ファントム・サイバー
まだあたしはコイツのことを信用したわけじゃないケド、ちゃんと逃がしてくれたし敵じゃないっぽい。
「黒い狼団に捕まってる人たちを助けたい。そして、できることなら大狼君を倒す」
「じゃあ、ボクがちょっと暴れてザコたちの気を引きましょうか?」
「お前、戦えるのか?」
「そこそこ強いですよ、ボク」
この言葉を信じていいのかなぁ。でも、あたし一人じゃまた……。
「わかった、お前を信じよう」
「信じてくれるんですか? じゃあ、今からボクたちは親友ですね!」
「……それは断る」
「そんなぁ。いいこと教えたら親友になってくれますか?」
「なんだ言ってみろ」
「黒い狼団のナンバー2のザキマが大狼君を裏切って、大暴動を起こして組織はボロボロらしいですよ」
ザキマって誰だろ? もしかしてあのモヒカン?
ケド、そんな情報どこから仕入れたんだろ。やっぱり得体の知れないピエロだ。
仮面を被った顔でピエロはあたしの顔を覗きこんだ。
「これで親友になってくれますよね?」
「断る」
「えぇ〜、それってサギですよー」
聴こえないフリをして、さっさとあたしはマンホールを降りはじめた。
マンホールを降りると驚いたことに、なんとピエロが先にいた。瞬間移動までできるなんて、どんどんこのピエロのことが恐ろしくなってきた。
「さあ、行きましょう」
スキップで走るピエロに置いて行かれないように、あたしは全速力で走った。見た目は軽やかなスキップなのに、異様に移動スピードが速い。
アジトの入り口まで来ると、やっぱり見張りが立っていた。
ピエロは片手を軽く振って戦闘員に挨拶をする。
「こんにちは、見張りご苦労様です」
思わぬ相手の行動に戦闘員の動きが止まった。
その瞬間、ピエロは隠し持てるハズがない巨大なハンマーを大きく振った。
ハンマーに強打された戦闘員は一発で気を失って倒れた。
そんな戦闘員に気を取られていると、もうピエロはハンマーなんて持ってなかった。この世界の法則を最大限に利用できる術を知っているのかもしれない。そうとしか考えられない。
驚きを隠せないあたしを他所に、ピエロは扉の暗証番号を入力していた。そして、扉は簡単に開いてしまったのだ。このピエロにかかれば、なんでもアリみたい。
アジトに入ってすぐ、道は三方向に分かれてる。
「じゃあ、ボクは向こうのほうで暴れてきますねー」
ピエロはさっさと廊下の向こう側に行って、角を曲がって姿を消してしまった。本当にだいじょぶかなぁ?
少し心配だけど、ここまで来たら引き下がれない。
あたしがピエロの消えた方向とは逆に歩き出そうとしたとき、後方から巨大な爆発音が聴こえた。
なに!?
大暴れするって行ってたけど、今の爆発音は異常じゃ……?
また爆発音が遠くから聴こえた。続けてサイレンの音まで聴こえはじめた。急がなきゃ。
ピエロが敵の目を引きつけてるからかな、あたしは戦闘員と鉢合わせしなかった。
たまに戦闘員たちの走る音が聴こえるケド、みんな通り過ぎてどこかに行ってしまう。
順調にあたしがアジトの中を散策していると、最初の目的地についた。
でも、扉が開いてる?
あたしはいつでも刀を抜く準備をして、暗い部屋の中に足を踏み入れた。
甘い花の香りが微かにする。
やっぱり誰かいる……。
「レイ?」
薄闇の中にいたのはレイだった。
やっぱりあたしがあげたマップを頼りにアジトまで来たんだ。でも、レイしかいないのはなんでだろう。
またレイに会えたのに、あたしはどうしていいかわからず、彼の横を無言で通り過ぎた。
湿ったこの部屋の置くには鉄格子の牢屋があった。中でなにかが蠢いてる。それは?ゴースト?だった。
このくらいの鉄格子なら斬れる。
神速に迫る速さであたしは抜刀した。そして、鞘に素早く戻すと同時に、鉄格子は斬れていた。さすがあたし。
「後はお前たちの自由だ」
後は彼らの意志に任せよう。逃げようと思わないヒトをムリに連れ出しても意味がない。
あたしはこの部屋を後にすることにした。次はナイを助けなきゃ。
「待ってよ、どこに行くの?」
あたしの背中にレイが声をかけてきた。あたしは振り返らずに答える。
「大狼君を倒しに行く。そして、ナンバー2のザキマも必ず倒す」
モヒカンには借りがある。暴動を起こしたっていうから、ここにいない可能性はあるケド、手がかりはつかめると思う。
「タイロウクンって誰?」
まさかそんな質問をされるなんて思わなかった。
「なにも知らずにこの場所に来たのか?」
「何か悪い?」
「狼どもの君主。大狼君とは黒い狼団の団長の名だ」
「つまり諸悪の根源、悪の大魔王ってことね」
「そのようなところだ」
なにも知らずに彼はここまで来たみたい。ナイを助けに来たのはわかるけど、敵の大将くらい知ってていいと思うケド。
牢屋があった部屋を出ると戦闘員の姿がすぐに見えた。やっぱりピエロ一人で全部引きつけるのはムリみたい。
あたしは二振りの刀を抜いて構えた。
コッチにくる戦闘員のハチマキは青だった。黒よりだいぶ強いケド、あたしの敵じゃない。
あたしは俊足で金属の床を叩き、疾風のような一撃を繰り出した。
一撃、一撃、あたしの繰り出す業は全て止め一撃。
次々と鮮血が壁や床を彩った。自分の血はまだいいケド、人の血って見てると気持ち悪くなる。ウェ〜ッ。
走りながら、足を止めずにあたしは戦闘員たちを倒して進んだ。後ろからはちゃんとレイが付いてきてる。
……しまった。
敵を倒すのに夢中で道に迷った。ナイを助けに行きたかったのに、ぜんぜんどこに行ったらいいのかわからないし、大狼君の部屋までわからない。
レイに道を訊いてもわからないと思うし、なんか彼に訊くのはイヤ。道なりに進んでたらだいじょぶかなぁ?
あたしが道に迷って走っている最中も、戦闘員の数はどんどん増えてきた。ピエロどうしたんだろ、もしかしてやられちゃった?
ピエロのことを気にかけてる余裕もなくなってきたみたい。
一本道の廊下で挟み撃ちにされた。そこでついにあたしたちは足を止めた。
「お前戦えるか?」
あたしが尋ねるとレイは首を横に振った。
「ムリムリ、銃の弾が切れちゃったんだもん」
換えの弾くらい、なんで持ってないの?
たしか彼の銃ってリボルバーだと思ったケド、リボルバーなんて六発くらいしか撃てないんだから、普通予備の弾くらい持ってるよね。ホント、使えない人。
あたしたちを挟み撃ちにしたのは、赤、青、黄、三種類も揃ってるよぉ。あともうちょっと色数があれば、戦隊物ヒーローになれるのにね。
レイは役に立ちそうもないから、ここはあたし独りでやるしかない。
「烈風斬!」
烈風のごとく一撃で敵を薙ぎ払う。
「稲妻衝き!」
稲妻のごとく敵を貫く。
「剣の舞!」
……っあ、これ剣じゃなくて刀だ。
戦闘員たちを一掃してあたしたちは先を急いだ。
そして、ナイを助けに行くハズだったのに、大狼君の部屋の前まで着ちゃった。こうなったら先に大狼君を倒すしかない。
「ここだ、この先に大狼君がいる」
あたしは踏み込む合図をレイに送り、重い扉をゆっくりと押した。
《5》
作品名:ファントム・サイバー 作家名:秋月あきら(秋月瑛)