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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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科学少女プリティミュー

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 苦しすぎて窒息しそうになる言い訳だ。
 眼鏡の奥でミユを見つめる瞳は疑い一色。
「センパイがプリティミューですよねぇ?」
「だ、だとしたら……?」
「わたしファンなんです!」
「はぁ?」
 ファンとのファーストインパクト。
 昨日まで普通の中学生だったのに、人生180度回転。顔の見えないファンが、あとどれくらい、いることやらわからない。
 このままでは、突然知らない人にプレゼントを押し付けられたり、後ろを振り返ったらストーカーに追っかけされそうだ。
 やっぱり認めちゃいけない。
「だからあたしプリティミューとかじゃないし、今日はじめて名前聴いたし……」
「やっぱり正義の味方は自分の正体を明かしちゃいけないんですね!!」
「えっと……そうじゃなくて……」
「でも絶対にわたしがセンパイがプリティミューだって証拠を見つけてみせます!」
「あはは……そう」
 マズイ展開だ。下駄箱にミユの乾いた笑いが響き渡った。
 コッソリ靴を履いて、コッソリ後ろにミユは下がる。
「あたし急に急用があるような気がしてきちゃった。またね!」
 できれば『また』はないで欲しい。
 ミユは逃げた。
 その背中に声がかかる。
「わたしの名前メグっていいます!」
 眼鏡少女メグ。
 記念すべきプリティミューの追っかけ第1号だ。
 てゆか、ストーカー第1号!?
 後ろから付けてきてるし!
 下校するミユの後をストーキングするメグ。電信柱の影に隠れているが、ストーキングする前から気付かれているので、今さら隠れてもバレバレだ。にも関わらずメグは私立探偵気分で隠れたつもりになっている。
 どうしちゃうミユ!
 どうやってメグを撒く!
 人間以上のスピードで走れるミユだけど、そんなスピードで走るわけにもいかない。そんなの自分は人間じゃアリマセンと言ってるようなもの。
「……カミサマ助けて」
 なんとなく祈ってみる。ミユは無宗教だが、きっと心の広いカミサマなら助けてくれるだろう。
 そんなミユに救いの手が!
 白いワゴンがミユの真横に止まり、開いたドアから巨大マジックハンドが伸びた!
 そして、ミユは救いのマジックハンドによって、車内に引きずり込まれてしまった。これって救いなのか?
 救いの手というより、魔の手かもしれない……。
 車内でミユを待ち受けていたのは、光り輝く巨大な瞳。
 その正体は!
 白衣の眼鏡少年。背負ったランドセルから伸びたマジックハンドがミユを捉えている。こんなギミックを使うミユの知り合いはひとりしかない。
 自称天才科学者のアインだ。
「やあ、バイト君」
 未だに名前を覚えてもらっていない。
 てゆーか、町中で突然車の中に連れ込まれるのは人攫いだ。
 そんなことより、車を運転してるのネコだし!!
 アインの助手のワトソン君だ。もちろん、『ワトソン』が苗字で『君』が名前だ……んなことはない。
 最近はサルでも運転できると告知を打つ車のCMもあるが、ネコが車を運転するのは想定外だ。
 てゆーか、ワトソン君人語話すし!
「ミユさんこんちわにゃー」
「こんにちわとかそんな問題じゃなくて、どーしてあたしさらわれてるワケ!?」
 アインの眼鏡がキラリーンと光る。
「説明しよう。新たな怪人が現れたらしい。ぜひともボクのコレクションに加えたいね」
「ハァ?」
 嫌悪感全快モードのミユにすかさずアインが呟く。
「ドーンと行くよ」
 ミユ封じ&言うことを聞かせる呪文だ。
 体内に爆弾を埋め込まれたミユは、アインの意志でドーンと逝ってしまう。
 しかし、ミユにも考えがある。
「やれるもんならやってみなさいよ、こんな場所で爆破したらあなたも巻き添えなんだから!」
「……バイト君、頭よかったんだね」
 うはっ、絶対バカにしてる。言い方がバカにしてる。
 年下なのにバカにされてる!
 ちなみに年下と言うのは憶測。見た目的にはガキンチョだが、実年齢はまだ聞いていない。親しき仲にも礼儀ありってやるだね(言葉の使い所を間違ってる&まだそんなに親しくない)。
 バカにしている証拠にアインはすでに切り返しを考えていた。
「しかしね、バイト君。ボクに起爆スイッチを押させないためには、キミが常にボクの近くにいることが最低条件になるよ。さて、それでは今回の任務について話そうかな」
 もう前の話おわりですか?
 切り替え早すぎですよアインさん。
 完全にミユ無視の方向性でアインは話し続ける。
「もちろんバイト君も知っていることとは思うけど、夜間に独り歩きをしている女性が、車に連れ込まれ血を抜かれるという事件が多発している」
「……知らないし」
「その犯人がジョーカーの怪人らしいんだ」
 またミユの発言はムシである。
 ミユが知ってようが、知らなかろうが、どーでもいいのだ。どっちにしても話はミユを置いて進み続ける。
 車の運転を続けていたワトソン君が、車を停めて振り向いた。
「ついたにゃ」
 どこに?
 ミユは窓ガラス越しに外の景色を眺めた。
 十字のマークを掲げる白い建物。
 ミユはいつの間にかホウジュ区からカミハラ区に移動し、帝都随一の大病院に来ていたのだ。
 病院の名前は帝都病院。政府公認の病院のクセして、腕さえあれば無免許でも雇うとんでもない病院だ。
「で、ここになんの用?」
 と、尋ねるミユにアインは微笑んだ。
「着いて来ればわかるさ、ここに被害者が入院してるんだ」
 ワゴンを降りて歩き出すアインのあとをミユは急いで追っかけた。

 病院ロビーについたアインは辺りを見回す。白衣を着ているが医者ではない。ランドセルを背負った医者なんかいますか!
 帝都にならいるかもしれないけど。
「あっちだね」
 と、前置いてアインはスタスタと歩きはじめた。
 どこに行くかわからないままついていくミユ。ちなみにワトソン君は車でお留守番。お留守番もできるなんて、エライネコだね!
 アインたちがたどり着いたのは、一般病棟ではなくだいぶ奥まった隔離病棟。
 IDなどがないと入れない場所なのに、アインはIDカードを差し込み、静脈認証まで済ませて先に進む。
 アインって何者なの?
 なんて疑問がミユの脳内に浮かぶ。
 白い扉が左右に開け、患者のいる個室に入った。
 部屋は一般病棟の個室と変わらず、窓から景色も望める。比較的軽く、逃亡の心配のない患者が入れられる場所だろう。
 逃亡の心配がないというのは確かだろう。
 ミユは日当たり良好な窓辺に立つ患者を見て息を呑んだ。
 植えられてる!
 まるで患者は植木のように鉢植えに足を突っ込んでるのだ。
 しかも体調が優れないのか、顔色が悪い。そう、まるで葉緑体で色づいているみたいに、草色をしている。
 ま、まさか!
「植物人間!?」
 芸人みたいに声を張るミユ。
 ミユの勘は正しいかもしれない。
 なぜならば、鉢植えに植えられた女性の指先から、実がなっている。赤くて瑞々しいトマトがなっているじゃありませんか!
 トマトマンだ。女性なのでトマトウーマンだ。トマトはフルーツだ!
 アインは意識がないトマトウーマンの傍に行って、トマト(仮)を指さした。
「コレ、なにに見えるかい?」
「トマトでしょ?」
「見た目はね」