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ひとりぼっちの魔術師 *蒼の奇跡*

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四.暗闇に見る、光の唄



-謳う心に、偽りはなく。
信じる心に、偽りがあるだけなんだ。-


真っ暗な世界に君と二人。
僕の首には、生まれた日につけられたような鎖。
君の足には、多分つけられた事のないような鎖。
じゃらじゃらと暇をもてあまして、音で遊ぶ。
地面に擦ってみたり。
叩きつけてみたり。
壁に寄せてみたり。
冷たいそれを、君の頬にぶつけてみたり。

違う温度を感じて、君は瞳の色を僕に向ける。
直ぐに視線をはずして、又独りの世界に入り込む。

「ねぇ、君はそんなつまらなそうな顔で一日過ごすの?」

僕は不思議に思ったので単刀直入に聴いてみた。
その言葉に、君は苦笑する。
違うよ、と小さく呟き。
肩を声なく揺らし。
ゆっくりと首を振る。

「もう、忘れただけだよ。ただ、それだけ」

僕はふと思い出した。
爺さんの話の中に、こんな話があったことを。

その昔。
世界は歌に溢れ、光も影も。
歌い歌われ、回りまわって。
世界を作り上げていた。
それを未来へ紡ぐ人々の存在を。

それよりちょっと未来。
世界の中の歌は、信じるものの形となり。
誰でも紡げるようになった。
歌い歌われ、回りまわって。
世界は、歌に導かれた。
未来へ紡ぐものたちの存在は、影へと消える。

更にそれよりちょっと未来。
世界を歌った歌を、求められる事があった。
それさえ歌えれば、暗闇から抜け出せる。
誰かが伸ばした手。
慈愛と言う言葉に甘えた手。
歌を間違えた人。
歌えなかった人。
そして。
歌えたけれど、歌わなかった人。
回りまわって、歌い継がれて。
未来さえも、歌一つで、決められた。

「君は…」

僕が、口を動かそうとすると。
がしゃんと、鉄の柵が開く音が聞こえた。

君を縛る鎖は外され、光の中へ君は消えた。
僕も一緒に出される。
まぶしい、偽りの太陽の下。

外には、煩い雑音。
何かを叫んでる。
魂の声。
恨み節。
黒い影たち。

君の視線は、何処にもなく。
瞳は閉じられたままだった。

黒い髭を生やした筋肉質のおっさんが、何かにとり憑かれたように。
自分の声にうっとりしながら、言葉を吐き捨てる。
彼が言葉を区切るたびに、目の前の黒い影は歓喜に似た音を上げる。

-五月蠅いな…。-

僕はちょっと不機嫌になった。
相変わらず君は、瞳を閉じている。

おっさんが喋り終わると、君は乱暴に前へ突き出される。
細い君は、よろりと体制を崩しながら、前進する。
もっと前へ出ろと、また誰かが君の背中を手以外の硬いものでせっつく。
その度に又、黒い歓喜。

-…五月蠅…い。-

行くべき先端まで君は行き着き。
その時、君は初めて瞳を開き、黒き影を瞳に焼きこむ。
後姿だから、僕は君がどんな顔をしているか、分からない。
おっさんが、君に近づき、何かを喋っている。
君はその言葉を聞き流し、苦笑する。
全く相手にしていない君を見て、僕は笑い声を上げる。
僕の笑い声を聞いて、君もつられて、くすり、と笑う。

「何だ、君。忘れてないじゃないか」
僕は君の前の言葉を否定してみる。
「…いや、さっきまで忘れていただけだよ。君に、思い出させてもらった。」
「そりゃ良かった。僕でも役に立つ、って言葉が使えるんだ。初めて知ったよ」
僕の中になかった感覚。

-誰かの役に立つ。-

言葉は知っていたけれど、こんな時に使うのだと、知る。

「最期に誰かに、何かを伝えられて良かった」

にっこり、君は優しい木洩れ日のような微笑を僕に向ける。

刹那、君の体は左に揺れる。
鈍い音と共に。
元凶は、髭のおっさん。
自分が無視された事が、余程気に入らなかったんだろう。

-何だよ、子供だな…。-

呆れてものも言えない。

肩で息をしながら彼は、又ぎゃんぎゃん弱い犬のように泣き叫ぶ。
君は、その音圧にも動じず。
彼をしっかりと見つめる。
一瞬怯みを見せる彼は、何を感じたのだろう。
確かに、小麦色に焼けた顔に、青白いものが走った。
僕にはそう見えていた。

振り払うように、彼は、周囲の部下らしき人間に何かを伝える。

がしゃがしゃと、何かが上がる音が聞こえる。

「何か残す言葉はないか?」

おっさんの言葉に、君は優しく微笑み。
深く、息を吸い…。
言葉を。
音を紡ぎ始めた。

華を歌い。
風を歌い。
光を歌う。
土を歌い。
雨を歌い。
影を歌う。

それは、僕が爺さんから聞いた。
世界を包んでいた、音と言葉の集まりだった。

場が、静まり返る。
広がる、君の歌声。

僕の「心」とやらにも、届いていた。
確かに、届いていた。

ただ。
最後まで聴く事が出来なかったのだけれど。

途中で途切れたその歌声は。
今でも僕の心でずっと流れている。

瓶の中で生まれた僕でさえも。
誰かの温かい腕に抱かれて。
愛されている、って言葉を使えそうな。
そんな思いに包まれたから。

君の心には真実があり。
君の歌には真実があり。
君の閉ざした口には、隠された事実があった。

それを。
君は、独りで鍵をかけただけなんだよね。
それじゃ、世界は、誰も君を知る事が出来ないのに…。


…その後の僕?
つまらないから、風を呼んで。
君が最期に呟いた言葉に従って。

-光見える丘を…-

目指してみることした。

…そうそう。
あの時、言いかけた言葉。
君に聞きたかったことがあったんだけど。
もう、その答えは聞いたから。
充分だよ。