キコ・キー
目の前には――――西洋の城下町みたいな場所が広がっていた。
キコは恐る恐る足を踏み入れた。
足の裏に感じるのは玄関の感触ではなく石畳の感触だった。全体的にライトグレイの世界には人は居らず世界は静かに、唯、在った。
背後で扉の閉まる音がしてキコは「しまった」と焦った。入ってきた戸のドアノブを捻るが鍵がかかっているのかびくともしない。そこで内心半信半疑であったが再び右手に持つ鍵を鍵穴にあてがい差しこんでみた。
「あい、た……」
開け放てば見慣れた風景。玄関を出たときの風景が広がっていた。
「よかったぁ」
ほっとするとキコは右手に持つ鍵を色々な場所に差したい衝動に駆られてきていた。
それから毎日、キコは放課後家に帰ると一日一つ、新しい世界に足を踏み入れていた。最初の三日で――
?鍵はどんな小さな鍵穴でも大きい鍵穴でも複雑でも単純でも鍵を使えば開けることができる。
?その鍵を使った戸(扉)、蓋の先は何でも別の世界が広がっている。
?一つの戸(扉)、蓋から行ける世界は一つだけ。何度開けても閉めても同じ空間に繋がっている
?同じ扉から帰れば元居た場所に戻ることができる。
――等というルールを体感的に学んでいき、一日一つの世界を楽しんでいた。ある時は自分の部屋から王女様の寝室へ、ある時はバスルームから泡の国へ……と言う具合に楽しんでいると二週間でどの部屋の扉からも行ったことのある空間しかなくなってしまった。キコはどこでもいいから、何でもいいからもう一つくらい見つからないかと家中を探していた。
ベッドの下までくまなく探していると埃を厚く被った小さな箱が出てきた。それは小さなときに宝物を閉まっていた可愛らしい箱であった。可愛らしいビーズや形の気に入った石、押し花や写真。そういったものを大事にしまったいたはずだ、と思い出したキコは蓋を開けてみる。蓋には鍵がついていたがずいぶん昔に壊れてしまっていたので唯の飾りになっていた。
「あれ?」
箱の中には何も入っていなかった。どうやら中身は捨てるか移動するかをしていたらしい。どうして取って置いたのか不思議になった。
箱を閉じ、壊れてはいるが気になるので一応鍵を差し込んで開いてみる。
やはり鍵が壊れていた所為なのだろうか、蓋の先には大きな変わりはなかった。そう、ある一点を除いては。
「これ、手紙かな?」