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ミムロ コトナリ
ミムロ コトナリ
novelistID. 12426
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ゴールドとカッパーの心理合戦(ココロしあい)

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 ガツンと殴られたような気分だった。
 心象を映像化出来たなら、モニターには開幕早々強烈なストレートを叩き込まれてダウンしている俺の姿がある事だろう。
 ――まさか、”黒”だと踏んでいる人物から話を切り出されるなんて!
 刹那の間だったが、俺は心の中で戦々恐々としていた。
 /計測/ 
(失念していたわけじゃぁない!甘く見ていたわけじゃぁない…ッ!相手も人間。考える脳は持っている。ましてや、相手はあの幸菜川美和子だ。頭の良い彼女なら、俺の考えに気が付いていたとしても不思議じゃない。いや…実は気が付いていないのかも知れないが、何かしらカマを掛けようとしてこの話題を振ってきたのかも知れない…!
 動揺するな、慌てるな俺。ボロを出すな。疑心暗鬼のループに嵌まるんじゃぁない。
 こう言う場合、勘ぐれば勘ぐるほどドツボだ。そうやって俺のミスを誘う気なんだろ?それがお前の狙いなんだろ?へへ、引っかかるかよ…。…会話だ。会話をするんだ。当初の目的通り、会話をして彼女の『能力』を調べるんだ!)
 /この間、0.476秒。/
 俺は、びっしょりと汗で滲んだ掌をスラックスで拭いて、
「へぇー、そうなんだ」
 平静を装い、関心があるような態度で無難な返答を寄越した。
 美和子は、そんな俺をにこやかに見ている。
 あえて、話題を継続させるような『フリ』はしない。相手の出方を窺う為だ。
 それに、戦いは『撤(`)退(`)戦(`)』に(`)変(`)わ(`)っ(`)た(`)(むしろのその選択肢を視野に入れなければならなくなった)。下手を打てば、『色々』とばれる。それは避けたい。が、俺としては情報が欲しい。
 リスクを天秤に掛ければ逃げた方が特だろう、かと言って不自然に話題を逸らせば変に勘ぐられる。そこで、折半案として挙がったのは――

 向こうが話を続けるならそれで良し――作戦継続。情報を引き出す(ただし、リスク大)。
 これ以上追求しないようだったらこの話は終わり――作戦中止。会話終わり(リスク小)。

 俺の心の内を知らずに切り返す美和子。
「あれ?もしかして、興味ない?」
「いやぁー、そんなことないぜー」
 そう言って、俺は弁当のだし巻きをほおばる。
 /再び計測!/
(俺も美和子を疑っているが、彼女も俺を疑っている…。――自分のことを嗅ぎ回っている『小バエ』だと。話題を振って来た時点でそれは明らかになった。…どこで手打ちにして逃げおおせるか…。こちらとしては傷口を広げず、早々に退散したいのが本音だ。イニシアチブは――事件に関わっているであろう――”黒”である彼女が握っている…。生かすも殺すも向こう次第。なにより…ッ!ここで下手打って目を付けられて、面倒に巻き込まれるのはゴメンだ……!!)
 /この間、僅かに0.205秒!!/
 所が、話題に食らいついてきたのは意外な奴だった。
「あぁー。それって暁が前言ってたことだよねぇ。この数ヶ月の間、ウチの生徒が何人か謎の失踪を遂げてるとかって…。確か、暁って調べてるんだよねぇ、その事件のこと」
 思わず、俺はだし巻きを噴き出しそうになった。
(このヤロォー…!!余計なこと言いやがって、この天然スケコマシがよぉ――ッ!!)
 ――しまった。忘れてた。コイツに言ってたこと…。早くもプラン崩壊かよ…。
 ふと覗き見た美和子の目が、少しばかり笑みを浮かべたような気がした。
(…やべぇ…、確信された?これはもしかして、アウトか…?)
 心臓の鼓動が早くなる。ドクドク、ドクドクと脈打つ心音と焦燥感が緊張を煽りたて、一秒を何分にも引き伸ばす。
「なぁんだ。暁君も知ってたんだ。実は私、障りしか知らないんだ。そう言うことが起こっているってだけで。よかったら、詳しく聞かせてくれない?」
(事情を聞いてきた?助かったか…。しかし、腹が読めねぇな、コイツ…)
 ――仕方ない、腹をくくろう。
「あぁ、いいぜ――…」
 俺は、知っている限りの事を美和子に聞かせてやった。

「ふぅーん。それは不思議ねぇー。なんの前触れもなく失踪するなんて。しかも、それを誰も不思議に思わないし、話題にもしないなんて…。実に、奇妙だわ…」
 そう言って、口元に握った手を当てて思案する美和子。その顔は実に真剣だ。
(あれ?以外な反応だな…)
 予想としては、美和子は俺を詰問して来るものだとばかり思っていたからだ。
 何故、事件を調べているのか。
 何故、興味があるのか。
 何が――目的なのか。
 所が、そうした質問は一切なかった。俺が話をしている最中、一切だ。
「失踪した人達に共通点とかは?」
「さぁ、そこまでは調べてないなぁ…」
 もちろん嘘だった。すでに調査済み。
 なぜ言わないかって?
 俺としてはこれ以上、美和子に情報を開示する理由がないからだ。
 言っただろ?面倒に巻き込まれたくないって。泥沼に足を突っ込むのはゴメンだ。
 それにこれ以上、この話題を深く掘り下げる気も無かったしな。
 その空気を察してか。
「そっか。ごめんなさい、変なこと聞いちゃって」
「いや、とんでもない。こっちも食後のいい暇潰しになったよ」
 俺は、もうすでに弁当を平らげていた。
 話題が途切れたのが気になったのか、八歳がこう切り出した。
「あっ!そうだ、暁。美和子の隠された秘密って知ってる?」
 ――隠された、秘密…だと?
 …それは是非とも興味がある。
「あ――――ッ!あっ、あっあ、あ―――ッ!!」
 突如、美和子が慌てた様子で大声を上げた。
 教室にいた連中が、何事かとこちらに視線を注ぐ。
 手をばたつかせて、八歳の口を塞ぐ美和子。
 口を塞がれて「んがぐぐっ…」とくぐもった声をあげる八歳。
「なんだよ?秘密って」
 二人のその様子に、面白いニオイを感じ取り、冷やかすように言う俺。
「なんでもないの、なんでも…!あ…アハハハハッ!」
「美和子…ん、ふち(ウチ)はねー…、じつふぁー…もごっ…!」
「だ――っ!アンタは黙ってなさいッ!!」
 ”アンタ”ですって。淑やかそうに見えて、時にざっくばらんな物言いをすることもあるんだなぁコイツ。

 美和子の意外な一面を見れたような気がして俺は少し満足だった。
 ある意味、今日一番の収穫だったかもしれない。