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「山」 にまつわる小品集 その弐

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千年樹  (歴史小説)




 シャーシャーシャーシャーシャーシャー
 シャーシャーシャーシャーシャーシャー
 ジッ ジッ   ジッ

「ほら、あそこ」
「よっしゃ、黙っとけよ」
 秀人はそっと近づき、網を振りかぶった。
 ジッ
「あ〜ぁ、兄ちゃんのへたくそ! やっぱ父ちゃんの出番やで」

 秀人・吉人兄弟は、父の会社の盆休みに家族で、父の郷里である福井県大野市に来ていた。

「秀人、吉人、こっちに来い、いいもん見せてやるぞ」

「わぁ〜ァ、でっかい木ィ」
 ふたりで手をつないでも抱えきれない太さがある。高さは15mあろうか。

「このクヌギの木はな、1000年以上も生きてるんや。ほら、この洞(うろ)にいろんな虫が集まってるやろ、樹液を求めて来てるんやで。スズメバチも来るから気をつけろよ」
「すっげェ、カブトもクワガタもいるぜ」

 町はずれの山の麓にある鳥居をくぐって石段を上がっていくと、姥負い神社があり、その境内に立つ樹齢1000年の大クヌギ。見上げるほどに首が痛くなる。青々とした枝葉は大きく張り出し、樹皮は固くとげとげしくもあり、めくれ上がっているところもある。黒い樹液をためた洞にはいろいろな種類の虫が集まってきて、命の糧を得ている。

 目を輝かせて、クワガタムシとカブトムシを虫かごに捕らえた秀人と吉人。
「父ちゃんが子供の時は、カブトどうしで相撲を取らせてたんやぞ」
 それを聞いて、早く帰ろ、と。
 相撲を取らせたくてうずうずしている子供たちだった。