「山」 にまつわる小品集 その弐
実林寺の抜け穴の出口は山中にあった。
そのまま山の中を走り、箕面の里に出ようかという所で、大内方の忍び、雑賀衆に囲まれた。
石礫が飛んできた。
錫杖で弾き飛ばす。
高下駄に仕組んだ跳梁器と杖で地面をトンと突き、高く跳び上がって大木の枝の中に隠れ、隣の木、そのまた隣の木へと順次礫を投げて枝葉を揺すった。
3人の影が走った。
――3人か、このまま逃げていつまでも追われ続けるよりも、いっそここで殺ってしまったほうがよいか
木から飛び降り笈を隠して、3人の後を追いかけた。
最後尾のひとりの背後から錫杖を振り下ろした。
前のふたりが振り向きざま、苦内で突いてきた。
上体をそらす。
瞬間続けて突いてくる。
かわすや、錫杖を両手で支え持って突く。
素早い動きで逃げられる。
ひとりが手裏剣を投げる。
転がり近づいて、すかさず膝まずき、突き上げた。みぞおちに命中した。
立ち上がって周囲に目を配る。
残るはひとり。吹き矢を構えている。
ヒュッ
同時に高く跳びながら錫杖を投げつけると、先端は喉を突いた。
吹き矢は足に刺さっている。
引き抜くと、毒が塗ってあった。
彼らの死を確認し、錫杖にすがりつくようにして足を引きずり、笈の置いてある所まで戻るや、毒消しの薬を調合した。
毒は全身に回りつつある。
汗が吹き出し体が震え、朦朧としかけた意識の中で、調合した薬をそのまますべて飲み下すと、眠りに落ちた。
☆ ☆ ☆
秋風に稲穂が揺れている。
作蔵はハギら村人と共に、稲刈りに精を出していた。
近所の子供たちは、アキアカネを捕らえるのに夢中になって走り回っていた。
2011.7.19
作品名:「山」 にまつわる小品集 その弐 作家名:健忘真実