ファントム・サイバー
情けなさそうにナギは呟いて、手に持っていたスライムを上空に投げると、剣を抜いて真っ二つに斬った。
……カッコイイとこ持っていかれた!
ショックだ。僕が戦闘の手本を見せて、いいとこを見せるはずだったのに。おそらく最弱の敵に殺されかけ、寄りによってこいつに助けられるなんてショックだ。
まだまだ冒険ははじまったばかりだ。僕が活躍する機会なんていくらでもあるさ。
なんて僕が気持ちも新たに決意を固めいると、メアとナギはさっさと先を歩いていた。
「グズグズしてないで置いていくわよ」
メアの冷たいひと言。氷の刃が僕の純情な心に突き刺さった。嗚呼、なぜか凍えるように寒い。
僕らはマップを突き進み、モンスターたちをバッサバッサ倒して先に進んだ。ぶっちゃけ、モンスターを倒してるのほとんどナギだけどさ。だって僕が戦闘態勢に入る前に、敵に斬りかかってるんだもん。
経験値はパーティーに分配されるらしく、まったく戦う気ゼロのメアにも入ってるはずだ。
レベルを上げながら僕たちは遺跡のマップまで来た。
古代都市の名残だろうか、民家の壁のような物が残っていたり、首のない石造が立っている。
メアが空を見上げた。
「そろそろ日が暮れそうね」
ゲームの中は時間が立つのが早い。あっという間に夜が来る。
僕は肌寒さを感じて両腕を擦った。
「なんかここ寒くない?」
夜だからってわけじゃなくて、何か背中がゾクソクするような寒さだ。嫌な予感。
ナギが剣を構えて辺りを見回した。
「敵だ!」
その合図と同時に、骸骨剣士たちが僕らの前にゾロゾロ姿を現した。あっという間もなく囲まれた。逃げ場もない。
この絶体絶命のピンチは裏を返せば僕の活躍のチャンスかっ!
僕は張り切ってリボルバーを構えた。そんなことをしてるうちに、ナギはすでに骸骨の頭を剣で割っていた。
遅れを取って堪るものか!
「アナタたちの相手はアタシよ!」
リボルバーが火を噴いた。
銃弾が頭蓋骨を割った。それでも骸骨戦士たちは僕たちに向かって来る。
もっと致命的なダメージじゃないとダメだ。
スキル発動。銃弾に魔力を込めて僕は魔弾を撃ち放った。
炎を帯びた弾丸が骸骨剣士にヒットした。
「やったぁー!」
粉々に吹き飛んだ骸骨を見て僕は飛び上がって喜んだ。
でも、喜んではいられない。敵は次から次へと湧き出てくる。奴等は土の中から湧き出てくるんだ。切りがない。
「レイ危ない!」
ナギが叫んで僕の元へ飛び込んだ。
風を唸らせながらナギの剣が僕の背後にいた骸骨を叩き斬った。
危なかった。
「別に助けてくれなんて言ってないんだし、ありがとうなんて言わないんだからね!」
少し照れながらそんなセリフを言ってツンデレぶってみた。
僕らは次々と骸骨剣士たちを倒していった。そんな中で、やっぱり戦う気ゼロのメアが耳をそばだてた。
「ボスが来るわよ」
どこに?
なんて思っていると、僕の身長の三倍はありそうな巨大な骸骨が、廃墟となった神殿から這い出てきた!
あんなデカイの倒せるのか……?
すぐにナギが斬りかかって行った。あいつの選択肢には猪突猛進しかないんだな。
だが、呆気なくナギは巨大な手に振り払われて飛ばされてしまった。
今度こそ僕の見せ場だ!
僕はスキルを発動して魔弾を次々と巨大骸骨の身体に撃ち込んだ。
「あはは、見事に肋骨の間をすり抜けた」
当たったのは二発くらいかなぁ。
弾切れしたので、すぐに弾をリロードしようとした。その隙に巨大な手が僕の目の前に迫っていた。
すぐにナギが駆け寄ってくるけど、間に合わない。僕自身も動こうにも動くヒマすら与えられなかった。
横振りに振られた巨大な手に飛ばされて、僕は宙を二回転か三回転して地面に叩きつけられた。
「死ぬほど……痛い」
気付けば僕のヒットポイントはゼロだった。
遠距離攻撃のキャラは防御力が低いのか……。
《2》
暗転から覚めると僕は町の真ん中にした。目の前にはモニュメントがある。最初の町まで戻された。
死亡したから最後に立ち寄った町に飛ばされたのか……。
しまった!
早くみんなのところに追いつかないと……ってどうやって?
結構進んだから、追いつくの大変そうだなぁ。なんか絶望的。
しかもなんか経験値が大幅にダウンしてる気がするし!
僕がどうしようかと迷っていると、目の前に突然ナギが現れた。こいつも死んだのか。
目の前に僕がいることに気付いたナギはため息をついた。
「すまんやられた」
「メアはどうなったの?」
「オレがやられたあとのことはなんとも……おそらくまだあの場所で一人戦っているか、逃げたのかもしれない」
ここに来てないってことは、戦ってるか逃げたかのどっちかだろうなぁ。
こういう場合、僕たちはどうしたらいいわけ?
「どうしよっか?」
「今からのあの場所に駆けつけても、それまで彼女が戦ってるとは考えづらい。しばらくここで待ってみよう」
「さんせーい」
「ならしばらくここで待ってくれ」
「なぜに?」
「少しプレイヤーと話をしてくる」
「うん、わかった」
ナギは僕を残して姿を消してしまった。
しばらくするとナギが戻って来た。メアは来てない。
「すまない待たせたな」
「ぜんぜん平気」
社交辞令だ。
「どこ行ってたの?」
「パーティーチャットの方法を聞いてきた」
「なにそれ?」
「離れた場所にいるパーティーに連絡を取る方法だ」
それを使えばメアを連絡が取れるってわけだな。とっても便利だ。
《聴こえるか?》
うわっ、いきなり頭の中にナギの声が響いた。
これがパーティーチャットか。で、どうやるの?
「やり方教えて」
《頭の中にショーカットコマンドを思い浮かべて、その中に現れたパーティーチャットを選択するだけだ》
《こうやるのね》
メアの声がすぐにした。
僕もさっそくやってみよう。
《あたしに声もちゃんと聴こえてる?》
なんかできたっぽい。
ナギがメアに尋ねる。
《メア、今どこにいる?》
《さあ、どこかしかしら。敵を殲滅したまでは良かったのだけれど、方向音痴だから道に迷ってしまったわ》
《すぐに行くから何か目印を教えてくれないか?》
《わたしなら平気よ一人で大狼を探すわ、手分けしたほうがいいでしょう。何か新しい情報が手に入ったら教えて頂戴》
《本当に独りで大丈夫なのか?》
《心配しないで、ごきげんよう》
……心配しないでって言われても、自分で方向音痴だって言ったような。
難しい顔をしてナギが僕の顔を見てきた。
「大丈夫だと思うか?」
「だいじょぶだよ、だって独りでモンスター殲滅させたんでしょ?」
「そうだな」
今までぜんぜん戦わなかったのに、僕らがいなくなったあとに本気を出したのか。僕らが死ぬ前に出して欲しかった。
僕らはメアの言葉を信じて再び旅立つことにした。
レベルの上がっている僕らは、最初よりも早いスピードでマップを進んだ。
分かれ道に来て、ナギの足が止まる。目の前には大きな木が一本立っている。
「違う道を行ってみよう」
「えーっ、さっきと違う道行くのぉ〜」
「向こうの地域はメアに任せよう」
作品名:ファントム・サイバー 作家名:秋月あきら(秋月瑛)