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「山」 にまつわる小品集 その弐

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 平安時代、貴族は農民の納める税で暮らしていた。しかし貴族の数は増えるばかりで、次第に税の負担が重くなり、土地を捨てて逃げ出す農民は後を絶たず、盗賊となる者もいた。
 一方荘園や土地を守るために農民たちは武芸を仕込まれ、武力集団を形成していった。そのひとつ平氏が、貴族の藤原氏を倒し政治の舞台に立った。
 その頃のこと・・・

 盗賊の頭・猪喰は騎馬団を作り、村々を襲っては食糧などを奪って、山の中を転々として暮らしていた。磐城や岩代にまで足を伸ばすこともあった。
 そんな時、ひとりの少女を拾ったのである。
 磐城の守護代の屋敷に買われ、奴婢としてひどい仕打ちを受け、逃げ出してきたというイト。イトは猪喰の妹に似ていた。奴婢は財産とみられており、屋敷の者たちがイトの行方を捜し回っていた。
 猪喰はイトを伴って故郷の大野を目指した。
 追ってはあきらめて引き返していった。

 イトと旅を続ける間に情がわき、イトは身ごもった。
 女に現を抜かす頭に部下たちは見切りをつけ、新しい頭を立て去っていった。
 猪喰はイトを守りたい、安心して子を産んでほしいと、家族の元に戻った。家族は新しい領主のもとで土地をあづかり、困らない暮らしを送っていた。

 イトは快く受け入れられたが、猪喰はならず者である。地頭の武士団に追われて矢を射られた。
 傷つきながらも山に逃げ入り、姥負い神社の社の中に隠れた。
 ガサッ、という音が聞こえるたびに外をのぞき、人影がないことを確認しては、ほっと溜息をついていた。
 ふっ、と目を奥にやると木彫りの像が祀られている。荒削りの像は、老婆を背負った男の姿である。
 おっかぁ、というつぶやきが出た。

 人を殺すこともあり、悪事を働いてきた猪喰ではあったが、ひたすらにイトの幸せを願う己に戸惑いもあった。しかしそれは気持ちを穏やかにし、頬笑みさえ浮かべて息を引き取っていった。

 外では、クヌギのドングリを集めるリスの姿があった。