科学少女プリティミュー
第2話_蝙蝠伯爵だよプリティミュー!
帝都の夜に潜む悪。
仕事帰りのOLに忍び寄る影。
痴漢でも通り魔でもない。
キャンピングカーみたいなシルエットが近づき……通り過ぎた。
思わせぶりかよ!
あっ、バックで戻って来た。
戻って来た車のドアが開かれ、OLはあっという間に車内に引きずり込まれてしまった。
「きゃ〜〜〜っ!」
OLの叫びが車の中に木霊した。耳がキンキンして、耳鳴りになってしまう。大変だ。
違う、車の中に連れ込まれたことが大変だ。
OLをさらった相手はきっと変態だ。
なぜって!
白衣に聴診器装備。
お医者さんごっこ!?
やっぱり変態だ。
白衣の上で蒼白い老人の顔が嗤っている。
「ケケケッ、美味そうな娘だ」
老人の口から長く伸びた歯が覗いている。
まさか、その歯で女性の首元を……。
ブスッと!
OLの首筋にぶっとい注射針が刺さった。
歯は見せかけかよ、思わせぶりかよ、期待はずれかよ!
注射器が女性の血を吸っていく?
もともと注射器の中は真っ赤な液体で満たされていた。
血を抜いているのではなく、謎の液体を注入しているのだ。
いったいなにをされているのか?
OLの意識は闇の底に落ちた。
そして、老人の笑い声が木霊する。
「ケケケッ……ゲホゲホッ!」
笑いすぎて咳き込んだ。
お爺ちゃんムリしないでね♪
一瞬、意識が堕ちかけたOLは目を覚まし、老人が咳き込んでいる間に逃げた。
車を飛び出し、人通りの多い繁華街に逃げる途中で、また意識が遠のく。
そして、今度こそ本当にOLは気を失ってしまった。
地面に倒れるOLに忍び寄る男の影――。
ミニマム学院女子中等部2年――ミユ。
ひょんな出来事からサイボーグにされて10万馬力。バストはBからDにアップしてラッキーと思いきや、実は合成樹脂の作り物。
そんでもってなぜか怪人と戦うハメに……。
帝都の平和を守るため、それゆけ科学少女プリティミュー!
なんていうのは嘘っぱちで、実は変人科学者アイン・シュタインベルクの趣味、フィギュア集めがメインだったりする。
改造されても、怪人と戦うハメになっても、やっぱり学校には行かなきゃいけない。
でも、ごく普通の学生生活は営めそうになかった。
体育でバレーをやったら、殺人サーブで本当に殺人をしかけ、女子生徒をひとり病院送りに……。
友達の肩を軽く叩いたつもりが、肩が外れて脱臼で病院送りに……。
もう嫌だと逃げ出せば、早く走りすぎてコンクリの壁を突き破る。器物損壊で逮捕されると思いきや、偶然にも誰にも見られず、壁に空いた穴は巨大モグラがやったと話は丸く収まった。
そんな問題累積のミユ。
しかし!!
本当の問題はアレだった。
怪人横ち○男――もとい、怪人蜘蛛男と謎の美少女との戦い。もちろん謎の少女とはなにを隠そう、パンツ隠さず顔隠さずのミユだった。
プリティミューとして戦ったミユの姿が、数分後にはネットでバラ撒かれ、数時間後にはホウジュ区のローカルニュースでテレビ進出を果たし、翌日には科学少女プリティミューファンクラブが発足した。
学校で否普通に過していたミユだが、病院送り事件を起こしたことに関わりなく、なぜか周りの視線が熱かったり寒かったりする。その理由はなぜってこともなく、プリティミュー=ミユの公式が、生徒たちの間で伝染していたからだ。
プリティミューのパンチラ写真や映像が、そこら中に出回っているせいか、それとも『えっ、ミユちゃんてゴスロリの趣味があったの!?』という嫌煙か、誰も直接ミユにプリティミューの正体について訊かなかった。
訊きたいのに訊かないという、周りの雰囲気を感じるミユは、そんな態度するくらいなら訊いてくれモジモジ気分。蛇の生殺しのようなものだ。
そんな感じで学校での一日が終わろうとしていた。
教室をさっさと出て帰宅をしようとするミユ。
このままでは友達をなくしてしまう――クラス全員病院送りにして、学級崩壊。
どーにか対策を練らなきゃいけない。なので今日はこれ以上怪我人を出す前に帰宅。
しようかと思ってる矢先、ミユとは色違いの制服を着た女子生徒が廊下を爆走してくるではないか!?
この状況でミユが確認できる事項は、制服の色から判断して、走ってくる相手は一個下の1年生だということだ。それ以上の情報は皆無。けれど、なぜかミユは逃げた。
改造人間にされても、やっぱり人間いざというときの第六感。
ビビッと危険を感知したミユは逃亡した。まだ悪いこともしてないけど逃亡。器物損壊をモグラのせいした罪もあるけど、1日で友達を二人も病院送りにしたけど、とりあえず走ってくる女の子には悪いことをしていない。
と、思う。
「待ってくださいゼンパーイ!」
後ろから聞こえる声にミユは耳を塞いだ。
聴こえない聴こえない、きっと幻聴。
改造されて聴力が良くなっていたとしても、聴こえない聴こえない。
人間思い込みが大切だ。
「きゃぁっ!」
後ろから悲鳴が聴こえ、思わずミユは足を止めた。
振り返るとアノ女子生徒が大の字になってコケていた。スカートがめくれて、パンツ丸出しだ。
もうすぐミユは下駄箱を出ることができる。アノ女子生徒がコケている今が、振り切って逃げ切るチャンスだ。
ミユの良心VS悪心!!
ズッコケタ女の子を放っておけない。という良心。
ズッコケタのは自業自得のおっちょこちょいだ、そんなドジ置き去りにして逃げちまえ。という悪心。
二つの心の狭間でミユは動けなくなってしまった。
そんな葛藤している間にミユの背後に忍び寄る謎の影!
「センパイ!」
元気ハツラツな声の主は、コケていたはずの女子生徒!?
女子生徒は眼鏡の奥の瞳をキラキラ輝かせている。
しまった、葛藤している間に復活してしまったらしい。
純粋な人間のころから脚の早かったミユだが、改造後の今ならまだ逃げる余地はある。
けれど、これだけの至近距離に迫られた今では『センパイって自分のことだったの? てっきり別の人を呼んでるのかと思っちゃったテヘッ♪』という言い訳もできない。
無理やり逃げて感じ悪い人と思われたくない。
なのでミユ・スマイル炸裂!
「どうしたの、あたしになにか用?」
と白々しく訊いてみるテスト。
「センパイの正体って科学少女プリティミューですよねっ!」
縮髪強制にも優るとも劣らないストレートだった。
今まで周りは訊きたくても訊かなかったのに、なんて清々しいクエスチョン。
思わずミユも『うん♪(音符マーク重要)』と答えそうになったが、ゴクンと言葉を呑み込んだ。
「だ、誰それ?」
知らないフリをしてみるテスト。
「わたし今写真持ってます」
女子生徒がポケットから取り出した写真は紛れもなくプリティミュー。ネットで複製に複製を重ねられているパンチラ激写シーンだ。
写真を前にしても、まだ認められない。
「世界には自分に似た人が三人いるとかいないとかいうけど、その写真の人あたしにソックリ。でもあたしのほうが髪の毛がちょっと長いかな」
「同じ髪型に見えますけど?」
「1センチ、0.5センチ……1ミリくらいあたしの方が長いかな……あはっ」
作品名:科学少女プリティミュー 作家名:秋月あきら(秋月瑛)