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ひとりぼっちの魔術師 *蒼の奇跡*

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六.光が見える丘。



-辿り着く事のない日々。
それでも、楽しいと思うんだ。
だって、終わってしまえば、それはただの「思い出」でしょう?-


君は、楽しそうに世界の花の話をする。
図鑑をもって、両親と旅をした山々の思い出を、僕に語る。
僕がつまらなそうに欠伸をすると、顔を近づけて。
更に、別の話をする。
花の話には代わりがないのだけれど。

-よく同じ話をして面白いままだなぁ…。-
呆れていると、君は、僕の聞く態度を怒る。
それは、話している人に失礼、だとか言って。

「だって、僕は花には興味がないんだ」

とどめの一言。
それはそうだけど…、と君は視線を落として申し訳なさそうにする。
でも、あっという間に何時もどおりの君に戻って
「でもっ、知らない世界の話を聞くと面白いでしょう?」
と又別の話…花の話をする。
僕は、困っている。

君と出逢ったのは何時だったか。
覚えていない。
だが、出逢ってからずっと君はこんな感じ。
それが理由なのか。
君といた時間の世界を。
僕は覚えていない。
君の印象が強すぎるんだ。

「君が行きたいのは、確か、「光が見える丘」…だっけ?」

君が始めて花以外の話を僕に振ってきた。

「そうだよ」
「それはどんな所?」
「知らない」
「どんな花が咲いているのかなぁ~」

楽しそうに、また花の話になる。

光囲まれているから、黄色とか白だと面白くないとか、赤がいいとか。

思えば、君がする花の話は色についてばかりだ。
種類の話をしない。
僕は、君に尋ねてみる。

「ねぇ、君が見てきた花はどんな種類?」
君のおしゃべりが停止。
-あれ?聴いちゃいけないこと?-
疑問符が僕の中に浮かぶ。
話を変えようと、別の言葉をまくし立てる君。
声が一オクターブ半上がっている。
面白くなって僕は、
「だからさ。僕が知りたいのは、君が見てきた花の種類だよ。答えてくれなきゃ、僕、ここから動かないよ」

と足を止めて、座り込む。
君も歩みを止めて、僕の事を恨めしそうに見る。
-楽しいね。-
にこにこ僕が笑っていると、君が深く溜息をついて。
僕の近くに座り込んだ。

風が流れる。
汗をかいていたことを、彼らに撫でられて気が付く。

沈黙数秒。
「あー、分かったよ。降参降参っ」
君は黙っていると死んでしまう生き物だと言う事は、知っている。
悔しそうに頭を振っている君。
可笑しくて、僕は笑う。

「僕は、種類は良く知らないの。ただ、花の色が好きなの」

そう告白してから。
ずっと君は、君の思い出話をし始めた。
余りにも長いので要約すると。

「つまり。君は、君のお父さんとかお母さんとか呼ばれている人が、連れて行ってくれた山。それを求めてるんだね」

幼い頃見に見た世界。
色が様々に変化する季節。
鮮やかで。
艶やかで。
君の頭を全部持っていってしまった色たち。

僕の言葉に大きく頷きながら、君は
「いつか、其処にたどり着くのが夢なんだ。」
本当に嬉しそうに、答える。

-あぁ、あそこはあの時のままなのかなぁ~。-

君の何気ない一言が、僕に影を落とす。

「何だ。意外とつまらないんだね、君」

一気に熱が引いた気分だった。
君と言う存在に。

「そんなことを思っているくらいなら。其処にたどり着かなければいい」

絶対零度の言葉を投げつける。
それに反発する君の鋭い眼光。

-くだらない。
一緒にいる時間は無駄だったね。-

僕は、風を呼んだ。
強い風が包んで僕を連れて行こうとする。
瞬間、君の手が僕の腕を掴んだ。

「何?言い訳でもあるの?」
興味の失せた君には、温度のある言葉をかけるつもりはなかった。
勿体無い、そんな感情が浮かんできていたから。

「くだらない?思い出がくだらないの?君は、見たものの姿がどんな風になっているかとか。そういう風なことは思わないの?」
「思うよ。ただ、「あの日と同じ」かどうかは求めていないだけ」

離して、と君の手を払おうとする。
強く引く君。
風が走る。
頬に赤い糸が見える。
それでも、離さない君。
力は強くなる。

「僕にとっては。あの日のあの世界は、僕のお父さんとお母さんの大切な思い出なんだ。どうしてそれを、求めちゃいけないの?」

熱の言葉には、涙の色が見えた。

僕には、思い出がない。
多分、そう呼ばれるものがない。
見てきたもの全てを「思い出」とするならば。
長い長い旅の物語。
ある人からすれば、可哀想、こんな一言でくくられてしまう。
又ある人からすれば、良い経験をしたんだ、こんな単純な言葉でまとめられてしまう。
きっと、そんな道のり。

-ねぇ、こう考えた事はない?-

風を止めて、僕は君に言葉を投げる。

「其処に辿り着くまでが、きっと楽しんだよ。辿り着いてしまったら、全て「思い出」になって。望む望まずに限らないで、誰かの評価の対象になる」

君は、僕の言葉を一言一句逃すまいと真剣な眼差しを向ける。

-それにね…。-

形の変わらないものなんてない。
君の記憶も、こうしている間にも、形を変えている。
あの時と同じままなんて、ありえない。
見えない姿でさえも、そのままであることなんてないのに。
「あの時のまま」と過去の姿を求め続けるのは、酷。

-そして、何よりも…。-

今と言う時間を過ごす君と。
過去と言う時間を過ごした君は。
別人。
中身、外見が同じでも。
「感じるものは違うんだよ」

真剣な君の眼差し。
僕の好きな太陽が目の前に。

爺さんの部屋から見えた唯一の楽しみ。
太陽。
月。
キラキラ光る輝き。
爺さんの話しの中にあった「宝石」とやらを想像した時。
真っ先に、その光が浮かんだ。
見ているだけで幸せになる。
光、輝き。
僕と言う存在でさえも受け止めてくれる。
空間の優しさ。

僕は君の瞳に引かれて、君の傍に降りたんだ。
あの日もそうだった。
君が見つめていた花畑。
何かを探すように。
その二つの太陽で、咲き乱れる色たちへ愛情を注いでいた。

-…思い出したよ。-

君は、僕の言葉を聞いて。
瞳を数回瞬き。
そして僕を抱きしめる。

「まだ子供なんだから。そんな難しい事口にしないでよ」

苦笑しながら。
僕をちょっと諌めるような声。
でも、君の腕は優しかった。

かの日の歌にあった。

-光が見える丘。-

ひょっとしたら。
僕は、もう色々な所で。
それらに出逢っていたのかもしれない。

ふと、僕の脳裏をそんな思いが掠めていた。

相変わらず僕の生まれた理由なんて分からないけれど。
それでも。
僕は、ここで。
今、ここで。
小さく、大きく。
呼吸をして。
君の傍にいるんだ。