エベレストは昔海だった(コラボ作品)
〔吉田海斗〕
水に流されている時、ザックが体から離れそうになって、肩ひもを必死で押さえていたら、腰をしたたかに打ってしまったようだ。しかもザックは紛失している。
歩くのが苦痛だったけど、なにかしら皮のようなものを腰に張られると、翌日にはほとんど痛みが取れたので、海辺を歩いた。
岩礁といったほうがいいが、砂浜もあった。薄暗い海岸の岩の上に腰かけて、海をぼんやりと見ていた。
香奈はどうしてるだろう。俺らの遭難のニュースはもう耳にしてるだろうか。
卒業したら就職して、6月頃に結婚しよう、とプロポーズした。香奈も就職先は決まっていて、会社を辞めなくていいならね、と言っていたっけ。
結婚したら好きなことができなくなるから、これが最後だという気持ちで、探検隊に参加したのだ。
郷愁に浸っていると、悲しい音色が聞こえてきた。
振り向くと、鬼子の中でも大柄な女性が近づいて来て、口からなにやらを取り出す。ほおづきに似ていた。海ほおづきだろうか。俺の横に座って、ほおづきを吹き始めた。
鬼子も俺たちと同じ感情・感性を持っているのだな、と気付かされた。俺を慰めているのを感じた。
翌日、俺たちはもう帰れないのだということを確認した。香奈と会うことは、もう二度とないのだろうか。
俺は、昨日の女性と、香奈とを重ねてみるようになった。
香奈、という名前を教え俺を、海斗、と呼ばせた。
俺の香奈に対する気持ちを、体でぶつけていった。
香奈は俺を、受け入れてくれた。
作品名:エベレストは昔海だった(コラボ作品) 作家名:健忘真実