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鴉2 「貴方の絶対の見方S×M」

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爽やかな青年に、くたびれたスーツにくたびれた顔をした中年サラリーマン。
その他女性が何人か行き来しているが、変わったことはなさそうだ。
だがそれは見かけだけで判断したに過ぎない安易な答えだ。
悪事を行うものが態々悪ですと背中に書いて歩くことはまずない。
それが人を騙すことならなおさら、"良い人"の仮面を被るのが
当たり前だ。だから、こうして調査を行っているのだが。中に進入するにはまだ早すぎる。
今はこうして黙々と観察しているしかなさそうだ。


*


都内某所に建つS×M本社の中は常に慌しく人が出入りしていた。
社員から来客や業者の人間や様々な人が忙しなく仕事に精を出している中、
副社長の福田は社長室で少し苦めのお茶を啜っていた。
社長椅子をギィギィと音を立てながらゆすっているS×M社長松沢の癖を菓子に飲む茶は実に不味い。

「でぇ、福田君?昨日の女の子、あれ、なに?僕が言ったタイプと全然違ったじゃない。」
「はぁ・・・そうでしたか?部下にちゃんと調べさせておいたんですがね、
 ここらの風俗じゃ名の知れた女王様だそうなんですが、お気に召しませんでしたか?」

松沢は痩せた指にあからさまに金持ちと主張したダイヤの指輪を抜き差ししながら福田に小言を言う。


ギィギィ・・・


「全然なってなかったよ。アレで女王様・・・はぁ、悲しい世の中になったね。
 真のSはもういないのかね。全くこれも今の時代を表してると思わない?
 みんな誰かがやってくれると思ってるんだよね、根っこが受身なのよ、受身。
 それじゃぁ駄目なわけよ、だぁっめ。時代の頂点に立ちたいなら
 受身じゃ駄目なのよ、攻めてかなきゃ、ドンドン攻める。そう、攻めるのよ。
 だからね・・・あれ、僕何の話してたっけ?」

「真のSに付いてでしょうか?時代のあり方でしょうか?」


内心苛立ちながらも上司の問いに答えてみせる。
この男のふざけた喋り方も、なによりじっとしていられない癖が気に入らない。
指輪に飽きたのか机の上にコロンと置くと、今度は近くに置いてあるストローの刺さったグラスに手を伸ばす
飲むわけでもないのに、ストローで中の氷を混ぜる。

カラン・・・カラン・・・ ギィギィ・・・


「そんなことはどうでもいいんだよ。良いんだよ福田くん。最近も売り上げ
ドンドン上がってるんだってね。まぁこのままジャンジャンあげちゃっていいから、
上に行くことに歯止めとかはないからね。ね。ほら、ガンガン会員様を集めて
もっと頑張っていただきましょうよね。よね。」


普通に話せないものなのだろうか。


福田は高まりつつある苛立ちを何とか押さえつけて
目の前にいる一応社長の機嫌を損なわないように慎重に話を進めた。


「その事なんですが、流石にこのまま行くとバレるのは時間の問題かと・・・」


その言葉に揺すっていた椅子もかき混ぜて遊んでいたストローの動きも
松沢は停止させた。時間にして数秒の間、松沢は福田を見つめ、
福田の額から汗が滲むのを確認すると回転式の社長椅子をくるっと回して福田に背を向ける。
本人は気にもとめていないだろうアノ癖を再開させる。

ギィ・・・ギィ・・・

「ソレを何とかするのが君の仕事じゃないのかね、ねぇ?福田君。
巻き上げちゃってよジャンジャン。絞れるだけ絞っちゃいなよ。
大丈夫だよ。僕達にはあの人がついているんだから。ね。」


あの人と言う言葉に一瞬空気が重たくなるが、福田は分かっていた。
この男が頼りきっている"あの人"はたとえ俺達に何かあろうと助けてはくれない事など。
少なくとも目の前にいるこの男より人を見る目はある。
直接会ったのは本当に数分だけだが、それでも分かる。
信じてはいけない人間だという事が・・・

それ故に福田は焦りを隠せないでいる。


このままだと、本当に危ない。警察を丸め込むことが出来ても奴等が来るのではないか―


嫌な予感は福田の不安を駆り立てるだけで、松沢には伝わりはしない。
社長は優雅に椅子を揺らすだけだ。
こいつの言うとおり皆誰かがやってくれると思っている。
誰がか・・・それはきっと自分なのだろう。
自分がやらねばこの男と共に破滅へ向かうのは確かだ。
この馬鹿を奈落に落とすことになっても、自身が道ずれを食らうなど絶対にあってはないらない。


何とかしなければ・・・


失礼します。と未だに背中を見せている社長に礼をして社長室を後にする。
近くにある男子トイレに入り込むと、福田は胸ポケットから携帯を取り出す。
携帯のボタンを無意味に押しながら頭を掻き毟った。
今すぐにでも壁に頭を打ち付けたい程イラつきが上昇していく中で、
気持ちを落ち着かせるように大きく息を吸って、頭の中で渦巻くモヤモヤと一緒に吐き出した。
四十半ばではあるが最近髪の毛の退化が早まっている気がする。
ストレスだろうか、胃の方も調子が悪い・・・そんなことを思いながら携帯電話を今度はしっかりと
目的の為に操作し、部下に電話をかけた。


「あぁ、俺だ。変わりはないか?あぁ・・・そうかならいいんだ。
 他の連中にも伝えとけ。暫く慎重に動けと・・・」


淡々と会話を終えると携帯を胸ポケットにしまった。
先ほどボサボサにしてしまった髪を後ろに撫で付けて整える。廊下にある時計に目をやる。
正午まであと5分ほど。街中のサラリーマン達も本日のランチのメニューを考え始めていた。
問題は山済みだが、ここは一先ず自分も腹を満たそうと廊下を歩き始める。
定番になったが、会社の前にあるラーメン屋で済まそう。

エレベーターで一階まで降りると数人の新人を誘って会社を出る。
ラーメン屋と会社の距離は時間にして一分もしないであろう。
一方通行の狭い道路を挟んで向かい側。赤信号の為横断歩道の前で立ち止まっていた。


「・・・!?」


福田は一瞬目を大きく見開いた。3月半ば、まだ肌寒いと言うのに全身から汗が吹き出る。
目の前に車が通っていく。その車と車の合間に見える向こう側にいる
青年と目が合った。

赤い目をした青年と・・・

ドコも見ていない様で、ただ一点だけを睨んでいるような、なんとも表現できない不思議な目に福田の身体は強張り
全身に恐怖という感情が走る。

次に車が二人の視線を遮った後には青年は友人らしき人物と話をしていてこちらを見てはなかった。
その青年と福田が向かうはずだったラーメン屋に入って行く。
まるで青年と目が合った瞬間は時が止まったようだった一体何故、
そんな風になってしまったかは福田には分からず、
段々と引いていく汗と正常に戻った脈を感じ取っていると信号が青に変わった。


「やはり、今日は2丁目の定食屋にしよう。」


急な上司の変更に部下達は文句も言わず付いていく。
今日は副社長のおごりですか?など他愛もない会話をしている辺り、
それなりに慕われてはいるのだろうか・・・


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「はい、塩ラーメンとチャーシューメンにトッピングでバターとネギ大盛りとコーンお待ち!!」


蠍の前に塩ラメーンが置かれる。湯気で眼鏡が曇る為、