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「山」 にまつわる小品集 その弐

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 遠征前そのままの家に、美也子は孝史一家と暮らしていた。
 家に帰った翌日、美也子に水晶を渡した。
「遭難した翌日にこれを見つけて、ポケットに入れていたんだ」
「まあ、水晶! 水晶は命のパワーの源だといわれています。きっとこれがあなたに、生命力を与えていたにちがいないわ。大切に、大切にお守りとしてお預かりします。三上さん、大橋さん、吉田さんもお持ちになっていらしたら、きっと生きていらっしゃるはずだわ」
「水晶を持っているかどうかは知らないが、きっと生きていると思うよ」


『エベレストは昔海だった』を出版した私は、しばらくの間虚脱状態にあった。全力を注いで仕上げた仕事に、心地よい陶酔感を味わってもいたが、次に何をしようという気もなく、毎日孫の相手をしていたのである。

「あなた、意外と子供の相手がお上手なのね」
「あ? ああ」

 三上、吉田、大橋らと鬼子との間に生まれた子供たち、額に突起を持つ者と持たざる者がいたが、全員背中には金色の毛が生えていた。人間社会に連れ込めば一目瞭然、違いが分かる。
 しかし、太陽や茜たち子どもは私の孫たちと全く同じだった。子供は子供なりの動きをし、考え方をしている。


 そんなある日、美也子、上高地に行かないか、と誘ったのである。
 穂高は、私と美也子の思い出の地であった。