エベレストは昔海だった(コラボ作品)
洞窟の中では天気を気にする必要がないので作業は順調に進み、さらに2000mの固定ロープが3日がかりで設置された。私はその間に洞窟の壁を調べていたのだが、めぼしい成果はなかった。生き物は見つけられなかったのである。
固定ロープを張ったその先は真下へ300m、まるで井戸のような空洞となっていた。私はそれを『大井戸』と名付けた。
『大井戸』を懸垂下降で下りて行くのはかなりの度胸が要る。
下は漆黒の闇である。地獄への入り口とはこのようなものなのかもしれない。
ヘルメットに取り付けたヘッドランプの淡い光を上に向けたり下に向けたり、時々壁を照らしたりするのだが、下に開いた空間に吸い込まれていく感覚に変わりはない。下降器から下側に垂れさがっているロープを片手で軽く握り、滑るようにして降りていく。単調さの中でふと、手を離せばどうなる、と分かりきったことを考えてしまったりする。
3番目の下降なので、下からボヤーッとした明かりが見えてきた時にはホントに救われた気分になった。最初に下りた吉田君はどんな気分だったろうか。
登り返しにはユマールという登降器2つを使って、尺取り虫のようにして上がっていく。これには慣れが必要で、トレーニングの初めのころはかなりてこずったものだ。
地上から染込んだ水が小さな流れを作っているところがあり、湿度は高いが気温はほぼ15℃と安定している。高度計は洞窟の中では役に立たず、推計3000mといったところか。
今いる所は広々とした空間になっている。上も下も周囲すべてが岩山のようで、水の浸食により天井はツララが下がっているような形になっている。それでも平坦な場所を見つけられた。
ここからは水平方向に進路が取れそうなので、とりあえずここを前進キャンプ地とし、荷物を下ろす作業に取り掛かることになった。
このキャンプ地は、大学の名を取って『途或王宮』と名付けた。
若い者たちが荷物を担いだりロープで吊り下げたりと、黙々と働いてくれたおかげで、4日で3tもの食糧と装備を無事に下ろすことができた。その間に私は生き物を求めて、壁とにらめっこを続けていたのである。
ムカデやヤスデの仲間、クモ類、ワラジムシを数匹見つけ、プラスチック容器にそれぞれを採取した。それらは小さくて色素は抜けている。
文献によると、洞窟では餌にありつける機会が少ないので、からだは小さくて代謝も遅く、寿命は100年を超えるものが多いらしい。数か月食べ物がなくても生きていけるということだ。
同種属に出会う機会も少なく、どのように繁殖してきたのだろうか。
作品名:エベレストは昔海だった(コラボ作品) 作家名:健忘真実