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島原あゆむ
島原あゆむ
novelistID. 27645
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【第三回】金鳥・蚊取線香

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悠助が風邪をひいたということで坂田、南、中島の3人は宿題合宿(仮)を切り上げて帰った
「こら、おとなしく寝てろ」
母ハルミに起き上がってこようとする悠助の監視役として任命された京助は悠助の寝ている隣で漫画を読んでいた
「だって暇なんだもん~…」
京助に叱られて悠助はぷーっと頬を膨らませて枕に頭をつけ手足をバタバタさせた
「つまんないつまんないつまんなーい!」
「お前がつまんなくても俺はつまってんだっつーの」
布団からゴロゴロ転がって机の前まで辿りつくと通学用の鞄を開け始めた
「なにやってんだよ;ちゃんニ寝てろって」
京助が悠助を布団に戻そうと立ち上がり近づいて
「お、懐かしい」
と言ってしゃがみこんだ
悠助は国語の教科書を開いていた
小学一年生の教科書は字も大きく平仮名ばっかりで中学二年の京助にとってはパッと見、逆に読みづらかった
「このページを暗記してこないといけないんだ~…宿題っ!」
良くある国語の宿題パターンの一つである【詩の丸暗記】をだされたらしい
悠助は教科書を持つと布団にもぐって読み始めた
「おおきなかぶ~…」
足をパタパタさせながら声に出して同じ所を何度も読み返す
「何してるっちゃ?」
緊那羅が戸を少し開け覗き込んだ
「宿題だとさ。話の丸暗記」
「宿題?」
少し開けていた戸を開け緊那羅が部屋に入って悠助の読んでいる教科書を覗き込んだ
「もぅ~緊ちゃん邪魔しないでよ~!」
悠助が緊那羅を見上げて頬を膨らませた
「あ;ごめんだっちゃ」
慌てて緊那羅が離れると悠助は再び教科書を読み始めた
悠助に邪魔といわれた緊那羅は京助の隣に座った

「だいぶ良くなってきたみたいだっちゃね…安心したっちゃ」
思ったより元気そうな悠助を見て緊那羅(きんなら)が微笑んだ
「まぁ…元々熱がちょっとあっただけだしな」
京助があぐらをかきなおして机に背を預けた
「うんとこしょ!! どっこいしょ! それでもかぶは抜けません」
「俺もよく暗記させられたっけなぁ…蚊取線香とか数え歌とか」
一生懸命暗記しようとしている悠助を見ながら京助が懐かしそうに言った
「一度火をつけたら元来た道を一生懸命戻り出す、忘れ物をしたように…ってか~…小四くらいの時に暗記させられたの覚えてるって凄くね?」
京助が【蚊取線香】の詩の一部を暗唱した
「蚊取…線香の詩なんてあるんだっちゃね。蚊取線香ってあの緑色したうずまきのやつだっちゃよね? どんな詩なんだっちゃ?」
緊那羅が珍しそうに聞いてきた
「あ~…んとよく覚えてねぇんだけどさ…蚊取線香って火ぃつけたら中心に向かってくじゃんか?その様子が忘れ物を取りに戻るみたいだって詩」
京助がウロで思い出した【蚊取線香】の詩を説明した
「京助は忘れ物しても戻ってこないっちゃよね」
「うっせ;」
緊那羅がさらりといった
風邪薬のせいか頑張って暗記しようとしたせいか悠助が教科書に顔をつけて寝てしまっていた
少し開いた窓から風が虫と一緒に入ってきて緊那羅の腕に止まった
「…こんなときこそ蚊取線香っと」
京助が立ちあがって部屋から出、手に蚊取線香セット (マッチ、蚊取線香、灰皿) を持って再び戻ってきた
戸を閉める音に悠助が微かに反応したが寝返りを打つとまた寝息を立て始めた
「地味に効くんだよな~…蚊取線香って」
火をつけると細い煙が上がり独特の煙たさが広がった
灰皿に蚊取線香を置くと緊那羅がソレを覗き込む

「…この火が忘れ物取りにもどってるちゃか?」
煙を上げながら中心に向かっている火を見て京助に聞いた
「そうなんじゃねぇの?」
「ふぅん…一体何忘れたんだっちゃかね」
ゆっくりと中心に向かって進んでいく火を緊那羅はしばらく黙ってみていたがふと顔を上げた
「…笛の音…?」
風に乗って微かだけど笛の音が聞こえてきた
「あぁ、今日港祭りやってんだ。そこで流してる音楽だろ」
緊那羅が窓を開けて耳を澄ます
笛の音に混じって少し音の外れたおっさんの歌声も途切れ途切れだが聞こえてきた
「…悠寝ちまったし…外もだいぶ涼しくなってきたし…暇だしの三拍子そろってることだし…行ってみっか?」
漫画本を閉じて京助が立ち上がり首をコキコキと鳴らした
「いいっちゃ?」
口ではどことなく気が引けるようなそんな言い方をしているが緊那羅の目は行きたいと訴えている
「見るだけだからな。金ねぇし」
漫画本を机の上において部屋の戸を開けた
緊那羅も窓を少しだけ開けて京助について部屋を出た
蚊取線香の燃えカスがポロリと落ちた