キコ・キー
「なんだろうこれ」
道の真ん中に落ちていた光る何かがキコは気になった。
夏めきつつある日常も、日が暮れるころには空は紅く、群青とグラデーションを生み出している。そんな帰り道、夕焼けに反射する何かがキコの目に入った。
一瞬止めた足を動かし何かに近づく。
「鍵?」
絵に描いたような鍵――スケルトンキーが落ちていた。それは何にでも差し込めそうで、どんな扉でも開くことができそうな風格を漂わせていた。そんな鍵がどうしてここに落ちているのだろうと拾い上げればキコの手にしっくりと収まった。
どう見てもアクセサリーの類の一部にしか見えない。中学生のキコはそう思い、手芸用品店で皮の紐でも買ってオリジナルのアイテムを作ろうとポケットに仕舞った。
キコはその後コンビニで立ち読みをしたり市立図書館に本を返却したりと無意味に時間を消費し、家に着く頃には空は群青に支配され辺りも薄暗くなっていた。
「鍵、鍵は……っと」
ポケットをまさぐり金属に触れる感触を確認すると鍵を引っ張り出す。
出てきたのは拾った鍵だった。
「さすがにこれじゃ開かないよ……」
手に収まっている鍵を冗談で鍵穴にあてがってみると「ガジッ」という音を立ててすっぽりと収まってしまった。
「え、うそっ」
予想外でありえない現象を目の前にしたキコは我が目を疑い、鍵を反射的に抜いた。すんなりと抜ける鍵。抜いた鍵と入れていた鍵穴を見比べるが、どう見てもこの鍵がこの鍵穴に入るのはおかしい事であった。
もう一度、念のために鎖しこんでみた。
「どうして……」
再び鍵穴に納まる鍵。しかし、ここまでくるとキコは興味がわいてきた。一体、この鍵で開いた扉はどうなっているのだろう。キコの頭にはとある漫画のワンシーンが浮かんでいた。
右手で握った鍵の頭の部分を回転させて鍵を開く。カチッといういつも通りの音を立てて戸の鍵は開いた。鍵を抜き左手でドアノブを捻る。