鴉2 「貴方の絶対の見方S×M」
組員達が涙に腫れた顔をしていた。こんな時間に都合よく
事務所に田嶋組の組員が集まっていたのには訳があった。
*
鴉が奇襲をかける1時間ほど前。
組員達に頭から用があるから今すぐ事務所に来いと連絡があったのだ。
始めに頭の側近である男が事務所にたどりつくとソコには既に息絶えた頭の姿があった。
数十分前の電話の声は確かにお頭の声だったというのに今目の前にいる頭は確かに死んでいた。
パニック状態に男はなるがそこから男は次々と電話をかけて、組員やお頭の兄弟達に連絡を入れた。
12畳程の一室に集まった男達は、ありすぎる心辺りの中から
誰の仕業だのなんだと推理を始めるが、そのどれもがハズレである。
田嶋組のお頭が死んだと連絡を受けた福田は他の組員達より遅れて事務所に訪れた。
ビルの前に黒い車を止めて数人の部下達が礼をするなか階段を上がっていく。
ドアの前を塞いでいる男達が退くと福田は部屋の中に入って行く。
そこにはソファに寝かされ息絶えた男を囲んで強面の男達が咽ながら泣き叫んでいる。
「福田さんっ!!頭が!頭が!!」
顔を涙と鼻水でグシャグシャにした汚い顔の男がすがりついてくる。
福田はそんな男を退けるでもなく、抱えてやるでもなく目を見開いて立ち尽くしていた。
周りの連中は未だに的外れな推理をしているが福田はある存在を思っていた。
まさか・・・
噂でしか聞いたことのないものだが、
確かに存在し、ここ最近自分もその存在に少しばかり恐怖を感じていたのだ。
だがしかし、自分の周りにそれらしき不穏な動きはなかったと
報告を受けている。実際自分の身にも特に変わったことはなかった。
自分の考えすぎなのかもしれない、組員が言うように他の組の仕業と考えるほうが辻褄があう。
ヤクザである以上ヤクザ同士の抗争は免れない。頭の狂った連中の集まりだ、何を引き金に
動きだすか分からないのだから。
でも、しかし、いや・・・
まかさ・・・鴉?
「田嶋・・・一体誰にやられたんだよ。」
他の組員達が福田のそこ言葉の本当の意味を理解することは
恐らく無く単純に自分達の頭を思っての言葉と受け止めた。
このまま組員達の心情を混乱させて下手なことを仕出かされては困ると
考えた福田は、まず組員達を宥める様に話を始めた。
先までは手を差し伸べるわけでもなかった福田にすがりつく
組員の男の肩に手を添えて優しく声を掛けようとした刹那―
銃声が鼓膜を劈く様に響く。
否、鼓膜ではなく福田の「まさか」ではないと言う小さな希望を劈くように響いた。
そこに居た全員が身体を強張らせ、次々と罵声を上げ始める。
―あそこの組が来たんだ!!
―野郎、ぶっ殺してやるっ!
―頭の敵だやるぞぉおおお!!!
福田の耳に届く組員達の声はただの雑音でしかなかった。
背筋を垂れる汗が酷く冷たくて、福田は体が震える。
次第に耳に届くのは銃声でも部下達の雄たけびでもなく自分の早まる鼓動の音だけだった・・・
*
駆け上がってきた者の姿を見て田嶋組の組員達は呆気に取られた。
見たことも無いような色男が3人に少女なのか少年なのか判断に困る子供が目に入ってきたのだ。
勢いよく飛び足してきたと思ったら今度はあわてるように4人は階段に足を戻し、壁に身を潜めた。
「めっちゃ集まってるやんけっ!どないすんねん!」
蜜は壁に身を潜めるとすぐさま罵声を吐きながら蜂の頭をはたいた。
それに対して焦っているのか、余裕なのか分からない蜂はあはは~と笑って見せた。
「でも、面倒だから全員ここに集めろっていったのみっちゃんだよね。」
ローズの発言に一瞬眉を潜めた蜜だが開き直ったのか先ほどの発言の忘れたように意見を変えた。
「まぁアレや、蠍お前が行けば何とかなる。行け、俺を信じるものに
銃弾は当たらないんや。」
無責任なことを言いながら蜜は蠍の背中を押した。
ふざけるなと蠍がぼやいているとあちらから攻撃を始めきた。
バァッン!バァッン!
銃弾が蠍の目の前を掠めて壁に打ち込まれる。
強靭的な強さを持つ蠍であろうとこの状態で乗り込めば
明らかにこの世にさよならを告げることになるであろう。
だがしかし何時までもここで足止めを食らっているわけには行かない。
相手が痺れを切らしてこちらに一人づつ歩みよってくるのを待っているわけにも行かず
・・・さて、八方塞がりだ。
「ッチ・・・」
舌打ちをすると蠍は一瞬上半身だけを壁から乗り出し
集団でこちらに銃を構えている男達に向かって引き金を引いた。
バァッン!バァッン!
前線に居た組員二人の額に一発でヒットを決めると
蠍はすぐに身を壁の中に隠した。
あちらも反撃して打ち込んでくる。
よっぽど臆病ものたちなのだろうか、こっちまでその身を攻めてくるものはいない様だ。
でも、応援を呼ばれては最後、挟み撃ちにされる。
「俺が囮になるよ。蠍は援護してね。」
今時、日本刀を振り回すサムライ気取りのチャラ男がニコニコと笑いながら蠍の肩に手を置いた。
この男は何時だってそうだ、格好付けたがりなのか、
自分に絶対の自信があるのかは知らないが自身の身を態々危険に晒す。
「アホか!?乗り込んだら死ぬに決まっとるやろがっ!」
蠍には乗り込めなどといったくせに蜜は蜂に死ぬから行くなと怒鳴る。
だが、それは蜂の身を心配していると言うよりは出来ないと否定の意のほうが強いようだ。
それを聞いているのかいないのか、蠍と蜂は耳打ちをしながら1、2の3っで飛び出す。
「蠍っ!!」
本当に飛び出すとは思っていなかったのかローズが声をあげて蠍の名を呼ぶ。
その声と一緒に身体も飛び出しそうになるのを蜜は引きとめ小さな声で「アホ」とつぶやいた。
飛び出してきた二人の男達に馬鹿かと呆れながら組員達は銃弾を撃ちつけた。
だが、一発も当たらない。
撃つ、撃つ、撃つ、撃つ、撃つ、さらに撃つ。
でも向かってくる刀を持った男には当たらずなぜか
自分の仲間達が悲鳴を上げ倒れていくではないか。
蠍は敵に向かって猪のようにまっすぐに走る蜂を盾にし引き金を引いた。
敵の銃弾が蜂に当たる前に。いい加減弾切れだと、舌打ちをした瞬間先ほどの蠍のように
壁から身体を乗り出した蜜が、援護を始めた。
蠍ほどの命中率は無いものの確実に人間の体の一部に打ち込む銃弾。
顔を強張らせながら、蜜はショルダーの中からもう一丁拳銃を出すと全身を乗り出して
絶え間なく二丁の銃から火花が飛び散る。それは蜜の性格をうつしているかの様に荒々しい銃声。
「何なんだよコイツらっ!化け物かよ!?」
蜜の援護が加わったことにより先までの守りの体制を蠍は攻めることに集中した。
弾の補充を終えると眼鏡をかけなおして走り出した。
血が騒ぐのだ。
にっこりと笑いながら走る蜂は既に蜜と蠍のお陰で
死に絶えた屍を踏みつけながら邪魔な連中を切り捨てる。
「刀なんか振り回してんじゃねぇよ!」
蜂に向けらる銃口だが、その先が一瞬揺れるのを蜂は見逃さなかった。
作品名:鴉2 「貴方の絶対の見方S×M」 作家名:楽吉