鴉2 「貴方の絶対の見方S×M」
今は任務をこなすことが優先されるので、蠍はその視線をあえて気付かない振りをして進んだ。
コンコン
蜂が5番と書かれたドアにノックをすると中から高い声でどうぞと聞こえる。
ドアノブを回して中に入る。
ドアを開けると4畳半くらいの室内にシングルベットと衣類を入れる籠と小さなタンスが置いてあった。
オレンジ色の電球で薄暗い室内には甘い香りと煙が漂っていた。
恐らく、ベットの上に座る茶髪の女が先ほどまで煙草を吸っていたのだろう。
タンスの上に置かれた灰皿にはまだ新しい吸殻はニ、三本置かれてる。
後から入った蠍がドアを閉めると、そのままドアの近くの壁に背中を預ける。
「S×Mの事調べてるなんてどんな人かと思ったら以外に二人ともイイ男ね。」
女が骨格を上げながら笑う。白い肌には奇抜すぎる赤い口紅が目に付く。
茶髪の女の隣にゆっくりと蜂が腰を下ろす。それはどうも、と軽く返すと蜂は本題に入る。
すると女の顔は先までの余裕はなく、怒りを感じさせる表情へと変わる。
少し深めの呼吸をすると女はタンスの上の煙草を手に取る。
一本口に咥えてライターを手にすると、ソレより先に目の前に火が灯る。
蜂が女の煙草に火をつけたのだ。一瞬目を丸くした女だが、蜂の顔を見て何かを納得したのか、
蜂のライターから灯る火の中に煙草の先端を入れるとすうっと息を吸った。
「ありがとう。で、何が聞きたいの。」
女が話を切り出すと、先に蠍が声を出した。
「S×Mの実態を知りたい。」
「いいわ。教えてあげる。簡単な話よ、S×Mのやり口は会員制のねずみ講。
幹部にはS×Mの手先が入ってる。商品がいいからみんな飛びつくんじゃなくて、
金儲けの話を持ちかけられるのよ。」
女はまるで他人事のように話しはじめた。
先までの怒りの表情は今は見えない。
諦めと一緒に言葉を繋いでいく姿に哀れみという感情は涌かなかった。
「で、お金は売り上げがあったらでいいからと先に商品を渡される。
それで売りつけて会員にして、自分の子を増やすわ。
でもね、それにも限界がある。手にした在庫の支払いが出来なくなって、
紹介されるのが闇金よ。S×Mは・・・田嶋組って言うヤクザと繋がっているのよ!
私はまだ良いほう・・・酷い子はどっかの国に売り飛ばされちゃったわ。」
短くなった煙草を女は灰皿に押し付けて火を消した。
女はシーツをきつく握るとを潜めながら最後の方は少し声を荒げた。
「あんた達が何者か知らないけど、お願い助けて!」
狭い部屋に女の声だけが響く。
「助けて!」女の頼みに二人は返事を返さなかった。
女は必死に目で訴えるが、微動だにしない二人の姿に
諦めたのか、私が言えるのはコレだけよと小さな声で話しを終えた。
「ありがとう、話してくれて。だけど、ごめんネ。
俺達に君を助けてあげることは出来ないんだ。」
やんわりと女の頼みを断った蜂の顔にはいつもの嘘臭い笑顔が張り付いている。
けして悪いなどとは心の片隅にも思っていないのだろうが、
蜂は優しく女の方を抱くと、胸ポケットから少し厚めの封筒を出そうとする。
すると女はその手にそっと自分の手を添えて、首を左右に振った。
蜂が立ち上がり部屋を後にしようと蠍が寄りかかっている隣にあるドアの前に立った。
その後を蠍も追うように預けていた背中を壁から離すと女に背を向ける。
「ねぇ、名前だけでも教えてよ。」
名残惜しそうな声を出して女が尋ねると顔は振り向かないまま蠍は目だけを後ろへ
向けると、すぐに正面へと視線を戻した。
「・・・さぁな。」
そう言うと蠍は歩き出した。
ドアが閉まる寸前に女が「そう。」と言うのが聞こえたが、その声を遮断するようにドアは音を立てて閉まる。
帰りの際も受付の男の視線が纏わりつく。嫌悪感を抱きながらも蠍は店を後にした。
「田嶋組ね~聞いたことないけど、まぁコレでマスターに報告できるかな。」
「・・・お前、受付の男になんて説明したんだ。」
蠍の問いには答えず、さぁ帰ろうと蜂は歩き出した。
恐らく蠍が聞いたらさっきの店に戻って男の額に
一発銃弾を打ち込むようなことを言ったのだろう。
容易に想像は出来るが、これ以上蜂に問質す気には慣れなかった。
帰ったら仕事の山が待っている。
家に残してきた少年はいい加減目を覚ましているだろうか。
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都内某所、魔女の館
「では、調査報告をお願いします。」
黒で統一された部屋の中に唯一黒ではない赤いソファーに
鴉たち4人は座っていた。4人の目の前には魔女とその執事、赤坂がいる。
魔女の合図で蠍が手にしていた封筒の中身を取り出す。
出した書類に目を通しながら調査報告を始めた。
「化粧品会社S×M。表向きは会員制の化粧品会社だが、
実際はねずみ講を手口とし闇金へ手を出させる悪徳業者。
田嶋組という最近シマを広げ始めたヤクザが手を貸しているようです。」
蠍が報告を済ませると、漆黒のドレスを纏った魔女は少し黙り何か考えているようだ。
ローズがテーブルの上に用意されたオレンジジュースに刺さったストローを
咥えて音を立てながら飲む。
液体を啜る音が煩く感じられるほど静かな部屋の中。
魔女が声を発するとローズはジュースを飲むのをやめた。
もう既にグラスの半分以下に減ったオレンジ色の液がテーブルに置いた瞬間少し跳ねる。
「田嶋組ですか・・・分かりました。」
魔女は田嶋という名前に引っ掛かりを覚える様にその名前を
つぶやくと決心したように決断をくだした。
「貴方達は田嶋組を裁いてください。」
「おいおい、S×Mの方はどないすんねん。」
蜜が荒っぽく尋ねると魔女ではなく蠍が言葉を発した。
「S×Mの名前が表に出すぎてる。いつもみたいに派手なことは出来ない。
だから手を貸してる田嶋組を消滅させるんだ。
実質、S×Mの社長自体に力はないし、元は普通の化粧品会社だ。」
「田嶋組の始末が終わったらS×Mの社長の暗殺をお願いします。」
S×Mに勤める殆どの社員が実態を知らずに過ごしている。
それらには手を出すなと魔女が付け足すと、魔女の後ろに立っていた赤坂が
辻褄あわせはこちらにお任せくださいと笑顔を見せた。
*
鴉が動くのは決まって深夜だ。
それも、もうすぐで朝日が広い空に顔を出すような午前4時過ぎ。
深い意味はないのだろうけど、彼らはこの時間を好む。
都会の騒がしい音もなく、動物達も静かに眠るこの時間の空気がたまらなく好きなのだ。
まるで世界中に己一人だけが生きている様な錯覚を生む時間。
そこに鳴り響く戦いの音が彼らに生きているのだと教えてくれる。
田嶋組が事務所を構えているビルに乗り込んだ4人は好き勝手に暴れ始めた。
もちろん今回の任務を忘れている訳ではないが、血が騒ぐ。
体中を巡る血管がドクンドクンと波打ち、暴れ始める。
血が生きろと、倒せと、屍の上を苦痛にまみれながら生きろ暴れ始める。
ビルの中に集まっていた組員達の息の根を次々と絶っていく。
階段を駆け上がるとそこには拳銃を構えた20人程度の
作品名:鴉2 「貴方の絶対の見方S×M」 作家名:楽吉