「山」 にまつわる小品集 その弐
放課後、山岳部は校舎の屋上からザイルを垂らして、懸垂下降の練習をしていた。
良平は、屋上の柵に腕を乗せてグラウンドを見ていた。グラウンドでは、サッカー部が紅白試合をしていた。
悦治は小柄なからだを敏捷に動かしてボールを奪うと、高く蹴り上げた。そしてゴールに向かって駆けていく。しなやかな足さばき、手をうまく使ってバランスを取りながらボールを蹴る。ほれぼれとする姿である。
「三田先輩、見本を見せてくださいよ」
「ああ? ああ」
我に返って懸垂下降の注意点を教えて、下降してみせた。
良平はどちらかといえば、アルペンスキーに目標を置いている。実際にスキーができるのは、1月から3月の3ヶ月間しかない。それ以外は合宿で高い山へ行くぐらいで、普段はボッカ訓練をしている。30kgのキスリングを背負って、校舎の階段を上がったり下りたり。ロッククライミングはしないのだが、時々こうして真似事だけをしているのである。
地面に降り立った良平はそこにつっ立ったまま、悦治のシュートに目をやった。シュートはゴールからそれた。
いつもの悦治らしくないな、と思った時、勢いよく懸垂下降してきた後輩が良平にぶつかり、倒れそうにぐらついた良平は運の悪いことに、近くに置いていたキスリングに躓いて、大きくでんぐり返りをしてしまった。
「いててて・・・」
「あっ! すみません、大丈夫ですか!?」
駆け寄ってきた後輩に助け起こされたが、
「いててて・・あしが・・折れたみたぃ」
作品名:「山」 にまつわる小品集 その弐 作家名:健忘真実