エベレストは昔海だった(コラボ作品)
新人類『鬼子』
両脇を持ち上げられて、水の中を引きずられているのに気が付いた。
うっ、胸に痛みが襲ってきた。水の流れに押されてきたらしい。気を失っていたようであるが、どのくらいの時間をどのくらいの距離流されたのかは分からない。
「先生・・気付かれ・・ましたか」
「ああ、みんなは、無事だろう、か」
喉の奥をこすりつけるようなかすれ声しか出ない。
「命は、助かりましたが、負傷の程度は、まだ分かりません。僕は、胸を打って、ろっ骨に、ひびが入ったか、折れてるか・・・」
とぎれとぎれに苦しげに答える声。
「私も、胸を打った、ようだ」
三上を見上げると顔も打ち付けたらしく、目の下から頬にかけて腫らしているのが見えた。
ん?
「おい、光が、差している、のか? 外に出られ、たのか?」
「よく、分から、ないので、すが、ライト、がなくても、見えますね」
薄明を思わせる明るさがあった。
吉田は腰を打ちつけたという。骨折はしていないようだが、腰をかがめて歩いている。
大橋は足に大きな裂傷を受けていた。擦り傷は全員にみられた。
三上と私が負っていたザックは無事だったが、吉田、大橋のは行方不明だ。医薬品は三上が持っていたが、応急処置にしかならない。
私たちが今いる所は、滝つぼのそばである。滝つぼの深さで、岩に打ちつけられずに済んだようだ。
胸の痛みをこらえて、明るさが差す方向へ歩いて行った。
洞窟の外へ出たが、そこは外の世界ではなかった。
砂の続くその向こうには湖が、見わたす限り湖が広がっていたのである。その向こうは闇に沈んで見えなかったが。
そして天には、相変わらず岩壁がおおっていた。
明るさの元は、苔だった。苔が緑の蛍光色を発して、いたるところに生えていた。
作品名:エベレストは昔海だった(コラボ作品) 作家名:健忘真実