科学少女プリティミュー
「見た目はって……?」
「中身は血だよ、血」
グ、グロイ!
瑞々しいトマトの中には女性の血がいっぱいに詰まってるのだ。
とってもグロイよトマトさん。
真面目モードでアインはミユを見つめる。
「これはジョーカーの仕業なんだ」
「なんでこんなヒドイことを……」
「彼ら怪人はみなキメラ生物なんだ」
「キメラ生物?」
「遺伝子操作をされた合成生物さ。今回もその実験の一環かもしれない」
全世界できっと猛威を振るってると思う秘密結社ジョーカー。まだまだ謎だらけの組織だが、なぜアインは奴等と戦っているのか、やっぱりフィギュア集め?
「というわけでバイト君、いざ出動だよ」
また唐突な出動命令だ。
「はぁ?」
「はぁじゃなくて、ハイだろ。とにかく出動だよバイト君。今回の任務はこのクランケをこんな姿にした怪人をフィギュア化することだよ」
「はぁ?」
「そうだ、今日は良いアイテムを持ってきたあげたんだ。ちょっとキミのケータイ貸してよ」
「はぁ?」
「早くケーター貸してよ。まさかケータイ持ってないとか言う原始時代的なことはいわないよね?」
「はぁ?」
完全にミユ置いてけぼりで展開している。
ミユはなんとなくケータイをアインに手渡した。するとアインはケータイの端末からデータをインストールしてミユに返した。
「これで完了だよ」
「なにが?」
「さっきから理解力不足だよバイト君」
本当に理解力とかも問題だろうか?
「ちゃんと説明してよ」
「仕方ないなぁ、一回しか言わないからちゃんと聴くんだよ。ケータイに777と打って『サイエンスパワー・メイクアップ!』と叫ぶんだよ。ちなみに叫ぶときにケータイを頭の上に掲げるとカッコイイよ」
「はぁ?」
「とにかく実践だよ。やってみなよ」
「はぁ……」
ため息をついてミユは言われたとおりやってみた。
「サイエンスパワー・メイクアップ……」
ちなみにダルイのでケータイは掲げなかった。
しかし、やっぱりなんか起きた!
突如眩く光り輝くミユの体。重力無視でふわりと浮き上がり、クルクル回転しながら体の周りになにかが巻きついていく。ちなみに光輝くシルエットで、BからDに豊胸されたバストが強調される。
「な、なに!?」
ミユが驚いているうちに変身完了。
なんとミユはいつの間にか白いゴスロリ姿に変身していたのだ。
科学少女プリティミュー見参!
驚いているミユにアインが補足説明。
「ちなみに変身時、ちょっとだけ裸になるからね」
「はぁ!?!?」
本日で一番デカイ『はぁ』だ。
「大丈夫だよ、キューティー蜂蜜と違って輝いてるからモロ見えしないよ」
そういう問題なのか、輝いていても公衆の面前で変身したら、素っ裸になることには変わりないような。
アインがミユの背中をポンと押す。
「とにかく早く出動して怪人をフィギュアにしておいでよ」
「だからなんであたしが……」
「バイト君、起爆スイッチがドーンとか以前に、キミはボクに月収100万で雇われてるんだよ、忘れてないかい?」
ミユがバイト君と呼ばれる由縁。バイトしてるからバイト君。そのまんまだ。
「忘れてないけど……」
「今月の給料は前払いしてあげただろ」
「そ、そうだけどぉ……」
ミユの心の天秤が揺れる。
怪人と戦うか、100万円を手に入れアインに起爆スイッチを押させないか……。
「やる! あたし行ってきます!」
即決した。
なぜってすでに前払いされた100万円の一部を使い込んでしまっていたから。
「物分りが良くて助かったよ。それでは出動したまえバイト君」
「はーい、頑張って行ってきま〜す!」
給料を返せない痛さから、ミユは行くしかなかった。作り笑いを浮かべて。
でも、病室を駆け出そうとしたミユが急ブレーキ。
「ちょ、ちょっと待って、行くってどこに?」
「そのくらい自分で考えなよ」
「はぁ?」
なんの手がかりもない。被害者の女性はすぐそこで光合成をしているが、口を聞ける状態じゃなさそうだ。まるで本当に植物になってしまったように、魂が抜けている。
そのとき、ミユのケータイの着信が鳴った。
「知らない番号からだ」
ナンバーディスプレイは非通知でもなく、登録してある番号でもなく、090からはじまる誰かのケータイからのようだった。
「もしもし?」
通話に出てミユが尋ねると、電話の向こうから悲痛な叫びが!
「助けてセンパイ!」
「誰!?」
「メグです……助けて……」
そこで通話はツーツーツーと切れた。
「番号教えてないのに……」
さすがはストーカーだ。
しかし眼鏡少女メグの身にいったいなにが?
てゆーか、わざわざなせミユに助けを求めたのだろうか?
てゆーか、助けに行きたくてもどこにいるのかわかんねぇーよ!
「知り合いの子から助けてって電話がきたんだけど?」
ミユはアインに顔を見合わせた。
「ふむ、正義のヒロインは困ってる人を助けに行かなきゃいけないよ」
「でも場所がどこかわからないから」
「相手の電話番号はわかるかい?」
「うん、着信履歴が残ってる」
「見せたまえ」
ケータイに表示された番号を見るや、アインはランドセルからパソコンを取り出し、キーボードを連打しはじめた。
けれど、その動きもすぐに止まる。
「ホウジュ区だね、キミが通ってる学校の近所らしい」
パソコン画面を見るアインの横でミユも画面を覗いた。そこには地図と赤く点滅する点が表示されていた。ケータイのGPS機能でメグの居場所を突き止めたのだ。
パソコンをランドセルにしまって駆け出すアイン。
「行くよバイト君!」
「えっ、う、うん」
アインを追いかけてミユも病室を飛び出した。
病院内では入っちゃいけないのにね!
ワトソン君の運転する車ですぐに現場に向かう。
カーナビには先ほど調べたメグの居場所が表示されている。
が、ワトソン君はカーナビを見ながら焦っていた。
「相手が移動してるにゃ!」
アインは後部座席から身を乗り出してカーナビを見た。
「移動してるね。たぶん車かな」
相手が一箇所に留まっていないとなると厄介だ。車で車を追いかけるのは物理的に難しい。
けど大丈夫、こっちには自称天才科学者アインがついている。
「高速ならジェットエンジンで追いかけるけど、住宅街じゃムリだね」
自称天才さじを投げる。
うはっダメじゃん!
なにか言い手はないのか?
ワトソン君が気付く。
「止まったにゃ」
追いかけている相手が止まった。
信号待ちかと思ったが、どうやら違うらしい。大型スーパーの敷地内で赤い点が止まっている。
まさかお買い物かっ!
今晩のおかずを買うつもりなのかっ!
今晩の夕食はカレーなのかっ!
これは好都合だ。相手がお買い物をしている間に追いつける。本当に買い物をしているかは、カーナビからは皆目不明だけど。
本当に買い物をしているのか、相手はまったく動く様子がない。その間にミユたちを乗せた車は目的地に着いてしまった。
夕方の買い物客が多いこの場所に、本当にメグがいるのだろうか?
アインは車の窓から外の様子を窺った。
「アレ、怪しいね」
作品名:科学少女プリティミュー 作家名:秋月あきら(秋月瑛)