【第三回・弐】玉。
ふすまの焦げたキナ臭い匂いと水を吸い取るための新聞紙が敷かれた畳
大騒ぎして叫び続けた京助はうつ伏せになり伸びていた
その京助の上に南と悠助が腰掛けている
「…迦楼羅一人できたんだっちゃ?」
いつも隣にいるはずの乾闥婆の姿が見えないのを不思議に思い緊那羅が聞いた
「乾闥婆って…そのちっこいのの保護者さんか?」
坂田が壁に寄りかかり足に止まったハエを片足で追い払いながら緊那羅に聞いた
「保護者…ってよりは…制止役兼お目付け役みたいな感じだっちゃ」
緊那羅が説明すると一同『ほぉ~ぅ』と声を上げた
「…乾闥婆に隠れてきた」
迦楼羅がボソッと言った
「隠れて…ってどうしてだっちゃ; ばれると後から怖いのに;」
どうやら緊那羅も乾闥婆の最凶っぷりを知っているらしく…
「たわけッ! ここに来たことがばれるより玉なくしたということがばれた方がやっかいなのだッ!;」
どうやらその玉をなくしたのを乾闥婆にばれる前に探して帰ろうということらしい
「なぁ…」
中島が手を上げて発言権を貰おうとした
「ハイ、中島柚汰君」
坂田が足で指名した
「その乾闥婆ってヤツ…そんなに怖ぇえのか?」
中島のその質問に緊那羅、迦楼羅それにうつ伏せになって伸びていた京助までもが顔を上げ黙って頷いた
「逆らうと後が怖いんだっちゃ;」
緊那羅が何かを思い出しながら苦笑いを浮かべる
「どうなるかわからんからな」
迦楼羅も多少引きつりながら過去を思い出しているらしい
「とにかく…強ぇえ…」
悠助と南に上に乗っかられているせいで京助の声は苦しそうだったがその声が乾闥婆の最凶さをよけいにリアルに感じさせた
しばらく沈黙が続いた
3馬鹿は今聞いた乾闥婆の情報からそれぞれ乾闥婆の姿を想像しているようで目が遠い
悠助は京助の髪で最近できるようになった三つ編みをしていたが京助の髪が短いため上手くできないらしく新たなターゲットを探してキョロキョロ周りを見ていたが…
ふと、迦楼羅と目が合ったとたん京助から降りて迦楼羅に近づいた
「…なんだ?」
迦楼羅の長い前髪を目をキラキラさせて見た後、迦楼羅に思いっきり顔を近づけて
「三つ編みしたい!」
と言った
「はぁ?」
いきなり今までの話題とは関係ないことを言われて迦楼羅が変な声を上げた
「長い髪してるから~えと…かる…か…」
「迦楼羅だ」
迦楼羅が『迦楼羅』と言えない悠助に自分の名前を教えた
「かるらん! かるらんの髪長いから三つ編みしてもいい?」
「な…」
悠助が迦楼羅の長い前髪をくいくいと引っ張っている