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エベレストは昔海だった(コラボ作品)

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 中国はラサのチベット人であるタァーは、漢人のチベット人に対する蔑視と、やせた土地での農業だけの厳しい生活から逃れるために、ヒマラヤ山脈の東端に位置するナトゥラ峠を越えてブータン王国に入った。そこで職を探したが見つからず、インドにまで出かけて行ったという。

 久しぶりに外側の人間とする会話は弾み、楽しい気分にさせてくれている。いや、タァーの差し入れのおかげかもしれない。ホテルのバーテンをしていたという彼の差し出す酒はうまかった・・しばらくは飲めないのだからゆっくりと味わうことにしよう。
 
「ブータンね、たばこの販売禁じられてるよ。国外から持ち込みオーケーね。だけど関税200パーセント付くね。だから私、たばこ運び屋してたことあるね。内緒内緒でね。高く売れるけど、命懸けよ。見つかたらヤバイの、分かるでしょ。家族、早く呼び寄せたかたのよ」

「日本語はどこで覚えられたのですか?」
「インドのホテル。バーテンしてた時ね、お客さん、面白い男きて。たしかァ、ひら・・ひらいわ、言てたかねェ。いい人、いぺんで好きになたね。日本好きになたね。それから勉きょした」
「ほう、どんな男だったんだろう」
「好奇心強いね。なんでも知りたがてたよ。私、意気合てね。相手気持ち大切する人。情に厚いは日本人、特性ね。今、どしてるかね。10年前のこと、時々思い出すよ」
「このきれいな月を見てるかもしれないですね。上弦の月、ってゆうんです」

 私は月を見上げて、口げんかばかりしていた妻、美也子と中学生の息子、孝史と強のことを思い浮かべた。

 いつの間にか学生たちは寝込んでいた。三上もウトウトと舟を漕いでいる。久しぶりの酒だし、かなり歩いてきただろうから疲れているのだろう。パサンとカマルに頼んで洞窟の中のシュラフまで連れて行ってもらった。
 上弦の月は山に遮られて、まもなく見えなくなろうとしている。
 私はこの気さくな男と、酒で体を温めながら深夜まで話をしていた。