科学少女プリティミュー
視線の先にあるアレとは、大型の車だった。その周りには人が集まっている。それは献血車だった。
カーナビの位置から見ても、あの献血車の位置をピッタリだ。
けど、どうしてあんな場所にメグがいるのか?
まだいるとは決まったわけじゃなく、電源が入ったケータイがあるだけかもしれない。
とにかく確かめなきゃいない。
さて、ここで次の行動が重要になってくる。
が、アインは即決だった。
「それではバイト君、献血者を装って行って来たまえ」
「ヤダってば、あたし注射苦手だもん」
「本当に献血をする必要はないよ、ちょっと中の様子を見てくればいいよ」
「だったらワトソン君の方が適役のような」
ミユはワトソン君に顔を向けたハズだった。なのにいない!
隠れられた!
そうやらワトソン君も注射が苦手らしい。
仕方なくミユが行くことになり車から降りた。
そこでミユは重大なことに気付いた!
しまったプリティミューの衣装のままだ!
恥ずかしさで顔を真っ赤にしながらミユは車の中に戻ろうとした。
ド、ドアが開かない!
閉められた!
閉め出された!
鍵を閉められた!
「中にいれてよ!」
ドアをドンドン叩くもシカト。ミユの超合金パンチでもへこまない車は素晴らしい。
声を張り上げて車を殴っていたことで、ミユは周りの視線を集めてしまった。
もうここまで人の注目を浴びたら行くしかない。
今さら着替えてもムダだ。
なので、ミユは俯き加減で献血車に向かって歩き出した。
献血車の前に出来ている短い列にミユも律儀に並ぶ。
献血を受けるヒロインの姿は社会に貢献してるよね!!
ミユの番が来て車の奥に通された。
そこには白衣にサングラス姿の老人の姿があった。見るからに怪しい臭いがプンプンだ。
サングラスの下で笑う口と、手に持った注射器が不気味だ。
丸椅子に座らされ、ミユはいつの間に看護婦に腕を消毒されていた。
マズイ、このままでは本当に献血してしまう!
「あの、あたし献血しに来たんじゃないんです!!」
「このお嬢ちゃんを抑えろ」
と、老人は注射器を構えて行った。なんて強引な医者だ。
いや、そもそも本当に医者なのか?
医者だとしても見るからに藪医者っぽいぞ。
押さえつけられたミユは必死に抵抗しようとするが、なぜかこの看護婦力が強い。
「放して!」
暴れてミユは老人の腹を蹴っ飛ばした!
ヤバイ、プリティミューのキックは殺人キックだ。相手が老人なら粉骨爆砕してしまう。
蹴られた老人は後ろのカーテンを破りながら吹っ飛んだ。
マズイ、殺してしまったかもしれない。
が、老人は何事もなかったように立ち上がった。ご老体のクセして強いぞ。もしかしてボケで痛みも感じないのか!?
「ケケケッ、お主ただの人間ではないな?」
尋ねる老人のほうがきっとただの人間じゃない。
ミユは質問をオウム返しした。
「あなたこそ何者!」
「よくぞ訊いてくれた。わしは偉大なるジョーカーの怪人蝙蝠伯爵じゃ」
「ジョーカー!?」
しまった、こんな場所でジョーカーの怪人に出遭うなんてついてない。
狭い車の中に閉じ込められたミユに逃げ場はない。
しかも、さっきまで看護婦だった人が全身タイツの男に変わってる。ミユの視線は全身タイツの股間に注目だ。モッコリしてる!
前回の蜘蛛男同様、ミユはどーしてもモッコリした股間に目がいってしまう。
ダメだ、可憐な乙女が戦闘員の股間ばかり見ちゃダメだ。
ミユは必死になって股間から目を放した。すると、その視線の先には床に倒れた人影があった。
先ほど蝙蝠伯爵が破ったカーテンの後ろに隠されていたのは?
「メグちゃん!」
やはりメグはここに拉致監禁誘拐されていたのだ。
困ったことにメグは気を失っている。
困ったことにミユは2対1だ。
困ったことに気付けばミユも車に拉致監禁!
どうするプリティミュー!
絶体絶命のピンチを迎えちゃったミユの運命はいかに!
どうするもなにもない。
「逃げなきゃ」
ミユはアクションコマンド『とんずら』を発動。
しかし逃げられない。
大きな車とはいえ、やっぱり逃げ場がないほど狭い。
しかしやっぱり逃げる。
強引にでも逃げる!
戦闘員Aに顔面パンチを食らわせ、閉まっている出口にプリティミューキック!
なんて必殺技はないけど、とにかく蹴りを食らわした。
吹っ飛ぶドア。飛んだドアの先に通行人がいないことを祈りつつ、ミユは見事脱出成功ミッション1クリア。
ミッション2は追いかけてきた蝙蝠伯爵をどうにかする。
追いかけてきた蝙蝠伯爵が白衣を投げ捨て、タキシード姿に変身した。
「ケケケッ逃げてもムダだ」
蝙蝠伯爵と向かい合うミユ。
「もうこうなったら戦うけど、そんなことよりなんで陽が出てるのに平気なの?」
蝙蝠伯爵のバックには沈みかけている太陽がある。
「わしは蝙蝠伯爵、吸血蝙蝠であって、吸血鬼ではない」
納得の答えだ。
てっきり雰囲気的に吸血鬼だと思っていたミユのミスジャッジ。
「ややこしい怪人だなぁ、もぉ!」
勝手に間違えたのだから逆ギレだ。
いつの間にか辺りには買い物客たちで人だかりができていた。
ケータイカメラでバッチリ撮られてる。
駅前とか遊園地のヒーローショーのノリだ。
「頑張れプリティミュー!」
野次馬の中から声があがった。すでに正体バレてるし。てゆか、ローカルヒロインなのに、もう知れ渡ってるとは情報社会って怖い。
バレてるついでに蝙蝠伯爵にもバレた。
「お主が蜘蛛男を倒したプリティミューか!」
「……ええっと、まあ成り行きで……」
「お主がプリティミューと知ったからには、その首を持って帰らねばならん」
「マジで!」
秘密結社ジョーカーを完全に敵に回してしまったミユ。一昨日までの平凡な生活サヨウナラ。
頑張れ、負けるな、くじけるなプリティミュー!
逆境に負けずに悪に立ち向かうのだミュー!
と、いきたいところだったが、なんとここで重大な問題が発覚。
ミユは自分の両手を見た。
……素手だった。
丸腰=素手=ピンチ!
焦るミユは作戦を考えた。
名づけて時間稼ぎ。ポピュラーな作戦のひとつと言えよう。
「えーっと、戦いをはじめる前にいくつか質問があるんだけどいい?」
質問攻撃だ!
これを有効に使えば敵に精神的ダメージを与えられるかもしれない。
「どうして献血なんてしてたの?」
攻撃力の弱い質問だった。
「若い乙女の血が好物なのだ。お主の血も味わってくれる、ケケケッ」
近づこうとしてくる蝙蝠伯爵に、ミユは手を突き出して待ったをかけた。
「ちょちょ、ちょっと、まだ質問は終わってなくて、あの、その、えっと……」
質問が思いつかないミユは、逆に精神的に追い込まれてダメージを受けそうだった。
そんな困ったミユの元へ、野次馬を掻き分けて白衣の少年が現れた。
「なら代わりにボクが質問しよう」
アインだった。
「蝙蝠伯爵と言ったね、トマトの遺伝子を植え付けられた患者がいるんだけど、ボクはそれがジョーカーの仕業と睨んでるんだけど、どうかな?」
作品名:科学少女プリティミュー 作家名:秋月あきら(秋月瑛)