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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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ファントム・サイバー

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「本物ねえ……。このワールドで生まれたアンタにとって、ここが現実でアンタが本物だと思うけどなぁ」
 そうだ、オレ様は本物だ。けどよ実感がない。実感を得たい、自分自身の存在を証明したい。
 オレ様はポケットから煙草の箱を取り出した。そうだ、煙草は切れてたんだ。ったくやってらんねーな。
「オイ、煙草買いに行くからついて来い」
「なんでウチまで行かなきゃいけないの?」
「てめぇ自分の立場がわかってねえのか!」
 イライラでオレ様は拷問具のスイッチを押した。
 苦しそうな顔をしてガキはソファの上から落ちた。ケッ、クソガキが。
 ゆっくりと両手を付いて立ち上がろうとしているガキが、オレ様の顔を見上げて笑った。
 なんだよその笑みは?
 次の瞬間、個室の中に戦闘員が飛び込んで来ていた。
 畜生、オレ様が戦闘員にやられればいいと思って笑ったのかよ。だがな、こんなザコにやられるオレ様じゃねえ。
 すぐにアイアンクローを装備して戦闘員を八つ裂きにした。逃げようとしたもう一匹も背中から切り裂いてやった。ざままあ見ろ。
 ここに来た戦闘員はみんなヤった。問題は次がまたすぐ来るだろうってことだな。
「行くぞクソガキ」
「どこまで逃げる気?」
「体制を整えるまでだ。そしたら大狼の野郎をぶっ潰しに行く」
 オレ様はひらめいた。この世界で逃げてったってすぐに大狼に見つかる。さっきのガキの話がヒントになったぜ。
 ……別の世界に逃げればいい。

《4》

 途方もなく広い荒野を歩き、岩場まで来たオレ様たちは休憩することにした。
 岩を椅子代わりにしたオレ様の前には、白いローブを来たガキの姿がある。クレリック系のジョブがする格好だ。
 オレ様はダークハンドってジョブにした。モンク系のジョブでクラスチェンジすれば使用可能になる。最高位のジョブじゃねえが、気にいったからこれにしただけだ。常に上半身裸ってのは寒いけどな。
 もちろんチートでジョブチェンジした。パラメーターも最大値まで上げたから、ダークハンドは見た目だけで、中身は最強のプレイヤーってわけだな。
「こんなゲームに逃げ込んでどうする気?」
 ガキがオレ様に尋ねてきた。
「このゲームには、このゲームのルールがある。たとえ大狼だろうが、このゲームのルールには逆らえねえはずだ」
 そこにオレ様の勝機がある。
 オレ様たちが逃げ込んだのはネットワークRPGの世界だ。プレイヤーが冒険したり、プレイヤー同士でコミュニケーションしたりする。人との馴れ合いが楽しくてやってる奴もいれば、ひたすらモンスターばっかり狩ってる奴もいる。ゲームの内容はプレイヤー次第ってわけだ。
 オレ様たちがここに来てだいぶ時間が経ってる。まあ、それもゲーム内での時間だけどな。何度か日が暮れて、朝を何度か迎えた。モンスターとも戦ったし、ウザイプレイヤーも殺してやった。
 ……ん?
 岩が動いたような気がするぞ。おっ、どうやらモンスターのお出ましみたいだぜ。
 現れたのは石の身体を持ってやがるゴーレムだ。
 オレ様はすぐに両手に装備してるクローでゴーレムを殴りつけてやった。
 粉々にぶっ飛ぶゴーレム。一発で終わりかよ、呆気ねえな。
 ゴーレムをぶっ倒したオレ様にガキが口を出してきやがった。
「そんな派手にチートして運営側に気付かれるんじゃないの?」
「アカウントでも停止されるってか? やれるもんならやってみろってんだ」
「ウチのパラメーターも上げてくれればいいのに」
「強いのはオレ様だけでいいんだよ」
 近いうちに大狼はここに来るだろうよ。チートで最強になっただけじゃ奴には勝てない。何かいい手を捜さなきゃいけねえな。
「またモンスターだよ」
 ガキに言われてオレ様は振り向いた。
「どこにもいねえぞ?」
 クソガキ、オレ様をからかいやがったのか?
「うおっ!」
 本当にいやがったぜ。
 今度のモンスターは?影?だ。厚みのない薄っぺらな野郎だ。
 さっさと片付けてやろうとオレ様はクローを振りかざした。だが?影?はそれを受け止めやがった。そして、驚くオレ様の胸を長い爪で切り裂きやがったんだ。
「クソッ」
 今のオレ様は最強のはずだ。なのになんでこの野郎は……わかったぞ!
 ?影?をよく見ると、それはオレ様だった。この?影?のモンスターは、プレイヤーのステータスをパクりやがるんだ。つまりオレ様が今戦ってるのは、オレ様自信ってわけだ。
 こんな野郎と真っ向からヤリ合って堪るかよ、冗談じゃねえ。
 裏技を使うしかねえな。
 オレ様は?影?に向かってステッカーを投げつけた。ゲームのプログラムそのものを壊してやる。
 ハッキングしてクラッシュだ。
 オレ様は架空のキーボードを叩き、この?影?のプログラムに侵入した。そして、あとはヒットポイントをゼロにすればおしまいだ。
「あばよ」
 ヒットポイントがゼロになった?影?は呆気なく消滅した。
 この辺りはこんなモンスターまで出やがるのか。さっさと別の場所に移動したほうが良さそうだな。
「行くぞクソガキ」
「はいはい。でも、アレはいいの?」
「あれって何だよ?」
「アレ」
 ガキの指さしたほうに目線を向けると、崖の上に立っている人影が見えた。
「ケケッ……予想よりも早いな」
 オレ様の心が躍った。奴が来た。
「私から逃げられると思ったかザキマ」
 崖の上に立っていたのは大狼だった。あんな高い場所に立ちやがって、オレ様より高い場所に立つんじゃねえよ。
「逃げられるなんて思っちゃいねえよ。てめえを待ってたんだぜ」
「私をここで倒す気か? それができるのか貴様に?」
「さてな。けどよ、このゲームにはルールがある。てめえの力はこのゲームのルールに縛られるんだ」
「それは貴様とて同じだろう」
「そうだ、条件は同じ。キャラのパラメーターにも上限がある。あとはプレイヤーの腕しだいだぜ」
「なるほど」
 深く頷いた大狼が崖を飛び降りて来やがった。おいおい、よくあんな高い場所から飛びやがったな。
 オレ様と大狼が向かい合った。
 この世界では死んでも町に戻されるだけだ。普通に大狼を殺すだけじゃ意味がねえ。ここのルールに乗っ取りながらも、ハッキングを使ってヤリ合う必要がある。大狼そのものをデリートしなきゃなんねえってことだ。
「行くぜ大狼」
「いつでも掛って来るがいい」
 そういう余裕な態度が腹に来るぜ。
 大狼が握ってるのは金属の鞭か、中距離攻撃だな。オレ様はクローだから鞭より踏み込む必要がある。けどよ、攻撃力と小回りはオレ様のほうが上だ。
 生き物のように動く鞭の猛攻をかわしながら、オレ様は大狼の懐に飛び込んだ。このまま腸を抉ってやる。
「死ね大狼!」
「その程度か」
 早いっ!?
 大狼のスピードはオレ様の予想を遥かに超えていた。ありえないぜ、こんなこと。
 オレ様の攻撃を軽々しくかわして大狼の鞭が撓る。
「クソッタレ!」
 鞭はオレ様の身体に巻きつき自由を奪った。こんなにあっさりやられるなんて、ウソだ、オレ様は認めないぞ!
 大狼は鞭を引いて、よりオレ様の身体をきつく縛った。
「貴様は頭が悪いわけではないが詰めが甘い」