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ひとりぼっちの魔術師 *蒼の奇跡*

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余談.存在する魔法と、幸せの法則



-隠されたものはない。
 勝手に自分で目隠しをしているだけだから。
 その手を、ゆっくりゆっくりと外して…。-


規則正しい音が、僕の瞳を開かせる。
ぼんやり眼で、枕元との服を取る。
欠伸を一つ。
窓を見ると、綺麗な青。

-おはよ。-

雲がちょこんと腰を下ろして、季節の色を伝えてくれる。

ドアを開けて短めの廊下を抜けると。
君の後姿が見える。
奇妙な機会から、何やら言葉が聞こえる。

-何度見ても変なの。-

僕は背伸びして、手を伸ばして機械を手に取り。
頬に当てる。
じんじんと響く振動が、

-こころの音みたい…。-

何度やっても楽しい。

呼吸をしていない機械。
それでも、こうやって生きている。

-全てのものには、命がある。-

髭の爺さんの言葉を思い出す。
魂があり。
心がある。
想いがあり。
意志がある。

-…お前にもな…。-

頭に「残念ながら」と僕を呪う事を忘れなかった爺さん。
後ろから、僕より大きな二つの腕が包み込む。

「おはよう、又今日もやってるな」

くすくす笑って君が僕の耳元で楽しそうに囁く。
今日の強めの日差しとは違う。
暖かい太陽の君。
雨の日に、偶々僕は。
君の家の扉の前に立ち尽くしていた。
ちょっと吃驚した顔をして、君は笑って、

「やぁこんにちは、いらっしゃい。さぁ、どうぞ」

僕をあっさりと迎え入れた。
 
それから僕は。
君とこうやって向かい合って食事をするようになった。

色とりどりで。
色鮮やかな。
君の綺麗な手から作り出される食べ物たち。
僕の食べる姿を見て、にこにこしながら眺めている。
-そんなに見られてると食べ難いんだけど。-
ひとりごちながら。
僕の好きな色の野菜へ手を伸ばす。
君の瞳が細くなる。
何時もの光景だった。

君の手元は魔法使いみたいだった。
見ていて飽きない。
-楽しいなぁ。-
鮮やかな手捌きで、そのまま口にしても美味しいものを。
更に美味しいものへと変化させる。
君が使える、他の人を幸せにさせる力。
-僕にはない力…。-
同じ手の持ち主なのに、そんな思いがない訳じゃない。
時々、この力が何なのかと。
思うことがある。
誰に吐き出しても意味がないから、布団に包まる時に。
月や星に聞いてみるのだけれど。
やっぱり確りした答えはない。

がしゃん、と強く何かが叩きつけられるような音を耳にした。
ある日の雨の日。
僕と君が初めて出逢った。
あの日と同じ雨の匂いがした日。

音を立てないように、その方向へ。
僕は何だかそれが、楽しい気分がして。
こっそり、こっそりと足を進めた。

短い廊下を抜けると、硝子の窓が付いた扉。
そこから君の後姿が見える。

君は肩を荒く上下させている。
何度も何度も。

-苦しそうだ…。-

僕の胸が少しちくりと言った。
そしてまた、がしゃんっ、と先程よりも大きな音がする。
舞う、色たち。
君が作り出す魔法の原料。
そして、嗚咽が広がる。
 
僕は気が付いたら、君の傍に居て。
腰を床に落としきった君を、ぎゅっと抱きしめていた。
僕より体の大きな君。
それでも、頭くらいなら君を包み込む事が出来た。

突然の事で君は、多分。
吃驚した表情を落としていたに違いない。
君の中にある痛みが、僕に伝わる。
理由は見えないけれど。
それでも、何か強い想いが。
想いが強すぎて、君はそれに苦しんでいる。
そう感じた。

無言の時間が過ぎていく。
雨の音が静かに、僕たちを満たしていた。
 
「もう、大丈夫だよ…」

君の声が僕に届く。
そっと離れて、君の顔を覗き込むと。
目は腫れているけれど、何時もの君の微笑があった。
ありがとう、と小さく僕に伝えてくる君の声。

君と僕はそれから散らばった色たちを拾い上げて。
僕は初めて、君から君の使う魔法を教わった。
 
初めて僕の作った魔法は、君と僕で平らげた。
君の口に僕の魔法が入る時は、緊張した。
大丈夫を連呼されていたが、僕は少々納得が出来ていなかった。

「うん、おいしいよ」

その微笑だけで、僕は幸せだった。
かしゃかしゃと後片付けをしながら僕は、君に御礼を伝える。
髭の爺さんに、
-何か自分にとってよい事をされたら有難う伝えろ。-
と言われていた。
お礼なんていいよ、と謙遜する君。
そんな事はない、僕にとって。
初めての魔法。
誰かの為にできた事。
胸に針が刺さらず。
暖かくなった事。
君の魔法でなければ、多分、無理だった感覚。
僕の中に芽生える。
髭の爺さんが植え付けたであろう種。
開花するかしないかは、何か次第だったはず。
出逢えた事に。
そして、君の魔法に。
-心から感謝したいんだ。-
 
君は、そんな僕を見て苦笑しながら、たいした事じゃないよ、と又謙遜。
そして、君のあの時の取り乱した理由を、僕に伝えてきた。

君は有名な「料理人」と言う職業についていたらしい。
有名なお店で働き。
沢山の人たちに美味しいものを伝えていたらしい。
誰かの幸せになる顔を沢山見たくて。
料理が得意な君のおかあさんと言う人の姿を見続けて。
君は、その仕事を選んだ。
ありったけの気持ちを込めて創り出す君の魔法。
楽しく、美しい光景。
人々はそれに魅了された。
 
君は有名になる。
君の創るものは美味しい、至上の幸福だと称されるようになった。
だが、それは君が忙殺される原因にもなる。
そして、ある時君は気が付いた。
君の魔法を食する人たちの顔が見えない事に。
何を創り出しても、美味しい、と言う声。
君の名前だけを求めてくる人々。
目まぐるしく変わってしまう空気に君は、恐怖を感じた。

「僕は、自分が分からなくなった。人々を愛して、創るものを愛して…。愛しているはずなのに。忙しさ、と言う名前に殺されて。自分の気持ちが、どこか遠くへ掻き消えてしまっていたんだ」
 
気が付いてしまった。
君は、自分の変化に。
変わったのは周囲ではなく。
自分だと言う事に。
 
気が付いたら、自分は料理を作る部屋から飛び出し。
何も持たずに。
ただひたすら街中を駆け巡った。
自分の事を知っている人が声を掛けたが。
彼らの顔は能面で、何も感じず。
ただ、美味しかった、と言う温度のない感想だけが。
深く深く心に刻まれて。
更に怖くなった。
見えなくなった。
 
話しながら、君は自分の腕をぎゅっと握っていた。
君の腕を見る。
所々に、走った後が目に飛び込んできた。
僕はそっと触れて、風を起こした。
何で出来たのか理由は知らない。
ただ、君から魔法を教えてもらって。
多分、その力が導いたのだろう。
幾重にも走る線の色が、薄くなっていった。
きょとんとしている僕。
口を大きく開けて僕を見るつめる君の瞳。

ここに居る理由を君は、

「現実から逃げる為だよ」

と言い切っていた。
人里離れた所に君の部屋はある。
確かに、逃げているのかもしれない。

君は僕の事を一度も聞いてこなかった。
あの雨の日、どうやってここに来たのかも。
僕の産まれ、名前。
何一つ聞かずに。
君は僕に温かい食事を振舞ってくれた。

-君と僕は、同じ存在だったのだろうか?-

分からない。

「今でも、その人たちの顔は見えないの?」