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ミムロ コトナリ
ミムロ コトナリ
novelistID. 12426
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ゴールドとカッパーの心理合戦(ココロしあい)

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3.



 転校生などは、熱しやすく冷めやすい我らが日本人にとっては一時のブームになりこそすれ、
一定時期が過ぎれば、その興味の熱もあっという間に醒めてしまう物だ。
 もちろん、『彼女』もその例に漏れなかったが――。

 ある日のことだ。
 悪ふざけをしながら廊下を走っている男子二人組の姿があった。
(あぶねぇなぁ…)そう思いつつ、俺は廊下の端で連中を見ていた。
 その時だ。一人が階段の手前で女子生徒と接触してしまったのだ。
(ほら見ろ、言わんこっちゃねぇ)
 男子生徒と思い切りぶつかってしまい、弾き飛ばされる女子生徒。
(…って、おいッ!?)
「きゃぁぁあっ!」
 しかし、その衝撃は思いのほか強く、階段を踏み外した彼女の体は宙を舞った。
 放物線を描いて、踊り場へと落ちていく女子生徒の姿。
  その現場を見ていた誰しもが、最悪の結果を予測した。
 ―――が。
 颯爽と階下から駆けて来る影があった。
 疾走する人影――『 』だ。
 『 』は女子生徒の落着点を瞬時に見定め、移動。受け止める構えを取る。
 そして、ダァンッと、床を打つ音が聞こえて――。
 俺は、恐る恐る階下の踊り場を覗き込んだ。
 皆が(俺含む)見守る中、女子生徒は『彼(`)女(`)』の腕の中に優しく抱きかかえられていた。
 間一髪、女子生徒を助けた『彼女』――幸菜川美和子は、女子生徒を受け止めた衝撃に耐えきれず、踊り場の壁に背中を強く打ちつけていたが。
 「てて……。大丈夫?」
 自身よりも、まず女子生徒の身を案じ、一声を発したのだった。

 この日の出来事が、幸菜川美和子を『人気者』のスターダムにのし上げる切っ掛けとなる。


 幸菜川美和子は、”ヤヴァイくらい”の『人気者』になった。
『彼女』は、男女分け隔て無く皆を平等に扱い、皆に対し柔和な態度で接し、そして皆に優しかった。その振る舞いと有りようは、まるで女神そのもの。
 こんな人間が、人に好かれないわけがない。
 皆、熱狂的かつ狂信的だった。『彼女』の献身的かつ慈愛に満ちた人柄に。
 俺は、そんな幸菜川美和子の行きすぎた人気者っぷりを見て、(なにかある…)と、直感的に感じた。
 端的に言えば、俺は彼女を”疑っていた”のだ。
「美人な上に、献身的で優しく、気も利いていて、頭も良くて、運動神経もグンバツ(死語)。
怪我人がいれば我真っ先にと駆けつけ手当し、困った人がいれば声を掛けて助けの手を差しのべる。…完璧超人な上に、聖人君子ときたもんだ」
 それが、この一ヶ月間における幸菜川美和子の行動結果に対する俺の評価だった。
 ちなみに、俺は未だに彼女と接点を持てずにいる。
「自分には理解出来ないって顔してるね。そういう人間って意外?」
 そう言うのは八歳だった。
「まぁなぁ。俺は打算と計算で動くタイプだからなぁー。あと、極稀の善意で」
 今は昼休み。
 俺は、教室の隅にある自分の席で八歳と暇潰しがてら『彼女』について話していた。
 件の『彼女』。幸菜川美和子は、俺たちとは対称的に、教室の入り口付近で数人のクラスメイト達に囲まれて会話に興じている。その中には、女子だけではなく、男子もちらほらいた。
 俺は話を続ける。
「まぁ、中にはいるんだろうさ、そう言う見返りを求めない人間って奴がさ。俺は少なくともそんな風にはなれないけど。…面倒は御免だし。それによ、全ての人間を助けるにはこの体と両手だけじゃ限りがある。関わる人間全部を助けるなんて無理。それこそシステムを作る側にでも回らない限りはさ。つぅか、そりゃぁ欲張りってもんだ」
「人を救うなんて、傲慢な考えだってこと?」
「そうだな。幸菜川って、実はそう言う子なのかもよ?」
「高慢ちきな自信家に見えると?ふぅん。僕にはそうは見えないけどねぇー。人は社会を形成して群れる生き物だよ?その中にあって他者を助けると言う行為は、利己的、利他的にしろ自然な事だと思うけど?」
「お前って、たまにそう言う根本を指摘する哲学的なこと言うよな。まぁ、どっちにしろよ、他人を助けた結果って言うのは、回り回って自分に返ってくるもんだろ?結局は自分の為じゃねぇか」
「まぁ、そうだけどね。でも彼女の場合、見返りよりも単純に人の為っていう気持ちが強いんじゃないかなぁ?」
 暢気な笑顔を浮かべて言う八歳。その表情に底意は窺えない。
 神童八歳とはこう言う奴だ。感じたままの事を、『色』を塗らずに言う。自分の『色』も、他人の『色』も塗らずに、無色透明のままの『事実』だけを言う。
 八歳の言うことは、往々にして核心を突いているのだが…。
 なにより――『打算』と『計算』がないのが弱点だった。
 そう考えると(純粋すぎるんだよなぁ、こいつは…)と思う時があるのだ。
(人の為、善意の献身ねぇ…。それほど単純そうには見えないけどな、あの子は。俺の『嗅覚』は”黒”だって言ってるぜ…)
 そう考える俺は、年の割に擦れているのだろうか。だが無理もないのだ。
 俺の父親は政治家だ。善意の様に見える言動と行動の裏には当然、打算と計算、戦略と権謀術数が張り巡らされている。互いに利を分け合い、時に奪い合う。綺麗ごとでは済まされない人間社会の暗部と表の境界線で立ち回る事を生業にしている人だ。
 当然、そんな父の名代を継ぐべく俺は幼い頃より、それに特化するための勉強に励んできた。
 帝王学、政治哲学、地政学、交渉術、心理学、読心術、読唇術etc…。
 親の薦めもあったが、幸か不幸か性に合っていたようで、俺は知識欲を満たす行為の傍ら、勉学にのめり込んでいった。おかげで今じゃあこんな有様だ。
 人を穿って見て疑う、善意を純粋に信じられない皮肉屋の少年。鳳暁――。その完成だった。
 自分でもたまに…(なんでこんな風になっちまったのかなぁー…)と思う時がある。
 その時、ふと幸菜川美和子と目があった。
(お…?)
 彼女はニコリと笑って俺達に微笑みを投げかけてきたのだ――ほんの一瞬だが――そして、すっと目線を逸らし、皆との会話に戻っていった。
 きょとんとしていたのだろう。そんな俺を見て八歳が。
「よかったねぇ、暁」
「何がだよ?」
「君みたいに疑い深いチャラ男にも、彼女は例外なく優しさを向けるようだよ?」
 まるで、人の心を見透かしたような物言いだった。
 図星を突かれて内心ムッとしたものの。俺は、自嘲気味にふっと笑みを浮かべ。
「ハハハ。冗談も加減を過ぎると侮辱になると知った方がいいぜ、アミーゴ?つか、クデぇ」

 おそらくこのまま行けば、俺は『彼女』となんら接点を持たないただのクラスメートで終わることだろう。
何より『彼女』は美人だ。高嶺の花すぎる。声を掛けるなんて恐れ多い。なにより、『彼女』に近づいて目(`)立(`)つ(`)のは勘弁だ。自分の信条に反する。
(俺も特段、言うほど別に仲良くなりたいって訳じゃないんだよなぁ、別に…)
『手に入らない柿の実は、渋くてマズイに決まってる』そう思う狐の心境であった。

 数日後。突然転機はやってくる。