ゴミ箱のスレイプニル
情報
「あるはずです、古来より儀式には文字と数字が使われてきました、陣は視覚的な情報です。その情報を残すものを探してみて下さい」
女の子はスレイプニルの体を両手いっぱいに抱きしめ、頬ずりしながら僕に話す。
「まだ今なら間に合います。破棄した場所から回収し、それを元の場所に戻すか……戻すのが無理でも保持しておいて下さい。お願いします」
僕が何かをしたと言うが呪文も儀式も出来ない。
そもそも、そんな知識は持っていない。
「記録……破棄……この二つが伝えられる言葉です。明朝までに探して下さい、現代の魔術を知るあなたには、きっと難しくない筈です」
いつしか女の子の姿を見慣れていたのか、お互いに正面を向いて考える。
僕は魔術なんて使えない、女の子が何か勘違いをしているとしか思えない。
「いいえ、現代では多くの人が、そうと意識せずに使う手段です。ここから出します。ですが、見つからない場合は代償を払って頂きます」
困ったことになった。
これは謎掛けをして答えられないと殺されるパターンのようだ。
今は全く怖くないが、明日の朝までに答えを出さないと、きっともの凄く恐ろしいことが起きるのだろう。
僕は立ち上がることも出来ない、狭くて暗い下水道を去る前に、一つだけとても聞きたいことがあった。
女の子はそれに快く答えてくれた。
「見えるものが全てではありません。私はスタンザの一部です、バルドルへの道の一ページです。名前はありませんが、便宜上スタンザと呼んで下さい」
名前がスタンザ……あとはやはり理解不能だった。
僕は気がつくと道に立っていた。
マンホールの蓋はしっかりと穴に納まり閉まっていた。
道が乾いている。
明るさは変わらないが、携帯を出すと時刻は夕方になっていた。
学校を一日さぼったことになる。
家に帰る、着替える、軽い食事をしてから考える。
夢でも見ていたのだろうか。
だが、あの下水道に引き込まれた感覚、それにスタンザとスレイプニルはあまりにも存在感があった。
僕がスレイプニルの足を切ったらしい、何らかの呪術的なことをしたから。
どういうことだ、僕は自分の部屋で考える。
作品名:ゴミ箱のスレイプニル 作家名:夕雲 橙