キコ・キー
手紙を手に取り裏返すと見たことある懐かしい字で「希子(きこ)ちゃんへ」と綺麗なやさしい文字で書いてあった。中を見ると懐かしいメモ帳の切れ端が五枚ほど重なって二つ折りで入っていた。取り出してみるとそれが二年前に他界したおばあちゃんからの手紙であることがすぐに分かった。
『希子ちゃん、おばあちゃんはそろそろお迎えがやってくるようです。なので、希子ちゃんに貰ったかわいらしいメモ帳を便せん代わりに、おばあちゃんから希子ちゃんに少しだけ言葉を送ります。
パパもママもお家にはあまりいないけれど希子ちゃんのことを本当に大好きです。おばあちゃんも勿論大好きです。もし、おばあちゃんがいなくなった後、一人でお家のお留守番をしている時や怒られてしまった時に寂しくなったらお空の上のおばあちゃんに言ってください。おばあちゃんが何とかして希子ちゃんを寂しくないようにしてあげるからね。絶対の約束。おばあちゃんは嘘をつかないって希子ちゃん知っているよね?
最初に書いた通り、おばあちゃんはもうすぐお迎えがきていなくなってしまいます。けれども決して悲しまないで。おばあちゃんは希子ちゃんの笑顔がとっても大好きです。ぜひ、おばあちゃんとのお別れ会も笑顔でいてください。
おばあちゃんより 』
キコは何か納得したような気がした。そしてなにより心が温まった。
おばあちゃんが死んでから今までずっと一人で留守番をしているうちに両親と意志の疎通方法を見失っていたような気がしていた。だが、その場しのぎで何とかやりくりしていたものの、先日それは壊れたダムのように決壊し、両親との大喧嘩へと発展して家庭内で両親とギクシャクした関係になってしまった。それまで見えていた狭く浅い溝が近づいてみれば実はとんでもないほど広く深まっていたことがわかったような感じである。「私っていつも一人で家に居て……なんて寂しい奴だろう」だとか思うこともあった。だが、実際のところは所謂「親の言うことがウザい」みたいな感情からおきたものではないため、現状がすごくもどかしくあり、中々タイミングが分からず、四方八方行く手を塞がれた様なときに例の鍵を拾ったのだ。
そう考えるとおばあちゃんが遠く空の向こうから元気付けてくれた気がする、と手に握られた手紙を大事に抱きしめた。
どうしてこんなに大切なものを失くしていたのだろう。
おばあちゃんはいつだって正しい道を示し導いてくれる、そんな存在だったというのに。