
ナイは深くため息をついた。
とにかくまずはナイを助けて、それからメアを探そう。
「ザキマがナギに気を取られている間に早く逃げましょう」
「ウチも逃げたいんだけど、ほらこの首に付いてる奴。ザキマがスイッチを入れるか、ザキマから一五メートルくらい離れたら、ウチの身体に電流が流れる仕組みなの」
「ならそれを壊せばいいんでしょう?」
僕がナイの首輪に触れようとしたとき、
「ダメ、触っちゃ!」
ナイが叫んだ。
けど、すでに僕の手は首輪に触れていた。次の瞬間、僕とナイの身体に電流が走った。
「きゃぁぁぁっ!」
僕は甲高い声で叫んでしまった。
頭が真っ白になって、心臓の鼓動が早くなった。……死ぬかと思った。
ナイも地面に倒れて息を切らせている。
僕が叫び声を上げたせいでザキマに気付かれた。
「オイオイ、ガキを逃がそうとしてるんじゃねえだろうな?」
ザキマの気が僕らに向いた瞬間、ナギが地面を高く蹴り上げて飛翔した。
輝く剣がザキマの脳天に振り下ろされる。
刃はモヒカンの毛を真っ二つにして脳天に叩き込まれた。なのに、剣は頭蓋骨を割ることはできなかった。
ザキマは髪の毛が乱されたことで怒り狂った。
「てめぇオレ様の髪の毛を!!」
鋭い爪がナギの胸を抉り、大量の血を噴出しながらナギは消滅した。
「ナギ!」
僕は反射的に叫んでいた。
一発でナギがやられるなんて、こうなったら僕がやるしかない!
リボルバーを構えて銃弾を放った。
目にも留まらない弾丸をザキマは片手で受けて握り潰した。
「そんなオモチャでオレ様が倒せるとでも思ってんのか?」
ザキマが僕に向かって走ってくる。早い、早すぎる。
僕がやられる瞬間、誰かが叫んだ。
「ザキマ!」
それはナギだった。死亡して町に飛ばされ、すぐにこの場所に戻ってきたんだ。
ザキマは僕の相手をやめてナギに身体を向けた。
「まだ力の差がわかってねえようだな」
「まだオレは戦える!」
ナギはザキマの懐に飛び込んだ。けれどザキマの攻撃のほうが早かった。今度は顔を抉られてナギは消滅した。
でも、ナギはすぐに町の中から戻って来た。
「まだまだ!」
息を切らせながらナギはザキマに立ち向かっていった。
けれど、結果は同じ。
また町から戻って来たナギに僕は駆け寄った。
「独りで戦う必要なんてない。ナギがダメって言っても、アタシは勝手に戦うからね」
ナギは僕の顔を見つめて何も言わなかった。
そして、僕とナギはザキマに立ち向かっていった。
渾身の一撃を繰り出すナギを嘲笑いながら、ザキマは悪魔の爪で死をもたらす。ナギがまたやられた。
僕はすぐに銃弾を放ったけど、ザキマは銃弾の中を掻い潜りながら、僕の腹に爪を突き刺した。
町に戻された僕はすぐにサキマの元に戻った。
数え切れないほど殺され、それでも僕らはザキマに戦いを挑んだ。そうしているうちに、周りのプレイヤーたちもザキマに戦いを挑むようになった。
戦いの輪は広がり、何十人ものプレイヤーでザキマに挑む。
鋼が響き、汗が飛び交い、魔法が唸り声をあげる。
少しずつ、少しずつだけど、みんなの力でザキマに疲労の色が見えてきた。
そして、ついにザキマは怒り狂ったように叫んだ。
「クソ野郎どもめ、オレ様をコケにしやがって!」
周りのプレイヤーたちを惨殺しながら、ザキマは町の中に逃げ込もうとしていた。
ナギが斬り込んだ。
「そうはさせるか!」
ナギの剣はザキマの腹を貫いた。それでもザキマは歩き続けた。
ダメだ、ザキマが町に入る!
ついにザキマが町に足を踏み入れた。けど、弱ったザキマは町に入った途端、地面に倒れこんでしまった。
僕が叫ぶ。
「今のうちにザキマを縛り上げて!」
プレイヤーたちが束になってザキマに飛び掛った。
誰かが叫んだ。
「いないぞ!」
誰が?
まさかと思って僕はザキマの元に駆け寄った。
いない!?
ザキマの姿が消えている。
辺りを見回してもその姿はなかった。
逃げられたのか?
ナイは?
僕の元に駆け寄ってくるナイの姿を発見した。けど、ナイの姿が突然消えた。どうして?
あれ……ナギは?
ナギの姿もなかった。
そして、僕の視界が突然ブラックアウトした。
《4》
視界が晴れると金属で囲まれた部屋にいた。
僕の周りにはナギ、ナイ、迷子になっていたメア、そしてザキマの姿があった。
ここは大狼君の部屋だ!
「強制的にゲームからログアウトさせてもらった」
そう言って姿を現したのは片腕がない大狼君だった。
大狼君の顔はザキマに向けられている。
「さて、ザキマ……貴様の負けのようだな」
なんだか微妙な構図だぞ。
大狼君はザキマと対立してるみたいだし、ナギとメアはザキマと大狼君を鋭い目で見てる。ナイはザキマからも離れてるし、どういうわけかメアとも距離を置いてるように見える。
メアがナイに近づこうとした。
「お姉さま、こちらにいらしてください」
「ヤダもん、誰がアンタのとこになんて!」
うはっ、なんか姉妹喧嘩?
どういうことだ、だってメアはナイを助けようとしてたのに、ナイはメアを避けている。
ナイが大狼君のところへ走り寄って、奴の袖を掴んだ。
「今からウチは大狼君の仲間になるから!」
はぁ!?
作品名:ファントム・サイバー 作家名:秋月あきら(秋月瑛)