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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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ファントム・サイバー

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Link5 レイ Ver.2.0


《1》

「どこなのここ?」
 それが僕の第一声だった。中世ヨーロッパ風の街並み。魔法使いっぽい奴とか、なんか耳が長いエルフっぽい奴とか、鎧を重たそうに着てる奴とか、とかとか……。まるでRPGの世界だな。
 先に入ったメアとナギの姿を確認した。二人とも初期装備っぽい薄手の布の服を着ている。やっぱり僕が思うに、ここはMMOの世界に違いない。
 ……で、そうすればいいの?
 こういうゲーム苦手なんだ。特にシナリオもなくて、何していいかわからないゲーム。
 僕はメアに顔を向けた。
「どうする?」
「わたしこういうゲームに疎いの」
 ナギに顔を向けると任せろと言わんばかりの顔をしている。
「ついて来い」
 それだけ言ってナギが歩き出した。マジで、マジで得意なの? 実はゲームとか得意系?
 ナギに着いて歩くと、迷わず町の先にある神殿に向かった。
 神殿の中は無意味に広い。白い柱が立ってるギリシア風の古い神殿だ。
 赤い絨毯の上を歩いて奥へ奥へと進むと、行き止まりの部屋に何やら輝く物体があった。僕と同じくらいの背丈がある宝石みたいだ。七色の優しい光を出している。
 僕らになんの説明もしないでナギはその宝石に触れた。そして、瞑想するように動かなくなってしまった。
 突然、ナギの身体が強く輝き出した。
 わかった、きっとそうだ。
 輝きを治まるとナギ姿に変化が起きていた。初期装備が鎧に変わって、見るからにナイト風。初期の職業を決める場所なんだ。
「次はアタシやる!」
 おもしろそう。メアを差し置いて僕は宝石の前に立った。
 よし、行くぞ!
 僕の手が宝石に触れた瞬間、いくつかのイメージが頭に流れ込んできた。ほとんどシルエットだけで、カラーで表示されてる職業はちょっとしかない。最初から全部の職業を選べるわけじゃないらしい。
 選べる職業は、ナイト風、魔法使い系、僧侶っぽい奴、盗賊、弓使い、ターバンの奴、あとは……これに決めた!
 僕の身体が輝き出し、何か熱いものが心の底から漲ってくる感じだった。
 輝きが治まってすぐに僕は自分の足元を見た。ウェスタンブーツを履いてる。頭に手を乗せるとテンガロンハットだ。腰のホルスターには銃が装備してる。
 よし、完璧だ。美少女ガンマンってとこだな。ガンウーマンか。
 次にジョブチェンジしたメアは魔法使いになった。メイガスっていう攻撃魔法系を使うキャラらしい。
 で、これからどうするの?
 僕はメアじゃなくてナギに顔を向けた。
「これから何をしたらいいの?」
「プレイヤーに話を聞けば大狼君の行方がわかるかもしれない」
「うん、わかった」
 とりあえず、一番近くにいるキャラに話を聞いてみよう。僕はすぐ近くに立っていた神官に話しかけてみることにした。
「あのすみません、ちょっといいですか?」
「ここはメイブス神殿。そこにあるクリスタルに触れることによって、好きな職業になることができます」
「そうことが聞きたいんじゃなくて、人を探してるんだけど」
「職業を変えると装備は自動的に外されるから注意してください」
「じゃなくて、あたしの話聞いてる?」
 なんだこいつ僕のことシカトかよ。
 ちょっとイラっと来て掴みかかろうとしたところで、ナギが僕の肩を後ろから叩いて止めた。
「それはNPCだ。話しかけても決まった文句しか返してこない」
「もしかして、これって村人AとかBとかそういう感じのキャラなの?」
「そうだ」
「…………」
 僕は恥ずかしくなって顔から火が出そうだった。まるでマネキンに話かけてる酔っ払い並に恥ずかしい行為だ。
「冗談、ジョーダン。ちょっとウケ狙おうとしたに決まってるじゃん、あははー」
 なんて言ってみたものの顔が熱い。絶対誤魔化し切れてないし、窒息しそうなほど苦しい言い訳だ。
 こういう恥ずかしいことをしちゃった場合の対処法は!
「よしっ、神殿を出てプレイヤーに話を聞きに行こう、おーっ!」
 僕は拳を高く上げて何事もなかったように神殿の外に歩き出した。
 町で情報収集をはじめた僕たちだったけど、大狼の行方はわからなくてさっぱりはかどらなかった。でも、なんかこのゲームのシステムとかは理解してきた。
 三人で分かれて情報収集をはじめてしばらく、僕はなんの収穫もないまま待ち合わせの場所に向かった。
 町の中心にあるモニュメントの前に行くと、人ごみの中にメアとナギの姿あった。
「遅れてゴメン」
 僕が謝りながら駆け寄るとメアが静かに笑った。
「いいのよ別に。何か良い情報は手に入れられたかしら?」
「ううん、まったく」
「……遅れて来たのに収穫ゼロなんて」
 微笑んでいた顔が一変、鼻で嘲笑ってボソっと呟かれた。この態度の切り替えは、ものすごく性格悪いぞ。
 ナギが親指で町の入り口を指差した。
「仕方ない別の町に行ってみよう」
「町の外にはモンスターとかいるんでしょう?」
 僕が尋ねると、当たり前のようにナギが頷いた。
「当たり前だろう。でもまだはじめたばかりだから、弱い敵しかでないはずだ」
 だったらいいけど、なんか極稀に強いモンスターがエンカウントするとかないのかなぁ。
 僕らは人が集まる次の町を目指すため、ついにフィールドに出ることを決意した。
 が、外に出た途端、僕らを覆う黒い影。見上げると、棍棒を持った小太りのオッサン風のモンスターと出くわした。
 僕と目が合ったモンスターはいきなり棍棒を振り下ろしてきた。
「きゃっ!」
 棍棒は僕の身体にクリティカル。見事に吹っ飛ばされた僕は地面にダイブ。カエルのようにうつ伏せでつぶれた。
「死ぬ……ザコしかいないなんて……ウソ付きめ」
 僕は必死になって町の中まで這って逃げ帰った。
 すぐに僕のあとを追ってメアとナギが追いついた。
 ナギは済まなそうな顔で僕を見ている。
「今、プレイヤーに話を聞いたら、ここの出口から出るのは初級者には無理らしい」
「そーゆー情報は早く仕入れてよね」
 僕は顔をぷくーって膨らませて怒りを露にした。絶対リアルだったらこんな動作しない。美少女の姿をしてるからこそ似合うんだ。
 初期装備の中に回復薬が入ってたけど、ここで使うのはもったいない。瀕死の重傷を負ったけど町の中にいれば平気だ。じっとしていると自然に体力が回復する仕様らしい。
 僕の体力が回復するのを待って、再び町の外に出ることになった。今度はちゃんと弱い敵がいる出口から出た。
 草原のフィールドに出た僕らを待っていたのはスライムだ。RPGのザコキャラとして定番な、ブヨブヨしたゼリーとかジェルみたいなモンスターだ。
「ここはあたしに任せて!」
 僕は意気揚々とリボルバーを抜いて構えた。
 そんな僕を嘲笑うかのように、スライムが突然僕に飛び掛ってくる。予想外の瞬発力だ。スライムは僕の眼と鼻の先まで――。
「ウガッ!」
 僕は思わず変な声を出してしまい、見事にスライムは僕の顔面に張り付いた。
「く……苦し……」
 誰か取って、死んじゃう!
 必死になって顔からスライムを剥がそうとしたけど、なかなかしつこくて剥がれてくれない。このままだと本当に窒息死してしまう。
 突然、僕の顔からスライムが消えた。
「バカか……」