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ミムロ コトナリ
ミムロ コトナリ
novelistID. 12426
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ゴールドとカッパーの心理合戦(ココロしあい)

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6.




 まずは対策を講じる必要がある。
 美和子との会話を通じて、アイツが完全に”黒”だと断定出来るに値する証言を引き出さなくてはならない。
 その際、障害になるのは彼女の『能力』だ。疑問を疑問と感じさせず、いつの間にか忘却させてしまうと言うあの力。原理や正体は不明だが、データを取ってパターン化すれば、何か掴めるはずだ。
 その対策として考えついた手段は――

 廊下で、大量のプリントを抱えて運ぶ美和子と出くわした。
「よぅ、みわっち。大変そうだな。持とうか?」
「あ、ありがとう暁君。実は大変だったんだ。じゃぁ、半分お願い出来る?」
「オッケー」
 そう言って俺は、プリントの半分を受け取る。

 ――大抵、敵と踏んだ人間は、とことん悪い奴だと自分に言い聞かせるもんだ。
 そうすれば、情け容赦なく断罪出来るしな。
 だが、俺が取った手段は違う。
 敵対するのではない――その逆だ。
 隠し事が出来ないくらい、ず(`)ぶ(`)ず(`)ぶ(`)の関係になってしまえばいい。
 彼女は誰にでも気さくな態度で接し、人を尊重し、実に丁重に扱う。友人、クラスメート、先生。男女の区別無く、人間の差違に関係なく、だ。そこに一線を引いたりして、粗雑に扱ったりなどしない。それが恐らく、彼女の『ルール』なのだろう。
 ――ならば、だ。
(この子と仲良くなるのは実に容易いこと…。そのハードルは高くないと断定する…!)
 これが対策その一。
 美和子と親しくなって、友人の間柄になること。
 普段から遊んだり、一緒に過ごしたりする時間が長くなれば、相手の生活リズムや事情を掴みやすくなる。加えて、人間性を深く知ることも出来る。その人の性格を把握出来ていれば、嘘と本当の『差違』を見分ける事も容易――!
 嘘を見破るのは俺の十八番だ。会話の中でそうした仕草や間があれば即座に分かる。
(さぁ、第一段階と行こうか)
 計画通り、俺は美和子と一言でも多く会話するよう心掛け、彼女の仕事を手伝い、信頼関係を構築する事に努めた。
 半月もする頃には、俺と美和子の関係は、クラスメートの『顔見知り』から『友人』と呼べる間柄になっていた。
 今まで突っ込んだ事を聞くのは控えていたが、これで下準備が整った。
さぁ、見極めさせてもらおうか。お前が”黒”かどうか…。



「ねぇ二人とも、お昼一緒に食べない?」
 昼休み開始のチャイムが止まないうちに、俺(`)た(`)ち(`)に話しかけてきたのは美和子だった。
「いいのかい、美和子ー?ランチのお共が、僕たちみたいな野郎連中で?」
 暢気な調子で言うのは八歳。
 所で、お気付きだろうか?”美(`)和(`)子(`)”ですってよ。
 いつの間にかアイツは、俺の預かり知らぬ所で美和子と仲良くなっていたらしい。
 実を言うとこの”天然風優男”。かなりの『スケコマシ』だ。自身の爽やかなルックスを活かして、一目気に入った子がいれば即座に口説き落とそうとする。しかも、それで女の子の方もホイホイ付いて来てしまうのだから、どうかしているとしか思えない。
 その関係もドライな物で、『するべき事』をしたら『後腐れ無く』、と言った具合だ。
 ほんと、いつか地獄に落ちればいいと思うぜ、この節操なし。
「いいの。今日は先約無し、フリーなんだ」
 明るい調子で言って、美和子は弁当箱の包みを出して見せた。
 それを見て、八歳が爽やかな顔にニヤリと笑みを浮かべ。
「もしかしてー、美和子って女の子の友達少ないの?」
「えっ?そ…そんなことないわよ…ッ!?い…いつもは皆と一緒に食べてるんだから」
 否定している割には、声が上ずってますよ美和子さん。…実はそうなのか?
「へぇー。でもさぁ、美和子が女の子達と食事してる所あまり見たことないんだけど?」
「だから、今日はたまたまだって言ってるでしょ」
「ふぅん、まぁそう言うことにして置いてあげるよー。しょうが無いなぁ、そんなボッチの美和子のために今日は特別に付き合ってあげようか。ねぇ、暁?」
 なんで俺に振るよ。つか、彼女ちょっと涙目になってるぞ。
「ハハハ…。いや、まぁ、こいつの言うことは気にしないでくれ。さ…さぁ、飯にしようぜ」
 美和子へのフォローの意味も込めて、苦笑いで答える俺。
「ありがとう暁君。にしても。…ぐぅぅ、本当に八(`)歳(`)って意地悪だよね…!」
 あん?八(`)歳(`)…だと。ちょっと待て。
 さっきのやり取りにしても、こいつらこの学校で知り合ったにしては、随分と気安すぎねぇか…。まさか…。
「なぁ、もしかして、二人って知り合いなのか…?」
 その言葉を聞いて、きょとんとした顔で俺を見る二人。
 八歳が口を開き。
「あれ?言ってなかったっけ?」
「なにを?」
「僕と美和子が”幼なじみ”だって」
 ???…はぁッ!?
 今、何つったこいつ…!なんかとてもスゴイ事さらりと言いやがったぞぅぅ!!
 俺は、引きつった笑いを浮かべて。
「…え?なんですって、八歳くん。もう一回言ってくれない?」
「僕と美和子、幼なじみ」
 ……。
 俺は暫く自失呆然し。
 
 ガッデェィーーーームッ!!
 
 リアモテの節操なしのクセに、あんなキレイな子が”幼・な・じ・み”だとぉーー!!
 どんだけてめぇ、ハイスペックな上に羨ましい経歴の持ち主だよッ!!
 謝れ!生まれつきチャラ男ルックスのせいで酷い目に会ってきた俺に謝れ!
 謝罪と賠償(俺が人生損してる的な意味で)を要求するぅぅーーー!
 …ハァハァ。…落ち着け俺。腹式呼吸だ。ヒッヒッフー。(ちげぇ、ラマーズ法だこれ)
「んじゃぁ、ずっと前。みわっちが、俺達を見て微笑みかけてきたのは…」
「あー、僕にだったみたい。ハハハ、もしかして自分だと思ってたの?飛んだ勘違い野郎だねぇ、この哀れなピエロさんめ。ねぇねぇ、今どんな気持ち?どんな気持ち?」
「うぉぉおぉ!うぜぇ!!こいつ、うっぜぇぇぇっ!!」

 ――という、衝撃の事実が発覚し、心が折れかけそうになったものの…。
 俺達三人は教室の隅で、会話に興じながら昼食を取っていた。
 美和子と八歳が、仲睦まじく会話に興じて、俺がそれに相の手を打つと言う構図の中。
 俺は、”下準備”をしていた。
 ――前回はジャブを振ろうとして、振らせても貰えず試合が終了したと言う感じだったが。
(同じ二の轍は踏まない。『対策』は済ませてある…!)
 俺は、ポケットの中に忍ばせてあったボイスレコーダーの録音スイッチを静かに押した。

対策その二は、会話の録音。
 なにが切っ掛けで彼女の『能力』が発動し、どのタイミングで俺が目的を忘れて話を脱線させてしまうのか。それを解析・分析し、調べる為だ。
 つい先日、ま(`)た(`)失踪者が出た。二年六組の、西?(にしたて)という女子生徒だ。
 (見てろよ。前回は為す術なく敗れ去ったが、今日はリベンジマッチ。直接的にはいかず、安全に慎重に、迂回路を通って後ろから忍び寄るように、遠回りに話題をふって仕掛けるとしよう)
 ――と、俺が口を開こうとしたその時だ。
「ねぇ、暁君。所で最近、行方不明になっている人がいるって知ってる?」
 ―――ッ!!