エベレストは昔海だった(コラボ作品)
ロープ切断
無理をしていたのか、体調を崩した三宅君を残して、三上、吉田、大橋、私の4人は先に下りることにした。
『大井戸』と名付けた穴の下り口付近で、カニムシを見つけた。サソリのような形をしていて、鋭いハサミを持つ、体長2〜3cmぐらいの節足動物だ。数匹が集まってハサミを振り回して切り合っているようにみえる。珍しいこともあるものだと、しばらく見入っていた。ハサミで仲間を切って食べているのだろうか。
繁殖のためのものかもしれない、カマキリのような。
標本をつくるために、1匹ずつ3体をプラスチック容器に入れた。
それらには気にもかけないまま『途或王宮』に達すると、その先を探りながら三宅君の到着を待つことにした。
12日になって三宅君からメールが届いた。
「先生、三宅君からメールが届いていますよ」
「まだベースにいるのだろうか、体調が思わしくないのかな」
「先生! ものすごい数の虫が大井戸の下り口付近にうごめいていて、近付けなかったそうです」
「ほう、2日前に見つけたカニムシだろう。それが多数集まってきているというのかね。たしか今日は満月だからやはり、こんな洞窟の深くでも月の影響を受けているのだろうか。これは興味ある事柄だ。観察してくるよ」
「あっ! それどころではありません、通信が途絶えました!」
まもなくしてライトの光が消えた。私たちは皆その場に立ちつくし、お互いの存在を確かめ合った。
「ケーブルが切れたのではないでしょうか、見てきます」
すかさずヘッドランプを付けた吉田が、足元周辺を照らしながら歩きだした。
「いや皆で一緒に行こう。状況は分からないが、電池は節約したほうがいいだろう」
『大井戸』の基部まで行きヘッドランプを上に向けたが、どうなっているのか分からなかった。固定ロープを軽く引っ張ると・・・ロープはヒュルヒュルと音を立てて勢いよく落ちてきた! すんでのところで落ちてきたロープを避けることができたが。
切り口は黒く焦げており、黒く焦げたカニムシが数匹かたまってこびりついていた。
作品名:エベレストは昔海だった(コラボ作品) 作家名:健忘真実