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鴉2 「貴方の絶対の見方S×M」

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銃口が揺れるのは、腕が震えているからだ。この状況に恐怖を感じているヤツに負けることはない。

心の中で断言すると蜂は体制を低くしがら空きな足に一振り。何が起こったのかもわからず倒れる男。
床に手を着いて立ち上がろうとするが足が動かない。
まるで、膝から下が無くなったような・・・


無い。無いのだ。


男が顔をゆっくりと自分の足のほうに向けるとそこにあるべき二本の足が無いのだ。


「ぎゃぁぁぁぁああああ!!」


叫ぶと同時に男の心臓は止まった。蠍の銃弾が胸に打ち込まれたのだ。
気がついたときには息をしているものは事務所の中にいる数人を除いて鴉達だけになった。
開けっ放しになっていた事務所の中からも鴉目掛けて銃弾が打ち込まれる。

近くに倒れている体格のいい男のスーツを掴むと蠍は持ち上げた。
その男を盾にしながら事務所の室内に飛び込む。

事務所の中にいたのは既に息絶えた田嶋とまだ息をしている4人の組員。
そして、S×Mの副社長、福田。
手前にいる二人に銃弾を打ち込まれる、蠍の影に隠れながら蜜が撃ったのだ。
福田を守るように立ちふさがる残りの二人が声を荒げた。


「手前等、何処のもんだ!」


蠍は深いため息を吐きながら盾にいていた屍を床に捨てる。
朝日が昇り始めたのだろう、部屋の中に少し青い光が灯る。
その朝日に当てられて露になる青年の顔に福田は後ずさる。


黒い髪の中から見える、赤い瞳。


それはまるでこの世のものではない様で確かにここにある。
それはまるで夢の様で現実である。

青年の目はただただ、目の前のものを見つめているだけで感情は読み取れない。
だが、こちらの感情はすべて見透かされている。
錯覚だとは分かっていても言い露せられない恐怖は
彼等の後ろに地獄絵図が描かれているからじゃない。
福田は息をすることすら忘れてしまったように口を硬く閉じ唾を音を立てて飲み込む。


「答えろっ何者だっ!!」


恐怖の中、怒りに任せて田嶋の側近が叫ぶ。
酷い男と聞いていたが流石にこの状況に焦りを感じているらしい。

人数が多ければ勝てる。そう思って群れてきた男達にとって今までの自分を全否定されるような状況。
五十はいたはずの組員達は既にこの世を去り今まさに自分もその後を追おうとしているのだ。


「鴉だよ。」


赤い瞳の青年の後ろからその体をぎゅっと抱きしめるように白い腕が見える。
青年の体からひょっこりと顔を出した少年は片目を隠している。
この場に一番似合わない綺麗な顔をした少年を見て福田は赤い瞳の青年のときとは違った緊張を覚える。


この顔は・・・・・・・


脳裏にある男の顔が浮かんだと思ったら、腹部に激痛が走る。
目の前を見れば先まで立っていた二人の男が床に倒れているではないか。
思考が止まる。


殺される。殺される。殺される。


魔女の使い魔に裁かれる―


蠍の腕の中の銃口が光ると福田も組員達のあとを追うように床に倒れた。


******

その日の午後、何時までたっても出社してこない福田からS×Mの社長
松沢の所に連絡が来た。
松沢は携帯の着信ボタンを押すと、福田の声を確かめる前に怒りだした。


「ちょっと、福田君。今何時だと思ってるんだい?もう2時だよ、2時、何をしてるんだい、
 君ね仕事を舐めちゃダメだよ、舐めちゃ。え?黙ってないで何とかいいなよ」

だがしかし、受話器からは声は聞こえず更に松沢が苛立つと
同時に社長室のドアをノックする音がする。

コンコン―

「客の様だ。いいかい福田君黙ってないで早く会社に来なさい。いいね。」

電話を切ろうとした瞬間にスピーカーから声がする。
松沢はその声に携帯の電源ボタンを押そうとしていた指を止めた。

「ドアを開けてもらえますか。」

福田からの電話だったはずだが、電波を通して伝わる声に聞き覚えはない。
若い男のようだが、今、ドアを開けろといったか?
松沢が不気味なこの状況に一瞬黙ると、コンコンと再度ドアが叩かれる。
その音は社長室へ響くのと、電話から聞こえてくる音と重複して聞こえた。


「だ、誰だね・・・?」


体が熱くなった。着ている背広を今すぐにでも脱ぎたいくらいに。


「ドアを開けてもらえますか?」

「答えなさい!誰だ!」

ガチャ・・・とドアノブを捻る音がする。
松沢は身に危険を感じたのか、デスクに付いている引き出しから、
拳銃を出すとドアに向けて構えた。

「一体、誰なんだ!答えなさい。答えないさい!!」

「・・・鴉と呼ばれています。」

鴉?そんな団体名など聞いたことはない。松沢の思考回路は混乱するばかりで
なかなか冷静に物事を判断できない。
混乱した思考回路ばかりに気を取られていると、ドア開く。
ドアが開いた瞬間に銃を持つ手に力が入るが、気がつくと音を立てて
床に銃が落ちていた。じんと腕が痛んだ。
目の前に現れたのは清掃員の作業着を着た青年だった。
その青年の手には口径の長い銃が握られていた。
サイレンサーが付いているらしく、銃声はしないようだ。
その所為か先ほど銃を落とされた事にも気付かなかったのか・・・
いや、それにしても早すぎる。

呆気に取られていると、松沢の目の前まで突然走りだした青年は
デスクの上に飛び乗る。ダンっと靴が鳴ると同時に松沢の
額に銃口が突きつけられた。

「ま、待ってくれ!一体、何でこんなことをするんだ!」

だが、青年は答えない。
何故なら蠍はこの男を殺す理由など多くは持ち合わせていないからだ。
恨みがあるわけではないし、松沢の悪事に対してだって興味は無い。
理由を述べるとしたら、命令されたから。
この男を殺さなければ任務は完了しないし、報酬も得られない。
正義を語れば格好が付くのかも知れないが蠍には格好をつけて得をすることもなく、
自分が生きていく為に、ただ魔女の命令に従っただけだ。
そんな事をこの男に伝える必要も無い。もう、死ぬのだから。


「か、金か?金が欲しいならいくらでもやるっ、君は一体何者なんだ。」
「確かに金は欲しいな」

ならと続けようとする松沢を制するように蠍は言葉を続けた。

「だが、あんたから貰う気は無い。これでお終いだ」

待ってくれと松沢の口が動いたが声は聞こえなかった。
何度も何度もこうして人の最後を見て来た。

呆気ないこの一瞬を蠍は目を瞑ることなく見届けた。
また一つ背中に荷物が増える。
奪った者の命を背負うと言うことは楽じゃないなと心の中で静かに思う。
清掃員が道具を入れるのに使うワゴンの中に死体となった松沢を
放りこみゆっくりとビルを後にした。


S×Mの社員達にはそれも極自然な形で新しい社長と副社長が伝えられた。
倒産寸前だったS×Mを大手の会社が吸収するという内容だ。
良く考えてみればアレだけ急成長していたのにその理由は首をかしげる内容ではないかと思うのだが、
どうやら誰も不思議には思わなかったようだ。

そして何事も無かったようにいつもの日常が戻るのだ。


*


四人の男がビルを出て行った後に黒いベンツが田嶋組の前に止まる。
その中から長い足が下りてくる。