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ひとりぼっちの魔術師 *蒼の奇跡*

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二.君と見た、空の色



-本当の空の色は、銅だったんだ。-


小さい子が泣いていた。

(最初から辛気臭い。)

僕はそう思いながら、君の元に降り立つ。

何処からともなく現れた僕に、君は大きな瞳を。
涙色の瞳を向けて。
ぱちくりぱちくりさせる。

-あなた、だぁれ?-

なんて、決められた小説のような台詞。
僕は苦笑する。

「さて、誰だろうね、僕にもわからないや。どうして君は泣いているの?」

肩を軽く上げて、君に問いかける。
視線を落とす君。
抱きかかえていたぼろぼろのぬいぐるみを、ぐっと胸に近づけ。
瞳には、大粒の涙。
僕はそれに近づき、そっと舐める。

「しょっぱいや」

言葉を聴いて君は、その水で地面を濡らし出した。

とつとつと紡がれる事象は、あの部屋にいた爺さんの言っていた事の一欠片だった。

「君はどうしたいの?この世界を壊したいの?」

僕は尋ねる。
無味乾燥な僕の声に、君ははっと顔を上げて。
瞳に恐怖の色を映し出す。

「壊したら。僕の大切な人は戻ってくるの?」
「さぁ?知らないね。ただ壊れるだけだよ」

僕の返答を聞いて、君は空を見上げる。
ぬいぐるみも、苦しそうに見えるくらい。
ぎゅっと、腕に力が入っている。

東の空では、赤い焔と黒い煙。
北の空では、助けを求める声。
南の空では、逃げ切れたものの歓喜。
西の空では、小さくなって今が終わることを祈る声。
ここは、君と僕の空。
二人だけの空。

じっと空を見ながら、君はポツリと呟く。

「空の本当の色を、君は知っている?」

左右に僕は首を振る。
世界へ出てから、そんなに経過していない。
それに、分からない事だらけだ。

例えば、君に瞳から落ちたしょっぱい水。
君の抱えている見えない気持ち。
そして、今の君の質問の意味。

僕たちは黙ったまま、天井を見上げる。
二人のいるところの空は、雲に隠れて、蒼さがあるはずの中に。
霞みがかって真実を隠している。

仰ぎ見ていた君が、突然どさりと、地面に崩れた。
視線を落として君を見つめると、広がって見えたのは、銅色だった。

周囲を見渡すと、いつの間にか、紅い波に囲まれていた。
誰かの白刃が僕に向かう。
僕は、風を呼んだ。
吹き飛ぶ白刃。
ばらばらに飛び散った何か。
囲むものは恐れて、散り散りに。

銅を広げた君を、僕はそっと抱きかかえて。
風を呼んだ。
閉じた瞼から流れる水。
僕は、舌を出して舐める。

「…硬いや…」

空の本当の色なんて。
そんなものは何処にもない。
そもそも、世界に「本当」なんて存在しない。
ただ。
君の銅色と。
しょっぱくて硬い水は、世界の真実だと。
僕の胸に刻まれた。

東の空では、何も残らなかった。
北の空では、何も残せなかった。
南の空では、何もかも捨て去られていた。
西の空では、小さい希望さえも過去に流されていた。

僕の空では、君が小さく。
小さく、祈っていた。